著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.118-129, 1933-03-01

セイタカタンポポ(Taraxacun elatum KITAMURA). 関西の山地に生ずるこのタンポポは,総苞の外片が長楕円形なる事はカンサイタンポポに似るが,総苞はより大きく,丈高く,果実が細長く,花梗は花後頗る長く,種々の点で異なるので別種とする.クシバタンポポ(Taraxacum pectinatum KITAMURA). 備中阿哲郡野馳村大野部で,田代善太郎氏の採取された植物である.葉が櫛歯状に分裂せる点が目立つ,花梗は葉よりも短く,総苞の外片は廣卯形で,内片の1/3長に達する.花は濃黄色である.コタンポポ(Taraxacum Kojimae KITAMURA). 千島幌莚島の産,小型のもので,葉は葉柄殆どなく開出し,花梗は一本,総苞外片は被針形なるを特徴とする.ヒロハタンポポ(Taraxacum latifolium KITAMURA). 朝鮮咸鏡北道の産,大井次三郎氏が延岩洞一上村間で採集された植物である.葉は特に幅廣く,総苞は長楕円形で,内片の1/2長を越す,先端に明瞭に小角を持っている,花は黄色.カラフトタンポポ(Taraxacum sachalinense KITAMURA). 従来ミヤマタンポポなる名称の下に,多くの種類が一括されていた.これもその中の一部分で樺太幌登山の産である.葉は舌状をなし,通常分裂せず,総苞は〓葉では黒緑色である点はタテヤマタンポポに似ているが,総苞はずっと小さく,外片には明瞭に小角を具えている.
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.71-80, 1935-05-30

マンシユウガンクビサウ(Carpesium manshuricum KITAMURA) 從來ミヤマガンクビサウ(Carpesium triste MAXIM.)にあてゝあつた大陸の植物で,これを最初にあてた人は C. WINKLER 氏である.Carpesium triste は内地のものが Type であるが丈はあまり高からず葉も小さく長卵形又は長楕圓形であるが,マンシユウガンクビサウは丈高く葉は頗る大きく廣卵形で別種とすべきものである.始め金剛山で澤山採集した時大變大きな葉になつてるなと思つてゐたところ,ソビエツトの M. ILJIN 氏より滿洲の標品をもらひ,これも大きな葉なので研究した.そして別種とする意見になつた. シヲギク(Chrysant hemum shiwogiku KITAMURA) シヲギクは四國,紀伊,伊勢の沿海地方に産する古來有名な菊であり,分類の大家及び細胞學者の研究が澤山あつて,今更形態分布を説明する必要はない.サツマノギク Chrysant hemum ornatum と變種關係に立つてゐたが,植物研究雜誌に書いた如く葉が倒長卵形一倒被針形楔底であるのと,廣卵形一圓形截底であるのとで一見して區別され,分布區域も全く異つてゐる.この二つは種として區別すべきであると私は思ふ.Chrysant hemum marginatum KORTHALS といふ學名がある.これはボルネオで採集されたものとして取り扱はれてゐるが,萬一日本のシヲギクが産地を誤られてゐるのではないかと心配になる.菊科植物では殊に産地が不明である塲合はそれが悪標品であつたりすると鑑定に頗る困難を來す.私は Chrysant hemum marginatum KORTHALS はよくわからんが,今産地のハツキリしたシヲギクに新學名を與へる.將來この事に留意し,Chrysant hemum marginatum KORTHALS を研究し不幸にして,これがシヲギクであつた塲合は古い學名に歸らねばならぬ.四國の沿海のものと紀伊,伊勢の海岸のものとは葉形が後者の方が狹く分裂も淺く頭花も小さいので變種として區別しキノクニシヲギクと云ふ.この研究について澤山の生品や標品を御惠み下さつた田代善太郎氏,吉永虎馬氏,土井美夫氏,孫福正氏に謹んで感謝する. ツイミサウ(Hieracium Tatewakii (KUDO) TATEW. et KITAMURA) 北樺太で採集された植物で故工藤博士が Crepis Tatewakii KUDO として記載された植物である.