著者
西野 春雄
出版者
法政大学
雑誌
能楽研究 (ISSN:03899616)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.187-196, 1996-03-30

平成六年の能楽界は、ここ十数年の動向と大きく変わることはなく、襲名問題をめぐって一部のマスコミを賑わした話題や事件を除けば、比較的平穏な一年だった。催しの数も種類も多彩になり、復曲や新作活動も前年同様の動きを見せ、近年の趨勢となっている。またブレヒト作『ヤーザーガー』と『谷行』、ブリッテンの『カーリューリバー』と『隅田川』のように、能の影響を受け、発想を得た西洋のオペラと、原作の能を、同じ舞台で競演する試みも見られた。各種の追善能や襲名披露能も各地で催され、盛況であったが、研究界では訃報が続いた。物故者の欄をご覧いただきたいが、狂言研究を推進してこられた北川忠彦氏(4月)、古川久氏(8月)、池田廣司氏(8月)、そして安藤常次郎氏(9月)と、相次いで鬼籍に入られた。古川久氏は能楽研究所設立以来、兼任所員として基礎固めから尽力された。研究に教育に尽くされた四人の先達を一度に失い、哀惜の念に堪えない。一方、能楽ジャーナリズムに目を向けると、『現代能楽』の後を受けて新聞版16ページの『能楽ジャーナル』が創刊された。隔月刊ながら、能楽言論界・評論界不振の折から、数名の同人で旗揚げした同誌の創刊を喜ぶとともに、さまざまな形で能楽論壇が活発になることを望みたい。地方の動きも前年度同様、静かながら着実に進捗している。地方自治体による能楽堂建設もその一つで、たとえば、平成8年6月には横浜能楽堂が、平成9年4月には名古屋能楽堂がそれぞれオープンする予定である。以下、主として記録を中心に平成6年の能楽界の概容を述べる。

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