著者
金光 達太郎
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.61-86, 1982-03-25

農業,土木,造園等の分野で,霜柱を防ぐことは極めて重要な課題となっている.霜柱の発生や生長は,気象と土壤の双方の条件から決まると考えられる.そこで本研究では,まず土壤の条件を起霜体および霜柱への給水体としての2条件に分けて考察してその因子を明らかにし,さらに気象条件をも考慮した霜柱生長方程式をたて,これらによって霜柱の発生や生長の具体的な条件を明らかにしようとしたものである.その内容を次の3部に分けて記述した.I土壤の起霜機能II土壤の給水機能III霜柱の生長方程式まず第1部では土壤の起霜機能についてのべた.土壤の起霜機能とは,土壤が含有水分を氷柱として析出する機能をいう.土壤が起霜機能を持つためには.その中に若干の微粒子の存在することが不可欠の条件とされているが,本研究に於ては,その微粒子の最大粒径を明らかにしようとしたものである.方法としては,第1に,霜柱のよくできる関東ロームから,或る粒径以下の微粒子を取り除いたものを5種つくり,これらの土壤からの霜柱の発生状況を観察した.第2の方法としては,種々の大きさの非水溶性微粒子に適切な水分条件を与えて霜柱の発生状況を観察した.その結果,起霜機能に関与する粒子の最大粒径は,およそ3〜5μであるとの結論に達した.第2部では,土壤の給水機能についてのべた.ここでは,霜柱下底面に水を供給する給水体としての土壤水分条件が如何なる物性値によって表わされるかを研究した.試料としては,種々の段階別に粒径のよくそろった水晶粉末7種と砂2種,さらに,これらと対照する意味で,幅広い粒径の粒子を含有する関東ローム(松戸市常盤平の表土)を使用した.これらの試料のそれぞれに,さまざまな水分量を与えて,その上にのせた起霜物質(水晶白:粒径3〜7μ)に霜柱が発生するかどうかを,低温恒温庫に試料を入れて観察した.同時に,これらの試料の粒度分布,pF-水分曲線,毛管力,透水係数,不飽和透水係数を測定し,これらと,上記の方法で調べた霜柱発生水分域の関連性を検討した.その結果,霜柱発生水分域の最大水分量W_<max>は,pF1に相当するものであり,同じく最小水分量W_<min>は,水分拡散係数D_w≒0.003cm^2/secに相当する水分量であることが明らかとなった.霜柱が発生するためには当然W_<max>-W_<min> >0でなければならず,この値の大きい土壤ほど霜柱が発生しやすいといえる.実験の中で,粒径のそろった水晶微粉末において,霜柱発生水分域が極めて発見しにくかったのは,W_<max>とW_<min>の間に体積含水率において僅かの差しかなかったためと考えられる.これに反し,関東ロームは,体積含水率の広い範囲にわたって霜柱発生水分域があり,給水体としてきわめてすぐれていることがわかった.第3部では,霜柱の生長方程式をたて,霜柱生長の具体的条件を明らかにしようとした.霜柱の生長方程式には,従来,熱伝導型と放射冷却型の2つがあった.前者は,J. STEFANが北極海の氷の生長を説明するためにたてた式,すなわち[numerical formula] (3・1)ここに,l:時刻tにおける氷の厚さ,k_i:氷の熱伝導度,θ_i:氷の表面温度,L:氷の融解の潜熱.より出発したもの,後者は著者らが以前にたてたもの,すなわち[numerical formula](3・2)(x'は下向きに正)ここに,dl/dt:霜柱の生長速度,ε_l:霜柱表面の長波放射射出率,k_s:土の熱伝導度,∂θ_s/∂x':地中の温度勾配,α:霜柱の密生度.後者の放射冷却型方程式は,霜柱が短い場合の現象をよく説明し得ると共に,霜柱の短い場合の実測生長速度ともかなりよく合致していたが,長い霜柱の生長速度の減少を説明できなかった.前者の熱伝導型方程式は,霜柱が長くなるにつれて生長速度が減少することを定性的に説明するには役立ったが,実測の数値とは合致せず,短い霜柱の生長速度には適合しなかった.本研究では,上記の2者を統一して長短いずれの霜柱にも適用できる方程式の誘導を試みた.すなわち,霜柱の表面と底面でそれぞれ熱収支を考え,それを結合する方法で(3・3)式から(3・3・6)式までに示した新しい生長方程式を誘導した.また,この過程において,地中からの熱流q_soの考察の中から,霜柱がよく生長するためには土の熱伝導度k_sが小さいことが重要であることも明らかにした.以上から,霜柱の発生しやすい土壤の条件をまとめると次の通りである.1.粒径が3〜5μ以下の微粒子を含んでいること.2.W_<max>とW_<min>の間の水分量の幅が広いものであること.3.熱伝導度k_sの小さいものであること.関東ロームによく霜柱が見られるのは,適度の寒さと,雪が少ないという気象条件から霜柱が人の目にふれやすいためだけでなく,以上の3条件を十分に満たしているためであることも明らかとなった.以上の条件が満たされている土壤に生長する霜柱の生長方程式として,従来,熱伝導型と放射冷却型の2種があった.本研究では,相補的関係にある両者を統一する新しい生長方程式を誘導し,新方程式による生長速度dl/dtが,実測した速度とおおむね一致することを実証した.さらに従来の2つの型の方程式が,新方程式の特定の条件のもとでの近似式として与えられることも明らかにした.解決すべき問題は多く残されているが,本研究によって,霜柱の生長のための土壤条件と気象条件について,いくつかの基礎的な条件が明らかとなったので,ここに報告した.
著者
浅野 二郎 仲 隆裕 藤井 英二郎
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.75-83, 1988-03-18
被引用文献数
1

