- 著者
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北村 四郎
- 出版者
- 日本植物分類学会
- 雑誌
- 植物分類・地理 (ISSN:00016799)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, no.1, pp.27-36, 1936-01-30
ノツポロガンクビザウ (Carpesium Matsuei TATEW. et KITAMURA). ガンクビサウの類に二三年前から氣になつてゐたものがあつた,それは小生が加賀,市ノ瀬に採集した時普通のガンクビサウとは變異のちがふ群落を見つけて,それを研究したが充分な自信がなかつた.本年札幌に研究に行つた時館脇博士が變なガンクビサウがあるから野幌まで行かないかといふのでお伴して觀察したところそれがあれであつた.野幌には澤山箇体を見たがこればかりで尚後に室蘭でも澤山採集したがその附近に眞正のガンクビサウはない.それで別のものだと自信を得て研究したところガンクビサウに比するに頭花は半球形,總苞外片は長く先端は草質,雌花の花冠は上部が狹まつてゐるので全く別の種であると考へる樣になつた.北海道より本洲東北,北陸に分布する種類である.松江氏は館脇博士と共に野幌の植物を研究され且つこのガンクビサウ採集についても色々と御教へ下さつた方である. Chrysant hemum vestitum (HEMSL.) KITAMURA. これは英國の學者,HEMSLEY,HENRYの兩氏,並びに米國の BAILEY氏などが家菊と原種と考へ〓々論んぜられ且つ方々で圖説にされた有名な植物である.私はこの植物の標品即ちHENRY氏が支那湖北省宜昌で採集し HEMSLEY氏が研究した標品の Duplicate type を東京帝大標品庫で拝見し久しく見たいと思つた標品を見て大變禧しかつた.これは日本のリュウノウギクに似たもので葉の裏に灰白色の綿毛が厚く葉底は楔形であつて,家菊では葉の裏の毛が薄く葉底は心臟形で無論別種であると思ふ.この植物の研究を中井教授に御願ひ申し上げたところ,先生は心よく御許し下さつた.謹んで深謝する次第である. ミヤトジマギク(Chrysant hemum miyatojimense KITAMURA.) 陸前宮戸島は先住民族の貝塚などある古くそして美しい島であるが,木村有香氏がこの島に變つた菊があるから研究してはどうかと云つて下さつたのは本年の初春であつた.今秋同氏のお伴してこの島に渡り問題の菊を勸察したのは美しい思ひ出である.もつとも前から其の菊の性状をくわしく話して頂いたので小生の勸察は蛇足であつたかもしれない.この島に澤山に咲きほこつてゐるコハマギクに比するに莖が長く50-70センチあり下部は長く地に匐ひ葉がなく上部が上昇し葉と花をつける.葉の裏面にはコハマギクの程んど毛なきに反し可成り毛多く,尚莖にも總苞片にも毛が多い.花梗はコハマギクの樣に長く剛直でなく短かくて細く繖房状につく,それでこの菊の自生地が墓塲であることから考へれば或ひは墓塲にあげられた小菊系のものとコハマギクとの間に自然に出來た雜種ではあるまいかと想像もされる.