著者
田川 基二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.250-262, 1936-12-15

143. コガネシダモドキ(新稱) Woodsia Saitoana TAGAWA はコガネシダ W. macrochlaena METT. によく似てゐるが,葉柄の關節は中部より少し上にあり,羽片は上部のものを除き無柄で中軸に沿着せず,嚢堆も少し小いから別種である.朝鮮咸鏡北道羅北(齋藤龍本)及び冠〓峰(大井次三郎)で發見せられた新種.學名は原標本の採集者齋藤氏を記念したものである. 144. イヌイハデンダ(新稱) Woodsia intermedia TAGAWA はイハデンダ W. polystichoides EAT. とコガネシダ W. macrochlaena METT. との中間に位するもので,どちらかといへばイハデンダに近い.葉柄には鱗片が少く,中軸及び羽片の下面には毛に混つて極めて疏に毛状の鱗片があり,上部の羽片は明に中軸に沿着してゐるからイハデンダとは異る別種である.原標本は小林勝氏が旅順の老鐵山で採集せられたもの.又内山富次郎氏は京城の南山で,吉野善介氏は備中國上房郡豊野村でも採集せられてゐる. 145. カウライミヤマイハデンダ(新稱) Woodsia pseudo-ilvensis TAGAWA はミヤマイハデンダ W. ilvensis R. BR. に頗るよく似てゐるが,葉柄には長軟毛がミヤマイハデンダに於けるよりも密に生じ,關節は葉柄の中部より上にあり,葉柄基部の鱗片は幅廣く,中軸及び羽片中肋の下面には毛状の鱗片が極めて疎に生じ,包膜は皿状で不規則に尖裂し長縁毛があるから別種にした.齋藤龍本氏が朝鮮咸鏡北道魚遊洞で發見せられたもの. 146. オホイハデンダ(新稱) Woodsia longifolia TAGAWA はヒメデンダ W. subcordata TURCZ. に近縁のものであるが,全體に強壮で葉柄も長く太く關節はその頂端にあり,葉身は線形で時に長さ30cm. 幅3.5cm. にも達し,羽片も長く,葉柄及び中軸に毛も多く,包膜の邊縁にある毛は長い.本種及びヒメデンダの葉柄は元來その頂端に關節があるが,最下の羽片は縮小し且つ脱落しやすいから,この羽片が脱落したときには關節は葉柄の途中にあることになる. 147. ホソバミヤマイハデンダ(新稱) Woodsia ilvensis R. BR. var. angustifolia TAGAWA はミヤマイハデンダの狹葉の變種で,葉身は線形又は狹披針形,長さ8-12cm. 幅1.5-2cm. 齋藤龍本氏が朝鮮咸鏡北道朱乙温で發見せられたもの. 148. ケンザンデンダ Woodsia tsurugisanensis MAKINO の切込みの少いものは北支那の W. Hancockii BAK. に一致し,切込みの深いものは同じく北支那の W. gracillima C. CHR. に一致する.畢竟この三種は同一種で,カラフトイハデンダ W. glabella R BR. の變種であらうと思ふが,今しばらく別種にして Woodsia Hancockii BAK. をその學名に採用しておかう.日本では阿波の劔山が唯一の産地である. 149. トガクシデンダ W. Yazawai MAK. はカラフトイハデンダ Woodsia glabella R. BR. と同種である.日本では樺太,北朝鮮,本州中部の高山(戸隱山,八ケ岳,横川岳,北岳等)にあるが,滿洲,支那(甘肅省),ダフリヤ,カムチヤツカ,ベーリング地方,西伯利亞,歐州中部及び北部,北亞米利加と分布の頗る廣いものである. 150. オホヤグルマシダ (土井氏新稱) Dryopteris Doiana TAGAWA は臺灣のマキヒレシダ D. cyrtolepis HAYATA によく似てゐるが,葉は大きく,羽片の先端は長く尾状に伸長し,裂片の邊縁には不規則に齒牙状の鋸齒がある.成熟した嚢堆の包膜は縱に二ツに裂けてゐるが,この特徴は近縁のヲシダ D. crassirhizoma NAKAI やミヤマクマワラビ D. polylepis C. CHR. には見ぬところである.川村純二氏が薩摩國櫻島の湯之で發見せられたもの.學名は九州南部の植物調査に多大の功献をせられ且つ和名の命名者たる土井美夫氏を記念したものである.
著者
田川 基二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.132-148, 1935