本論文では初期書院造が成立したとされる室町・永禄年間における三好筑前邸の庭について,三好筑前守義長朝臣亭江御成之記を中心にその成り立ちについて考察した.その結果,その構成の基本については特に上杉家蔵洛中洛外屏風に描かれる細川典廐邸がもつ外部空間の構成に通じるものの多いことが指摘された.また,この三好邸の庭としての外部空間の在り方は,書院造の典型のひとつとされる西本願寺対面所にみる外部空間の在り方と極めてよく通じるもののあることが指摘できる.このことから,三好亭のそれが西本願寺対面所の庭がもつ構成原理の祖型をなすものと推定した.また,これらの,いわば観る庭の庭づくりに先行するものとして,会所・泉殿の庭をとりあげた.ここでは,この庭づくりに深く関与したとされる庭者についても触れた.足利将軍に仕えた同朋たちが多くの唐絵・唐物を使って会所の飾り付けを担当し,やがてその飾り付けの手法が後世,書院造の住宅における座敷飾りに大きな役割を果していったように,これら庭者たちも,やがて成立する書院造庭園において,そのもてる技能を展開するとした.即ち,会所・泉殿の庭づくりの場で,彼らが育て,そしてそれを受け継ぎ,さらに磨き抜いてきた造庭の手法を書院造庭園の場においてもさまざまに活かし,鑑賞に耐える庭としてこれをつくりあげてきたものと推定した.
著者
嶋田 典司 住吉 雅己 豊田 正司 佐藤 幸夫 小島 道也
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.65-73, 1974-03-15

国道6号線沿線の松戸市戸定地区および柏市豊町地区の土壌ならびに植物のPb, Zn, Cdによる汚染状況を調査し次の結果を得た.1.道路に近接した地点における土壌中のPbおよびZn含有率は顕著に高く,Cdについても一部地区で同様の傾向が認められた.また植物中のPb, Zn, Cd含有率はいずれも道路に近接した地点において高く,道路を中心に汚染が拡がっている状況が認められた.2.土壌中(表土)の重金属類の含有率は気象条件および季節によって変動した.変化の幅は道路に近い地点ほど大きかった.3.植物中のPb, ZnおよびCd含有率の変動は植物の種類によって異なったが,セイタカアワダチソウにおいては経時的に含有率が増加する傾向があった.4.下層土の各重金属含有率は表層土よりもかなり低かったが,道路に対する位置の関係については表層土と同様の傾向が認められた.
著者
沖津 進 百原 新
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.137-145, 1997-03-28
被引用文献数
5