カリフオルニヤ大學のバブコツク氏は Crepis の專問家であるが,同氏が北大からこの標品を借りて研究し Hieracium だと鑑定した.同氏は Hieracium を鑑定したくはないので館脇博士のところへ尋ねて來た.バブコツク氏は Hieracium triste とちがふかどうか比較してくれといふ.そこで我々は研究したのだがやはり Hieracium である.もつとも Hieracium triste とは全く別物でこれは節が全くちがふ.所屬は ZAHN 氏の分類に依ると Euhieracium, Phyllopoda, Trichophtoylla, Pulmonarea であつて Hieracium vulgatum 群のものである.Hieracium vuigatum 群は LEDEBOUR 氏の Flora Rossicae に既にバイカルやドウリヤに産する事が知られてゐるが今度北樺太まで足をのばした事になつた. ハヤチネウスユキサウ(Leontopodium hayachinense HARA et KITAMURA) この植物は最初ジユネーブのボーベール氏が Leontopodium discolor BEUV. (1909) を出した時,本州早池峯の植物をこれと同定した.次いで武田久吉博士は Lontopodium discolor ではなく Leontopodium alpinum var. hayachinense TAKEDA (1911) であると發表された.其の後ボーベール氏は Leontopodium discolor var. hayachinense としたが Leontopodium discolor とは葉の基部が廣くやゝ葉をだき果實は二倍程大きく花冠と共に毛が生えてゐるので(L. discolor では葉の基部は頗る狹まく果實小さく無毛) 種として區別することにした.原寛氏と相談の結果共著で公けにする.同氏は昨年十二月手紙で研究する樣にすゝめられたが延引した次第である.
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.65-76, 1969-11-30
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.128-145, 1934

シコタンヨモギ(Artemisia shikotanensis KITAMURA). これも從來のヨモギ群のもの,オホヨモギに似てゐるが莖も短かく葉も小さく二回羽状深裂である.色丹島,擇捉島,日高に分布する. ニトベヨモギ(Artemisia borealis PALLAS). 台灣の高山のニトベヨモギ,これがシベリア,樺太,千島に生ずるキタヨモギと同種だとする.分布上大變にへだたつてゐる,然し形態上同じである以上同種としなければならぬ.澤山各地からの立派な標品を得て研究したのだが區別する事が出來ない.將來支那の高山から發見されるだらう. アダムスヨモギ(Artemisia Adamsii BESS). シベリアに知られてゐた本種は滿洲國内滿洲里にも産する事佐藤潤平氏の採集により分明した. ヤブヨモギ(Artemisia rubripes NAKAI). 朝鮮に知られてゐた本種は九州祖母山に産する事田代善太郎氏の採集に依り分明した. ホソバコンギク(Aster ageratoides TURCZ. var. angustifolia KITAMURA). 莖は懸崖性で葉は狹長10cm. 長1.5cm. 幅両端尖がり縁邊には粗鋸齒がある.頭花は少数で碧色2.5cm. 幅可成り美しい.關西一帶處々に産する.Aster ageratoides TURCZ. とは別種であるかもしれない. ヤマサワシロギク(Aster Hashimotoi KITAMURA). サワシロギクとヤマシロギクの雜種.橋本忠太郎氏が近江蒲生郡布施の溜で發見されたものである. イツスンヤマギク(Aster Itsunboshi KITAMURA). 一寸法師の意.Aster trinervius 群の高山植物で丈の高さ僅かに一寸,頭花も一つか二つ,珍妙な植物である.大井次三郎氏の台灣大武山での採集にかゝる.