86. ヒメムカゴシダ(荒木) 本種はムカゴシダ Monachosorum subdigitatum Kuhn とオホフジシダ M. flagellare Hayata との中間に位置するものである.オホフジシダより遙に大く,中軸上に無性芽のできる點が最も顯著な異點である.丹波國船井郡長老嶽で荒木英一氏の發見せられたもの.學名は同氏を記念して Monachosorum Arakii Tagawa といふ. 87. タイワンハシゴシダ(新稱) 琉球のオホハシゴシダ Dryopteris hirsutipes C. Chr. に似てゐるが,葉柄は栗色,其の基脚には長い軟毛の代りに鱗片があり,羽片の裂片は狹く全縁で側脈の数は約7-8對,包膜は小い,臺北の北方竹子湖や北投方面にある.學名は Dryopteris castanea Tagawa と云ふ. 88. タイワンハリガネワヲビ 一名 ウライチシダ Dryopteris uraiensis Rosenst. が發表せられたのは1915年7月28日,その type locality は臺北州文山郡の蕃地ウライである.又 Dryopteris hirsutisquama Hayata は同年11月25日に發表せられ,その type locality はウライから西南に3里とはなれてゐないトンロクとリモガンとの間である.兩種は全く同種であるから Dryopteris uraiensis Rosenst. が有効な學名である.ヤハラシダ Dryopteris laxa C. Chr. に似たもので臺灣の特産. 89. イタチベニシダ イタチベニシダはイタチシダ Dryopteris varia O. Ktze. の一種でキノデ屬 Polystichum に入れておくよりも廣義のヲシダ屬 Dryopteris に入れて置く方が適當であるから學名を Dryopteris hololepis (Hayata) Tagawa と改めた.イタチシダの類は分類上の位置の確定しないものであるが近年はヲシダ屬に入れる學者が多くなつてきた. 90. サカゴケシダ一名 ミンゲツシダ サカゴケシダとミンゲツシダとは同種である.多数の標本を比較した結果この兩種は區別の出來ぬものであることを知つた.學名は一年早く發表せられた Dryopteris reflexosquamata Hayata を採用すればよい. 91. タイトウベニシダ(新稱) ベニシダに比較すれば葉柄の鱗片は少く中軸及び羽片の中軸は平滑且つ羽片には著い柄があり,又ナガバノイタチシダに比べて葉柄基部の鱗片はその質薄く羽片や小羽片の形も異り包膜は小い.臺東から高雄州に出る知本越道路に沿ふ霧山と知本山との間で發見した新種である.學名は Dryopteris taitoensis Tagawa といふ.
著者
田川 基二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.184-191, 1938-09-30

207. 熱河のケガハシダ Gymnopteris borealisinensis KITAGAWA は古くFRANCHET が Gymnogramme vestita HOOK. var. auriculata FRANCH. と命名したものと同種である.これは Gymnopteris vestita (HOOK.) UND. に外形だけは似てゐるが,むしろ G. bipinnata CHRIST に近いもので,ただこれは2囘羽状複生であるのにケガハシダは單羽状複生であるといふ差があるだけである.筆者はケガハシダを G. bipinnata CHRIST の變種とする秦仁昌氏の説を採つて Gymnopteris bipinnata CHRIST var. auriculata (FRANCH.) CHING といふ學名を用ひたい.種と考へるならばもちろん北川氏の學名を用ふべきである. 208. 印度支那の Diplazium aridum CHRIST と南支那の D. nudicaule (COPEL.) C. CHR. とは共に琉球や臺灣に多いシマシロヤマシダ Diplazium Doederleinii (LUERSS.) MAKINO と同種であると思ふ. 208. 印度支那の Diplazium contermium CHRIST と南支那の D. allantodioides CHING とは共にコクマウクジヤク D. virescens KUNZE と同種である.又 WHEELER が日本の何處かで採つた D. Wheeleri (BAK.) DIELS や屋久島のヤクシマクジヤク D. tutchuense KOIDZ. も同種であると思ふ. 210. タニイヌワラビの學名には Athyrium rigescens MAKINO よりも古い Asplenium otophorum MIQ. をメシダ屬に移した Athyrium otophorum (MIQ.) KOIDZ. を用ひるのがよい.暖地に多いもので,九州や四國に多く,本州では中國,近畿,北陸は越中あたりまで,東海道は伊豆附近まであり,秦仁昌氏によれば支那にも亦あるといふ. 211. 熱河のシラゲデンダ Woodsia jehoiensis NAKAI et KITAGAWA は支那の W. Rosthorniana DIELS と同種である. 212. イハデンダ屬 Woodsia R. BR. の中で Sect. Eriosorus CHING に屬する種類は邦内にはまだ一種も發見せられてゐなかつたが,京大農學部林學教室の岡本省吾氏が,昨年遂に臺灣の關山(3715m)で發見せられた.これは支那の W. cinnamomea CHRIST に似てゐるが,葉柄は黒檀色,羽片は深く切込み,裏面には毛の他に細い鱗片もあるから別種である.他に比較すべき種類もみあたらないので,新種にしてクワンザンデンダ(新稱) Woodsia Okamotoi TAGAWA sp. nov. と命名した. 213. イハヘゴモドキ(新稱) Dryopteris Mayebarae TAGAWA sp. nov. は前原勘次郎氏が肥後の人吉で10年ばかり前に發見せられたものである.外形はヲクマワラビ D. uniformis MAKINO の切込の淺いものに頗るよく似てゐるが,胞子には隆起皺があつて疣状の小突起がないからイハヘゴ D. cycadina C. CHR. var. meianolepis NAKAI に近いものである.
著者
田川 基二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.251-264, 1937-12-15
著者
田川 基二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.139-148, 1940-09-30