1.我が国におけるチョウセンゴヨウの分布を既存資料に基づき整理し,北東アジア大陸部での分布と比較してその特徴を明らかにした.2.水平分布は本州中部地方にほぼ限られ,四国に僅かに隔離分布する.垂直分布は,標商1800m以上の亜高山帯に分布地点の73%が集中し,1800m以下の山地帯には少ない.3.同じような水平分布範囲を示すシラベやトウヒと比較して産地数はかなり少ない.また,ほとんど優占林を作らず,分布しても分布量は少ない.4.北東アジア大陸部では,チョウセンゴヨウは沿海州から中国東北地方,朝鮮半島北部にかけての広い範囲で量的に多く分布し,優占林を形成し,落葉広葉樹と混交してチョウセンゴヨウ-落葉広葉樹混交林を作るとともに,垂直分布の上からは常緑針葉樹林帯の下部の山地帯が分布の中心となってしいる.5.北東アジア大陸部での分布と比較すると,我が国のチョウセンゴヨウは,垂直分布域の下部を山地帯性の樹種に占拠された形になっており,そこでは分布が消えるか,ごく局限された状態で,亜高山域に追い上げられた形となっている.
著者
多々良 美春 Hamacher Andreas 白井 彦衛
出版者
千葉大学園芸学部
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
no.52, pp.43-51, 1998-03

浄土庭園の語義規定に使用される「浄土の雰囲気を表わす」という表現は, 抽象的あるいは主観的であり語義規定としては不適当であると考える.むしろ「仏堂」と「池」の物理的な位置関係あるいは庭園意匠の特徴による規定が望ましい.本論では他の浄土庭園の事例に比べて「仏堂と園池の視覚的な一体性」が希薄であると思われた円成寺と浄瑠璃寺を対称に, 「仏堂」と「池」の位置関係を明確にするための基礎的な考察として, 園池が造営された時点の空間構成を明らかにしようとした.円成寺では仏堂と園池の地盤高に落差があり, 中間には楼門が建てられている.また楼門下と園池の境界部は早くから主要導線であった可能性が高い.このような円成寺の空間構成の成立は, 伽藍の発展経緯に求められることを示した.さらにこの考察の過程で, 円成寺の南北の橋については創建当時にはなかったか, あるいは仮設であった可能性のあることを指摘した.一方で仏堂と園池の視覚的な一体性は, 地盤の高低差あるいは楼門の存在によって阻害されていると予想されたが, 南岸からの視点が考慮されている可能性も否定されなかった.浄瑠璃寺では仏堂と池の配置バランスに偏りが見られる.この空間構成上の特徴を他の浄土庭園との比較によって示した.そして現在の園池が, 九体阿弥陀堂とは別の阿弥陀堂である「西堂」に対して造られたものであって, 九体阿弥陀堂に対してその調和を考慮して計画的に造営されたものではないという見解を示した.また「西堂」を想定した場合には仏堂と池の配置バランスが適当になると推測した.
著者
鈴木 創三 田中 治夫 浮田 美央 斉藤 政一 杉田 亮平 高橋 直史 古川 信雄 矢野 直樹 双胡爾 竹迫 紘 岡崎 正規 豊田 剛己 隅田 裕明 犬伏 和之
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.9-16, 2005-03-31
被引用文献数
1