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.99-100, 1940-06-10
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.119-122, 1989-07-30

中国の医学や薬物に関する書籍は6世紀の中頃に日本に伝来した。中国薬用植物と日本野生植物との同定は19世紀の中頃まで,日本の本草学者の主な仕事であった。私は日本の従来の伝統的な同定を現代の中国の植物分類地理学的著作を参考にして再検討した。それぞれの植物漢名は中国古典にある原記載と原産地によって現代の学名に同定した。私は『本草の植物』1-638頁(1985)を保育社(大阪市鶴見区鶴見4-8-6)から出版した。また,その追補を続本草の植物として『植物文化史』405頁~613頁(1987)に保育社から出版した。これによって久しく誤り同定されていた植物を正しく同定したが,なお原記載や産地が不十分で同定のできないものも多い。中国植物の同定で革期的な研究は小野蘭山の『本草綱目啓蒙』(1803)と松村任三の『改訂植物名彙前編漢名之部』(1915)であろう。これらは原記載や原産地を意識しての同定はやっていない場合が多い。19世紀の後半から日本の植物分類学者が日本の植物に学名を同定し始めた。20世紀から日本の植物分類学者は台湾,中国東北部,朝鮮,南樺太の植物を研究し多くの新種を発表した。20世紀の後半から日本の植物分類学者はヒマラヤ・ヒンズークシ,東南アジアの植物を研究し,多くの新種を発表した。これらの地域には中国と共通している植物が分布しており,中国の研究者と日本の研究者がともに協力することが必要である。その協力に基づき21世紀には革期的な進歩が期待される。この論文は1989年10月4日に中国雲南省昆明で開催された国際植物資源学術討論会で講演した。中国科学院昆明植物研究所創立50周年式が7日にあった。外国からは日本からの講演者や参加者が最も多かった。岩槻邦男,近田文弘,坂田完三さんらは同窓であるが,津村研究所の三橋博所長や同研究所員が多く来ておられた。広島大学の田中治さん,横浜大学の栗原良枝さん,静岡大学の北川淳子さんなどである。フランスからはJ. E. VIDALさんも参加した。昆明の街ではキクの花盛りであった。日本にあるものと同様である。華亭寺でカワイスギCryptomeria japonica var. sinensis SIEB. et ZUCC.の大木があった。日本のスギときわめて似ている。西山では路南鳳仙花Impatiens loulanensis HOOK. f. が多く,よく咲いていた。昆明植物研究所にメキシコ原産のベニチョウジCestrum purpureum STANDL. が赤い花をぶらさげて美しかった。
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.165-170, 1978-11-30
被引用文献数
1

キク属はこれまでは大きくまとめて,Chrysanthemum L. に包含していた.すなわち L_<INNE> はシュンギク,モクシュンギク,フランスギク,アキノコハマギク,シマカンキクなどをこの属に含めている.その後, B_<ENTHAM> と H_<OFFMANN> などもこの大きな見解をとり,私もこの見解を採用していた.今度は従来のキク属があまり大き過ぎるので,この属を分ける見解を採用した.リンネの Chrysanthemum L. (1753) はトールヌフォールの J. P. T_<OURNEFORT> の「植物分類原論」(1719) にある Chrysanthemum と Leucanthemum とを合一して,それに Chrysanthemum の名を用いたものである.トールヌフォールの Chrysanthemum はシュンギク C. coronorium L. やアラゲシュンギク C. segetum L. を含んでいる.これはディオスコリーデスが一世紀に書いた「薬物について」にある Chrysanthemon から引いたものである.この Chrysanthemon はシュンギクであるから Chrysanthemum の type はシュンギクである.シュンギクは雌花の花冠が黄色で,その痩果が3角柱有翼で,両性花の痩果は円柱形である.この特徴をもつものをシュンギク属 Chrysanthemum L. とする.