- 著者
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照屋 寛善
- 出版者
- 日本衛生動物学会
- 雑誌
- 衛生動物 (ISSN:04247086)
- 巻号頁・発行日
- vol.10, no.3, pp.115-127, 1959
- 被引用文献数
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沖縄群島および八重山群島のハブ咬症について沖縄本島内の那覇, コザ, 名護の三保健所ならびに八重山保健所に集計された資料につき整理した資料と, 筆者が現地において直接調査し得た咬症患者ならびにハブについての一般的知見から琉球列島におけるハブ咬症の疫学相をまとめ, さらにこれを奄美の資料と比較したところ次のような興味ある結果がえられた.1)咬症患者の発生は年平均明治末期74.0, 大正年代88.0, 昭和年代111.2, 終戦後332.9と次第に増加し, 人口1, 000人に対する比率も増えているが, 致命率は逆に明治中期18.0, 明治末期16.6, 大正年代16.8, 昭和年代7.1, 終戦後1.83と減少している.(表1) 2)地域別には沖縄本島では北部の山岳地帯が多く, 中南部は比較的少ない.群島内では伊江島が最も多く, 次いで久米島が多い.八重山群島では一番患者の発生が多く罹患率の高いのは黒島で, 小浜島, 石垣島がそれに次ぐ.(表2) 3)市町村別に患者発生が多く罹患率の高いのは, 沖縄北部では伊江村, 国頭村, 今帰仁村, 東村, 本部村, 久志村等で中部では比較的に与那城村, 宜野湾村が多く, 沖縄南部では久米島の外三和村, 玉城村, 具志頭等が受傷率は高い.八重山では市町村別にすると大浜町が患者の発生も罹患率も高い.(表2) 4)ハブ咬症の月別発生状況は沖縄, 八重山とも冬に少なく夏に多いが7, 8月にはむしろ減少している.3月, 4月, 5月と温暖になるにつれ患者発生が多くなるが八重山では4月, 沖縄では6月に最高を示し, 以後減少して沖縄では10月, 八重山では11月に再び上昇している.奄美ではこのような山が6月と9月に見られるが.三地方についてみると南にいくにつれ盛夏の谷が長く深くなつている.(表3)(図1) 5)ハブ咬症の発生は気候と密接な影響があり, 24℃から29℃迄の発生が最も多く, 雨量や湿度とも密接なつながりがあるようである.(図3) 6)時間的には沖縄, 奄美では0時から23時迄いずれの時間にも患者の発生があるが, 特に奄美では午前10時と夕方7時〜8時頃に多く, 八重山では午前10時と夕方7時〜8時頃に患者の発生が多い外に昼3時頃にも多く, 3つの山をなしている.また深夜0時〜4時迄の発生は八重山サキシマハブの場合は殆んどないが, 奄美, 沖縄のハブにおいては比較的に高い.(表5) 7)年齢別の発生状況は各年齢層とも男子に多くて女子に少なく, 沖縄では男女比は100 : 66で, 八重山では100 : 44である.年齢別にみると両地方とも10歳未満は少なく, 15歳以上になると急激に患者が増加し, 以後年齢が進むにつれやや漸増しているが20歳〜29歳が最高で老年期には少なくなつている.(表6, 表7) 8)罹患場所についてみると, 沖縄では最も多いのは山野(31.9%)であるが, 道路歩行中(27.7%)屋内(26.0%)も相当に罹患率が高い.これに反し八重山のサキシマハブの場合は耕地(50.9%)が大部分を占め, 屋内での罹患率は僅かに3.1%である.(表8) 9)咬症部位については, ハブ, サキシマハブ共に手足の咬症が罹患率は高いが, ハブの場合はその外, 躯幹(2.8%), 頭, 顔(4.0%), 大腿(2.8%)等にもおよび, これらの部位における致命率は高い.サキシマハブの場合は足が半分以上(54.3%)を占め, 手(38.9%)の外は下腿と大腿にわずかにあるだけで躯幹, 頭部, 上腕, 等の比率がハブより明らかに低い.(表9) 10)抗ハブ毒血清の使用は致命率の減少をもたらし, この意味では素晴らしい効果を挙げたと推定されるが, 局所の病変には必らずしも著効を奏しない.もつと血清を改良して治療効果を高める必要があると同時に熱地保存に耐えるものが要求される.