千葉大学森林環境園芸(利根高冷地)農場内の森林土壌および果樹園土壌(地点名は各TNF-3およびTNO-5)の無機成分および粘土鉱物組成を分析した結果,以下のことが明らかとなった.1.両土壌ともに,現在の表層と下層の土壌の下に過去の表層と下層の土壌が埋没し,それぞれA/Bw/2A/2Bw層およびAp/2BC/3BC/4Bw/5AB/6A層の配列であった.2.両土壌ともに可給態リン酸含量は表層(A, Ap層)が下層よりも高く,とくにTNO-5のAp層はTNF-3のA層より8倍程度も高かった.逆にリン酸吸収係数はA, Ap層が下層より低く,リン酸吸収係数とアロフェン推定含量とは高い正の相関関係が認められた.3.陽イオン交換容量はTNF-3ではA層のほうがBw, 2A, 2Bw層より高かったが,TNO-5ではAp層より5AB, 6A層のほうが高かった.交換性のカルシウム,マグネシウム,カリウム含量および塩基飽和度はTNF-3よりTNO-5が大きかった.4.両土壌ともに,A, Ap層は下層よりも粗砂の割合が大きく,粘土,シルトおよび細砂の割合が小さかった.5.両土壌ともに,A, Ap層の酸化物(OX),非晶質粘土鉱物(AC)および結晶性粘土鉱物(CC)の割合は概ね30, 40および30%であった.しかし,TNF-3の2A層,TNO-5の4Bw, 5ABおよび6A層ではOX, AC, CCの割合は約10, 30および60%で,A, Ap層よりOX, ACの割合が小さく,CCの割合が大きかった.6.両土壌ともに,結晶性粘土鉱物組成はいずれの層もアルミニウム-バーミキュライト(Al-Vt)およびクロライト(Ch)を主体とし,これにアルミニウム-スメクタイト(Al-Sm),スメクタイト(Sm)およびバーミキュライト(Vt)が含まれる組成であった.
著者
浅野 二郎 仲 隆裕 藤井 英二郎
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.157-164, 1993-03-25
被引用文献数
1

明暦2年(1656),良尚法親王の創建に係る曼殊院小書院の一畳台目と,小書院に北接して営まれた三畳台目の茶室・八窓軒について論じた.小書院二の間(富士の間)の西に接して設けられた一畳台目の茶室については,小書院の部屋割りから,これがかつて東山殿にみられた茶立所に通じる茶礼が成立していたこと,この場合,台天目がその中心作法とされていたであろうことを推測した.また,この小間は,一面において極めてくつろいだ茶の湯の場として利用されることもあったとみた.茶室・八窓軒については,主に地下の者や町衆を客としての茶の湯の場として用いられたものと推測した.近衛邸の表向茶室については,指図によって,応山時代に「数奇屋」と書き込まれた一室が認められるが,これはいわゆる草庵茶室のそれではなく,茶立所としての機能を果たすものであったとした.しかし,孫の予楽院の時代に至っては,四畳半の囲居が「白木書院」に接して設けられ,そこでは草庵茶室,即ち,武家・町衆の茶に一歩の歩み寄りを感じさせるものがあるとした.曼殊院創建の翌年,即ち,明暦3年には良如法主が西本願寺黒書院を営む.黒書院には一の間に付属して七畳の茶室が設けられた.曼殊院小書院と,この西本願寺黒書院の創建には,その計画について良尚法親王にとっては兄,良知法主にとっては義兄に当たる八条宮智忠親王の存在が考えられ,兄宮の建築に対するすぐれた造詣と,茶に対する深い理解に基づく指導,即ち,両者の日常生活の在り方,茶に対する対応のちがいをふまえた適切な指導が,それぞれの場に相応しい茶の湯の空間の創成を成し遂げさせたとした.
著者
小野 佐和子
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.45-55, 1997-03-28
被引用文献数
1

