著者
須戸 和男
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.77-99, 2006-06-08

本稿は,アメリカの通商政策と対外租税政策の相互関係を歴史的に概観し,今日のグローバルな世界経済におけるアメリカの対外経済政策の及ぼす影響を考察するものである。 その中心的論点は,アメリカ多国籍企業のグローバルな経営戦略であり,第二次世界大戦後のアメリカ多国籍企業は,政府の課税優遇措置による海外市場開拓促進政策に重大な役割を演じ,これによって両政策の密接な相互依存関係を創出した。しかし,1970年代以降の多国籍企業は,政府の政策目的とは離れた独自のグローバルな経営戦略を採り始め,両政策間に乖離・対立現象が現れ,次第にその相互関係は希薄になってきた。 多国籍企業の外国直接投資は,その実質的本拠を国外に移転し,国内産業の空洞化をもたらし,貿易収支および経常収支の巨額な赤字を生み出した。さらに,多国籍企業のグローバルな租税回避戦略は税収を減じて財政政策に重大な影響を与えた。このため,通商政策は戦後の多角的自由貿易体制の修正を迫られ,二国間および地域間自由貿易協定や保護主義的政策に向かった。対外租税政策は多国籍企業に対する課税強化政策および租税回避抑止政策へと大きく変容した。以上の如く多国籍企業の自立的展開は,両政策の変化・変容と両政策の相互関係に変転をもたらした。

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