著者
北条 雅章
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.123-153, 2001-03-31
被引用文献数
2

実験1ではトマト"桃太郎"をNH_4-N添加比について3水準で,養液栽培NFTにより栽培した.生育は,NO_3-N濃度が最も高い区で最も劣った.NH_4-N濃度が高い区では,トマト果実の尻腐れ果が激発し,その結果収量は最低となった.しかし,NH_4-N濃度が高くなると果実の糖度は高くなる傾向にあった.培養液中にNH_4-Nが添加されると,CaとMgの吸収抑制が認められた.植物体中のN含有率は,NH_4-N濃度が高い区ほど高くなる傾向があった.一方,Ca,Mg含有率はNH_4-N濃度が高い区ほど低くなる傾向があった.実験2では培養液中のNO_3-N:NH_4-N比を3段階とし,それぞれに2段階の培養液濃度を組みあわせて栽培試験を行なった.NH_4-N比の上昇により茎葉,根の生体重が増加し,栄養生長が促進された.高濃度処理区では,NH_4-Nの添加によりCaとMgの吸収量が低下した.また高濃度処理のNH_4-N添加区で尻腐れ果の発生が多く,上物収量の低下が顕著であった.トマトの養液栽培における培養液へのNH_4-Nの添加比率としては,8:2程度が限界であると考察した.Ca濃度と窒素形態がトマトの生育,収量,品質に及ぼす影響を検討するためNFTで半促成のトマト栽培を行なった.Ca濃度を3処理(2,4,6me・liter^<-1>),NO_3-N:NH_4-N濃度比を2段階(10:0, 8:2)として半促成NFT栽培を行なった.トマトの収量に及ぼす影響では,Ca濃度が濃くなるに従い,増収となった.尻腐れ果は各処理区とも発生したが,Ca処理6me・liter^<-1>の10:0区で2.8%と低く,逆にCa処理2me・liter^<-1>の8:2区で34.7%と高くなった.Brixについては,Ca濃度の影響がNO_3-N:NH_4-Nの比率との関係で逆転し,NH_4-N無添加の10:0処理ではCa濃度が上がるに従い低下し,NH_4-Nの8:2処理では上昇する傾向が認められた.トマトの葉身中の無機成分含有率については,Ca濃度の上昇は葉身中のCa濃度を上昇させたが,MgについてはCaと逆にCa濃度が高くなると低下する傾向にあった.Ca吸収量は,培養液中のCa濃度が高くなるに従いが増加したが,NH_4-Nを添加した8:0区での増加の程度は低かった.またNH_4-Nを添加するとMg吸収が抑制される傾向があった.果実の肥大は,水ストレスが強くなるに従って抑制されたが,糖度と糖濃度は高くなった.果汁のECと各種イオン濃度は,水ストレスが強くなるに従い高くなる傾向があり,カリウムイオンの占める割合が最も高かった.果実中のイシベルターゼ活性は,果実の生育ステージが進むにつれて高くなった.また水ストレスが強くなるに従い活性が高くなった.インベルターゼ活性と還元糖濃度との間には,完熟期の果実で有意な正の相関が認められた.さらに1果実あたりの還元糖含量に占める,1果実当たりのインベルターゼ活性の割合は,水ストレスが強くなるに従って高くなった.培養液の浸透圧が高くなるに従い果実の肥大は抑制されるが,糖度,糖濃度,果汁のEC及びイオン濃度は上昇する傾向にあった.果実中のインベルターゼ活性は,浸透圧が高くなると上昇した.果実の糖度と糖濃度は培養液の濃度が上がると,上昇する傾向にあった.果汁のECとカリウムイオン濃度は,培養液濃度が高くなると,上昇する傾向が認められた.半促成NFTトマトにおいて,生育段階に応じた培養液濃度変化が生育,収量,品質および生理的特性に及ぼす影響について調査した.処理は,培養液濃度と,濃度を変化させる時期を組み合わせて行なった.濃度はEC値1.2 (Low), 1.8 (Mid.), 3.0dS・m^<-1>(High)の3水準とし,これらの濃度を変化させる時期を(1):第1段果房果実肥大期,(2):第1段果房収穫期(摘心時)とした.処理区はI:Low-Mid.-(High), II:Low-Mid.-Mid., III:Mid.-Mid.-Mid., IV:High-Mid.-Mid., V:High-High-(High)の5区とした.地上部生体重は,LowまたはMid.で処理を開始した区では差がなく,HighからMid.に下げた区で低くなった.摘心時の光合成,蒸散速度は,Highで処理を開始した区で低下した.吸水速度および無機成分吸収速度は,Highから濃度を下げた区で低くなり,特にCa吸収速度の低下が顕著であった.Highで処理を開始した区と収穫期に濃度を上げた区で尻腐れ果発生率が高かった.特にHighかMid.に濃度を低下させた区で高かった.果実の糖度,酸度は,Highで処理を開始した区と,収穫期にHighにした区で増加する傾向にあった.培養液のECを急激に変化させた場合には,収量,品質,生理的特性に大きな影響が現れることが判明した.NFTトマト(品種:ハウス桃太郎)栽培において生育段階を変えて培養液にNaClを添加した場合の生育,収量,品質に及ぼす影響を検討したまず,園試処方均衡培養液をEC電気伝導度で2段階(EC=1.8, 3.0dS・m^<-1>)に設定した.ついで,低濃度処理区に対してNaCl無添加,EC値で0.6, 1.2dS・m^<-1>相当のNaCl添加を行いそれぞれ定植7日,30日,60日後から処理を開始した.NaCl添加区と高濃度区では,第1段果房の収穫期の草丈が高く葉色が濃くなった.一方,総収量はこれら生育の早まった処理で減少した.収量の低下は,生育期間を通じたNaCl添加により抑制された.尻腐れ果の発生は高濃度処理区で生育の後半にNaClを添加した区で多くなった.果実のBrix値は,培養液にNaClを添加することによりかなり上昇し,培養液を高濃度にした場合と同様の傾向を示した.水分の吸収は,高濃度およびNaCl添加により抑制された.NaCl添加により,陽イオンのうちK,Mg, Caの吸収が抑制された.

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