帯笑園には,広い地域から様々な階層の人が訪れている.それは,帯笑園が東海道に面しており,その名声が,東海道を往来する旅人を通じて広まり,旅人を引き寄せたことによる.植松家が収集した多数の書画も帯笑園の魅力であった.植木や書画を話題に,富士を眺望する庭で一時を過ごすのが,帯笑園での訪問者の一般的な過ごし方であった.訪問者は,帯笑園に様々なものをもたらしている.大名や公家といった高貴な身分の者のもたらすのは,訪問による栄誉や返礼に贈られる工芸品や美術品であり,それには公家たちの書や絵画も含まれる.第一線で活躍する武士たちは珍しい話,特にこの時期には異国船や大砲についての新しい知識と情報をもたらした.遊芸の師も,煎茶や月琴といった当時教養ある人々が習得すべきとされる芸をたずさえて訪れた.帯笑園の魅力を作り出す,珍しい植物も旅をする植木屋たちが運んでいる.旅人たちを通じて,植物や書画のコレクションが集められ,それらのコレクションが帯笑園の名声を高めてさらに訪問者を呼び寄せる.これら植物と書画のコレクションを通じて,小さな宿場町の民家の庭である帯笑園は,様々な土地から訪れた様々な階層の人々がひとときを過ごす場たり得たのである.
著者
大野 正夫
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.39-55, 1956-12-30

(1)1950年度において果樹の人工授粉の能率化をはかる第一手段として花粉の増量剤について小実験を行つた.(2)モモ,ナシ,カキ,リンゴについて,夫々の授粉用花粉に増量剤としてシッカロトール,小麦粉,馬鈴薯澱粉,小豆粉を用いた.(3)増量剤の混入率は重量比で花粉の8〜10倍とした.(4)これ等増量剤中果樹の授精に障害のあつたもはのシッカロールで,次で粒子の大きな麸を混じた小麦粉は成績わるく,馬鈴薯澱粉,小豆粉はこの範囲の混合比では良好な結果率を得,花粉単用区に比しいささかも遜色がなかつた.(1)1951年度にカキ富有について禅寺丸花粉に石松子,蒲黄を夫々20, 40, 60倍量容量比で添加し圃場での人工授粉による結果率を調査した.(2)増量割合が多くなるに従つて結実は低下した.その実用的利用倍率は30〜40倍までの範囲と考えられた.(3)結実率不良はカキ花粉に対し,石松子60倍添加の場合にのみ看取された.(4)増量割合が増加するに従い,果実内種子数も減少した.(1)1952年において,カキ富有に対し,禅寺丸花粉の人工授粉に際し,増量剤として石松子,蒲黄の他胡桃,赤松,多行松,ヒマラヤ杉,玉蜀黍花粉を使用した.増量割合は容量で10倍とした.(2)実験は千葉県松戸,埼玉県上尾の2ヶ所で行つた.その成績は何れも同様な傾向を示し,花粉単用区に比し遜色のない良好な結実率を示したのは胡桃花粉増量区であつた.(3)胡桃花粉を増量剤として用いた区の果実内含有種子数も花粉単用区に近似し,1果につき4個以上のものが76〜82%を占めた.(4)人工発芽床上での増量花粉中のカキ花粉の発芽並に花粉管の伸長も胡桃花粉区がもつとも花粉単用区に近似して良好であつた.(5)これを要するに,胡桃花粉はその大きさ,粉末比重共にカキ花粉のそれに近似しているのでよく混合し,柱頭にカキ花粉がむらなく附着することと,柱頭上で何等有害作用を及ぼさないことによるためと考えられた.
著者
白井 彦衛 貫井 文雄 竹林 昭廣
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.67-79, 1983-12-25

本論文は,東京の池泉136カ所,池泉庭園65カ所を調査することにより,江戸から東京にかけての水源の変化と池泉庭園の変質状況を解明することを目的としている.江戸の庭園の特徴は,池泉を効果的に利用するところにある.庭園の水源は,海,河川,地下水(湧水,井戸水),上水に依存していたが,その中で湧水の利用が圧倒的に多かった.江戸が東京と呼称を変えたころから,市街地は構造的に大きな変貌をとげた.その結果,水辺の埋立,上水の廃止,地下工事による湧水の涸渇など水系の変化を生じ,同時に池泉庭園もまた大きく変質した.とくに,上水型庭園は7カ所から0カ所に,潮入型庭園は6カ所から1カ所に,湧水型庭園は37カ所から18カ所に減少したが,河川水型庭園の4カ所には変化がなかった.その他に特殊なタイプが若干あり,また15カ所の庭園の水源は不明であった.
著者
古谷 勝則 油井 正昭 赤坂 信 多田 充 大畑 崇
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.21-41, 2001-03-31
被引用文献数
2

