- 著者
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宮本 邦男
- 出版者
- 作新学院大学
- 雑誌
- 作新地域発展研究 (ISSN:13481711)
- 巻号頁・発行日
- vol.4, pp.1-29, 2004-03-26
経済は自転車に似ている。自転車は走っていないと倒れてしまう。経済も成長していないとうまくいかない。近年の日本経済は、不況、倒産、失業、銀行の不良債権、金融システム不安、財政赤字、年金危親等問題だらけだが、これらはすべて経済に成長がないために起こっている。経済が成長しないと問題が続出するのは経済のほとんどの仕組みが成長を前提に作られているからだ。ちょうど自転車が走っている時にのみ倒れないように作られているように。成長を回復すれば日本経済の現在の問題はほとんどすべて解決してしまう。従って日本経済の当面の最大課題は成長の回復である。しかし日本経済には中長期的に成長がむずかしくなる条件が生じてきている。それは少子高齢化による人口減である。日本は遅かれ早かれ成長に依存して経済を運営していくわけにはいかなくなる。そのため日本はゼロ成長でも倒れない経済を今から準備しておく必要がある。そのための第1の課題はゼロ成長で増加が期待できなくなる雇用機会を平等に分かつため、Work sharingを定着させることである。第2に人口減、ゼロ成長で維持することが不可能になる現行賦課方式の公的年金制度を人口減、ゼロ成長下でも維持可能な積立方式に転換することである。ゼロ成長経済では分かち合うパイが大きくならない。そのため成長経済と比べて分配の公平が社会的価値としてより重要になる。特に公的年金制度を賦課方式から積立方式に転換することで公的年金制度の所得再分配機能が低下する分を補うためには、税制がその所得再分配機能を高める必要がある。ゼロ成長でも倒れない制度を作ることは成長を抑制することを容易にするので、環境対策の実施を容易にする。その意味でゼロ成長でも倒れない制度作りは環境対策としても優れている。