著者
荻原 桂子
出版者
九州女子大学・九州女子短期大学
雑誌
九州女子大学紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:09162151)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.121-128, 2003-02

作品「琴のそら音」は、明治三十八年六月、「七人」に発表され、明治三十九年五月、大倉書店・服部書店刊行の『漾虚集』に所収された。「琴のそら音」は、「遠い距離に於てある人の脳の細胞と、他の人の細胞が感じて一種の科学的変化を起す」という「不思議」な出来事を、「幽霊」というキーワードで、その生の実存に深く関わりながら、描き出そうとする。『漾虚集』は、日露戦争時に執筆されたため、その影響も色濃く表現されている。漱石は、西欧に対する近代国家日本のあり方に深い疑義を呈していた。日露戦争の勝利に、国民は狂喜乱舞するが、その後のポーツマス条約の不遇な内容によって国民の怒りと不満が爆発する。こうした社会情勢のもと、漱石は旺盛な執筆活動を開始したが、それは、世間の喧騒とはかけ離れた幽玄の世界に男女の恋愛を描くという幻想的なものであった。「幽霊」「催眠術」という超現実の世界に漱石の生の重い想念を開花させた作品として、「琴のそら音」について、論及する。なお本稿における漱石の作品引用は、すべて『漱石全集』岩波書店 (平成五年十二月〜平成十一年三月) に拠った。

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