環境庁は1974年から一部の国立公園でマイカー規制を行っている.既に20年以上が経過しており,実施当初とは社会条件が変化し利用の多様化が進んでおり,マイカー規制の効果,問題点の改善を検討し,より良い制度を構築する必要がある.そこで本研究は日光国立公園尾瀬地区で実施されているマイカー規制を対象に,マイカー規制とその情報提供に関する現状を把握するとともに,問題点を明らかにし,今後の方向性を考察することを目的とした.研究の方法は文献・資料調査,関係機関へのヒアリング,マイカー利用者に対するアンケートを行った.これらの結果,次の知見を得た.(1)自動車利用者の集中は特定の時期の土,日,祭日に発生し,道路渋滯などの利用環境の悪化や,排気ガスなどの自然環境の悪化を引き起こしている.(2)マイカー規制の利用者への周知が不十分である.(3)道路渋滞,駐車場不足による不法駐車の改善に効果が見られるものの利用時期の分散には大きな効果は果たしていない.(4)公園管理者,利用者,地域の3者の協力の元で,利用者を平日利用へ分散させることが重要である.(5)平日利用分散の方策には駐車場料金,代替交通料金を土,日,祭日と平日で格差をつける.(6)公園管理者は,利用者と地域へのマイカー規制の情報提供を徹底するシステムを構築する必要がある.
著者
〓 世宝 横井 政人 斎藤 規夫 上田 善弘 鴫原 淳 本田 利夫
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.13-17, 1995-03-30

本研究はこれまでAcerで報告されていないcyanidinn 3-O-[2"-O-(β-D-xylopyranosyl)-6"-O-(α-L-rhamnopyranosyl)-β-D-glucopyranoside] (通称cyanidin 3-xylosylrutinoside) をAcer macrophyllumおよびBegonia semperflorensの品種'F1アンブラ・スカーレット'と'F1アンブラ・ピンク'の銅赤色の春の新葉から単離精製し、その正確な構造をFAB-MSおよび^1H-^1H COSYとDIFNOEを含む^1H-NMR技術によって同定した.その上、このcyanidin 3-xylosylrutinosideのAcerでの分布を調査し、この色素はAcer macrophyllumの主要アントシアニンであることを明らかにした。
著者
栗原 伸一 大江 靖雄
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.97-105, 2002-03-29
被引用文献数
1

農林漁業体験民宿を中心としたグリーンツーリズムによる地域活性化の経済効果を,全国で最も体験民宿が集中している長野県飯山市を事例に,アンケートや地域産業連関分析等によって測定した.その結果,体験民宿利用客1人当たりの消費額は1万7千円程度となり,その年間宿泊者数を現在よりも30万人多い160万人確保できた場合,飯山市への直接的な経済効果は272億円,間接的な波及効果を加えた総合経済効果はその1.24倍の338億円となることが分かった.当初,民宿をはじめとした宿泊施設は生産に直接関わっていないため,それほど大きな波及効果は期待できない可能性もあったが,農産物の販売や食料品の仕入れなどを通した生産誘発効果が,農林水産業や商業,製造業に対して比較的大きく存在していたことは注目すべきであろう.また,飲食業をはじめとしたサービス部門に対する波及効果も大きいことから,今後は,体験民宿を初めとしたより高付加価値型のツーリズムの確立が地域活性化には肝要であろう.
著者
本多 〓
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.73-91, 1972-12-25