リンネの Tanacetum L. (1753) はエゾヨモギギク T. vulgare L. が type である.エゾヨモギギクは頭花が小さくて多数あり,密散房状につく.雌花の花冠は筒状で先は3裂し,痩花は両性花のものと同様,5肋があり,先に短い冠がつく.痩花は粘質の細胞や樹脂道がなく,水にひたしても粘らない.Pyrethrum Z_<INN> (1757) では痩花に粘質の細胞と樹脂道があり,水につけると粘るので,T_<ZVELEV> は Tanacetum から区別している.Leucanthemum M_<ILLER> (1754) はフランスギク L. vulgare L_<AM> が Type である.痩花は雌花でも両性花でも冠がない.T_<ZVELEV> はこの点で Tanacetum から区別している.また,ミコシギクは Leucanthemella lineare (M_<ATSUM>.) T_<ZVELEV> とした.モクシュンギク属 Argyranthemum W_<EBB> ex S_<CH>.-B_<IP>. はモクシュンギク A. frutescens (L.) S_<CHULTS> B_<IPONTINUS> が Type である.モクシュンギクは多年生で低木状となる.雌花は広い3翼があり,膜質の冠がある.両性花の果実はやや扁平で狭翼が一つあり,膜質の裂けた冠がある.これはシュンギクとは多年生であること,舌状花冠が白いのでちがうが,近縁であって,交配すると雑種ができ,舌状花冠の黄色のものが広く栽培されている.キク属 Dendranthema (DC.) D_<ES> M_<OUL>. (1855) はキク D. grandiflorum (R_<AMAT>.) K_<ITAMURA> を type として設けられた属である.はじめデカンドールは Pyrethrum の sect. Dendranthema とし,シマカンギクとキクとを入れている.舌状花が多列となり,その間に膜質の苞が入ることを特徴としているから,キクが type である.茎が木質だとするがキクは草である.Dendranthema は木の花の意である.節だから Dendranthemum の複数形にしたのだから,属では Dendranthemum とした方がよかった.この属の性については,Des M_<OULINS> は D. indicum (中性) と D. sinensis (女性または男性) として混乱しているが,T_<ZVELEV> は中性とした.キクの学名は Dendranthema grandiflorum (R_<AMAT>.) K_<ITAMURA> となる.Anthemis grandiflorum R_<AMATUELLE> が1792年に発表され,これが最も古い種名である.R_<AMATUELLE> はもし Chrysanthemum に入れるなら Chrysanthemum morifolium R_<AMAT>. とすべきであるとしているから,これは nom. prov. で採用できない.キク属は多年草で,痩花は横断面が円柱形で下端は狭まり,上端は切形で冠はない.舌状花が発達するものと発達しないものとがあり,この間きわめて近縁で,よく交配する.多くは葉裏にT字状毛がある.痩花は水にひたすと粘る.ハマギク属は多年生で低木.雌花の痩花は鈍三角柱で少し扁平でやや曲り,両性花の痩花より小さく短い冠をもつ.両性花の痩花は細い円柱形で10肋があり,先に切れこんだ冠をもつ.
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.178-185, 1950-11-30
被引用文献数
5
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.27-36, 1936-01-30

ノツポロガンクビザウ (Carpesium Matsuei TATEW. et KITAMURA). ガンクビサウの類に二三年前から氣になつてゐたものがあつた,それは小生が加賀,市ノ瀬に採集した時普通のガンクビサウとは變異のちがふ群落を見つけて,それを研究したが充分な自信がなかつた.本年札幌に研究に行つた時館脇博士が變なガンクビサウがあるから野幌まで行かないかといふのでお伴して觀察したところそれがあれであつた.野幌には澤山箇体を見たがこればかりで尚後に室蘭でも澤山採集したがその附近に眞正のガンクビサウはない.それで別のものだと自信を得て研究したところガンクビサウに比するに頭花は半球形,總苞外片は長く先端は草質,雌花の花冠は上部が狹まつてゐるので全く別の種であると考へる樣になつた.