13. アリサンハナワラビ(正宗) は正宗厳敬,森邦彦両氏が阿里山で発見せられたものである.正宗氏はこれを新属新種にして Japanobotrychium arisanense MASAM. と命名し上記の新和名と共に発表せられたが,後ハナワラビ属に移して学名を Botrychium arisanense MASAM. と変更せられた.私は昭和9年に台北帝大の〓葉室にあった基準標本を見せていただき,又霧社にある台北帝大の山地農場で採集せられた標本も今年の4月に見せていただいたが,このアリサンハナワラビはノウカウハナワラビの毛のある型即ち印度,錫蘭,支那(雲南),爪哇,ルゾンなどにある Botrychium lanuginosum WALL. であると思う.又ノウカウハナワラビ(早田)は最初早田先生がB. leptostachyum HAYATA と命名せられたもので,後中井先生はB. lanuginosum 即ちアリサンハナワラビの無毛の一変種にして学名をB. lanuginosum var. laeptostachyum (HAYATA) NAKAI と変更せられた.確に中井先生の卓見であると思う.この無毛の変種も中井先生によれば亦支那やヒマラヤ地方にあるという.台湾では両型共にやや稀な種類である.14. Mecodium productum (KUNZE) COP. は馬来群島に廣く分布している種類であるが,私はこれを台東庁台東郡の蕃地バリブガイ附近の密林中で発見した.我邦には新発見の一種であるから新に和名をホウライコケシノブと定めた.ツノマタコケシノブM. Junghuhnii (V. D. B. ) COP. に似ているが,裂片には先端に近く不明瞭な微鋸歯があり,総包片は卵形又は卵状長楕円形,鈍頭又は円頭,上半部には不規則な微鋸歯があり,〓床は細長い.15. チリメンコケシノブ(新称)Mecodium taiwanense TAGAWA sp. nov. は私が台東庁関山郡蕃地の内本鹿越線に沿う嘉々代駐在所付近の密林中で発見した新種である.比律賓のM.thuidium (HARR.) COP. によく似ているが,葉は小さく,裂片の幅は廣く且つ皺曲はそれほど甚しくなく,〓堆の総包片は卵形又は廣卵形,その先は鈍形又はやや鋭形で決して円形ではなく,〓床は細い円柱形でその先は太くなっていない.今日までに知られている台湾産の種類中に似たものを求めるならば別属ではあるがヒメチヂレコケシノブ(初島)Meringium denticulatum (SW. ) COP. がある.しかしチリメンコケシノブでは皺曲は遥に甚しく,辺縁にはルーペで認めうる程度の微鋸歯しかなく,〓堆の総包は殆んど基部まで裂け,〓床は短くて総包片の半にも達していない.
著者
田川 基二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.306-313, 1932-12-01

ホソバショリマ Dryopteris Beddomei O. KUNTZE. 本種は南印度,セイロン,ジャバ,フィリッピン,南支那,臺灣に知られて居たが肥前國藤津郡多良村,對馬國琴村にも産することを知つた.ハシゴシダの羽片が下方に漸次縮小したやうなもの.緒方正賛氏の圖集第4卷第167圖を参照されよ. カラフトメンマ Dryopteris crassirhizoma NAKAI var. setosa MIYABE & KUDO. ヲシダの羽片裂片が鋸齒〓乃至稍缺刻状鋸齒〓になつたもので,葉色も遙に美しい〓色のものである.從來樺太の特産と思はれてゐたが,今夏私はこれを甲斐國白根山北嶽に發見した.本州には新發見か. オホカウモリシダ (新稱) Dryopteris cuspidata CHRIST. カウモリシダ Dryopteris triphylla C. CHR. に似て遙に大形,尾状鋭尖頭の羽片が,五六對もあるもので,脈序にも差異を認る.ヒマラヤ,ジャバ.フィリッピン等に産するものであるが,土井美夫氏は西表島に,小泉博士は沖縄國頭郡佐手に採集された.但し模範型に比するに,葉片並に羽片は頗る小く,且つareola の数も少い.多分最小の一型で,變種とする程のものでもあるまい.本邦には新發見の一種であるから,次に簡單に記載しやう.根莖は匍匐,黒色.葉柄は25-35cm. 剛強,褐色,基脚黒色.葉片は25-38 ×10-15cm. 奇数羽状複生,上部羽片の腋には珠芽のあることもある.羽片は4-6對,疎在,斜上開出,短柄又は無柄,楕圓状披針形,8-12×2-2.5cm. 尾状鋭尖頭,通常尖端部稍刀状,楔脚,殆ど全〓,稍革質,羽軸及び兩面共に無毛,上面暗〓色,遊離細脈の先端部は上面に於て白色乃至稍帶赤色の斑點をなす.側脈は顯著脈間隙は中肋邊〓間に5-7,各嚢堆を有しない遊離小脈を入れる.嚢堆は圓形乃至長楕圓形,側脈間に2列,對をなす嚢堆は多く連續する.