北海道より本洲東北,北陸に分布する種類である.松江氏は館脇博士と共に野幌の植物を研究され且つこのガンクビサウ採集についても色々と御教へ下さつた方である. Chrysant hemum vestitum (HEMSL.) KITAMURA. これは英國の學者,HEMSLEY,HENRYの兩氏,並びに米國の BAILEY氏などが家菊と原種と考へ〓々論んぜられ且つ方々で圖説にされた有名な植物である.私はこの植物の標品即ちHENRY氏が支那湖北省宜昌で採集し HEMSLEY氏が研究した標品の Duplicate type を東京帝大標品庫で拝見し久しく見たいと思つた標品を見て大變禧しかつた.これは日本のリュウノウギクに似たもので葉の裏に灰白色の綿毛が厚く葉底は楔形であつて,家菊では葉の裏の毛が薄く葉底は心臟形で無論別種であると思ふ.この植物の研究を中井教授に御願ひ申し上げたところ,先生は心よく御許し下さつた.謹んで深謝する次第である. ミヤトジマギク(Chrysant hemum miyatojimense KITAMURA.) 陸前宮戸島は先住民族の貝塚などある古くそして美しい島であるが,木村有香氏がこの島に變つた菊があるから研究してはどうかと云つて下さつたのは本年の初春であつた.今秋同氏のお伴してこの島に渡り問題の菊を勸察したのは美しい思ひ出である.もつとも前から其の菊の性状をくわしく話して頂いたので小生の勸察は蛇足であつたかもしれない.この島に澤山に咲きほこつてゐるコハマギクに比するに莖が長く50-70センチあり下部は長く地に匐ひ葉がなく上部が上昇し葉と花をつける.葉の裏面にはコハマギクの程んど毛なきに反し可成り毛多く,尚莖にも總苞片にも毛が多い.花梗はコハマギクの樣に長く剛直でなく短かくて細く繖房状につく,それでこの菊の自生地が墓塲であることから考へれば或ひは墓塲にあげられた小菊系のものとコハマギクとの間に自然に出來た雜種ではあるまいかと想像もされる.
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.97-111, 1934-06-30

ユキヨモギ(Artemisia Momiyamae KITAMURA). 同好の友人籾山泰一氏は小生の願ひをかなえて,この珍種を送つて下さつた.從來のヨモギ群のもので,葉は上面にも白柔毛があつて,頭花は筒状4粍,長1.5粍幅の小さいもの,これが非常に澤山につく.相模,稲村ケ崎の産. ウスバヨモギ(Artemisia debilis KITAMURA). 珍種,葉は有柄二回羽状中裂,両面とも白柔毛がなく,緑色薄質,頭花は少なく大きく球形である.小泉源一博士の朝鮮智異山で採集されたものである. タイトウヤマヂノギク(Aster altaicus WILLD.) 從來我が國では Aster altaicus WILLD. が産する樣に考へられてゐたが,私はアルタイ地方の本場の Aster altaicus WILLD. を昨年ロシヤのトムスク大學から送つてもらつた.驚いた事には我が國のヤマヂノギクとは全く異なり葉は非常に細く針金の如く,びつしり短毛が生えてこれこそ私が先年台灣の台東ヒナン大溪のガラガラの河原で採集し,タイトウヤマヂノギク(Aster altaicus var. taitoensis KITAM.)なる學名を附したのと同じである.不明を謝し訂正する.この植物は沙漠の植物で滿州里で佐藤潤平氏の採集されたものが北の方では分布の東限である.蒙古にもある. コウライヤマヂノギク(Aster ciliosa KITAMURA). 上述の理由に依り朝鮮のヤマヂノギクに新學名を附する.尚本州でヤマヂノギクと云われてゐる者の中には Heteropappus 屬の邊花の冠毛が祖先返りで一部延長したものも入つてゐるがこの場合は延長したと云つても非常に發達が悪く,これは Heteropappus 屬に入るべきである.朝鮮には上述の如きでない Aster ciliosa KITAMURA を産する.内地のヤマヂノギクに就いては今後の研究が必要である.尚筆者には草木圖説のヤマヂノギクの圖は Heteropappus hispidus LESS. の樣にも思える. バンヂンガンクビサウ(Carpesium Hosokawae KITAM.) ホソバガンクビサウに似てゐるが頭花小さく花梗長く,葉は小さく質硬く毛多き点で異なる,台灣の山地處々に生ずる.細川隆英氏の下さつた標品から出た新種.