1.植栽による遮音施設の開発のために,その基礎研究として緑地の防音機能について各種の調査と実験とを行った.2.実態調査は東京都内の大緑地について,指示騒音計,高速度レベルレコーダーを用いて音の分布を測定し,なお重要な地点では24時間測定を行った.実験には,125, 250, 500, 1,000, 2,000, 4,000, 8,000の各周波数毎に音を発生させ,各種条件下の樹木を通過させてその減衰度を調べた.3.大緑地(明治神宮境内)の実側で常時発生している80ホン前後の騒音が,森の中央部では40ホン前後となり,また季節的にみれば,夏季には45ホン以下の静穏地域が最大に拡がり,冬季にはその面積が縮少することよりみて,樹木の存在が遮音に役立ち,また樹葉が防音に大きく関与していることが認められた.4.同一樹種が100m以上連続する樹林での実験によれば,高い周波数帯の音ほどカットされやすく,その減衰曲線は急カーブとなる.5.アベリア(Abelia grandiflora)では,1,000Hzにおいて100ホン前後の音を70ホンに低下させるために,植栽のない場合(アスファルト舗装)60mを要したが,林の中では17mで足りた.6.各種の生垣の遮音効果試験によれば,樹種や周波数により影響を受けるが,例えば2,000Hzの音が,アオキ(Aucuba japonica)の厚さ35cmの生垣を通過すると,4.6ホンの低下がみられた.7.コンクリートなどの壁体の反射音に対する植栽の効果をみると,樹種と植栽の厚味によって異るが,例えばカイズカイブキ(Juniperus chinensis var. kaizuka)の4列植では,1,000Hzの音では2.2ホン,8,000Hzの音では5.9ホンそれぞれ低下した.8.交通騒音に対する実態調査では,道路は周辺地域と同一レベルにある場合よりも,高いか低い場合に周辺地域における音の減衰度は大きい.9.道路際に設けられた高さ1mの土塁上に,草丈約1mの密生したススキ(Miscanthus sinensis),ヨモギ(Artemisia vulgaris var. indica),クズ(Pueraria hirsuta)などの草木またはつる性樹の植生が加わる程度でも,その背後では10ホン前後の低下がみられた.10.道路際で80ホン前後の騒音を,環境基準に準拠して50ホン前後に低下させるためには,大面積の緑地を設ければもちろん可能であるが,そのための幅を多くとれない場合には,まず道路を周辺地域より低くし(切通し道路),その法肩(斜面上端)に小土塁,コンクリート塀などの構造物と植栽とを組合せた複合施設を施せば,30ホン前後の騒音の減衰を得ることば困難ではない.
著者
沖中 健 野島 義照 小林 達明 瀬戸 裕直
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.125-134, 1994-03-25
被引用文献数
17

最近夏期における建物の冷房を中心として,省エネルギーや都市のヒートアイランド現象がクローズアップされてきた.この対策としては,つる植物によって建物を被覆することが先ず考えられる.筆者等は,東京都心部のコンクリートアパートにおいて,ナツヅタ被覆の有無によって,夏期に壁面や室内温度がどのような影響を受けるかを,熱電対等によって計測した.その結果,気温特に日射の変動による壁面や室内温度の変化を知る事が出来た.同時にナツヅタの蒸散量や樹液流速と温度緩和との相関を探った.
著者
高橋 英吉 喜々津 哲男 中村 正博 永沢 勝雄
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.19-23, 1974-03-15

1.千葉県のような雨の多い火山灰土壌で栽培された巨峰の,著しい花振いを防止するために,gibberellin (GA)処理の効果をB-995との比較において検討した.2. GA処理によって無着粒の果房数は減少し,着粒数は増加した.GA_<4+7> 100ppmは着粒数の増加に非常に効果を示した.7月8日の着粒率は,GA処理によって5〜6倍に増加していた.3. GA処理によって果梗重および果梗径が増し,特に100ppmでその効果が大きかった.果梗重はGA処理によって2.5〜3倍に増加していた.4. GAは果粒の単為結果を誘起し,それを肥大させた.しかし,このGAによって誘起された単為結果果粒は有核果よりも小さく,その約80%は中(5.5〜6.4g),小(5.4g以下)果粒であった.この単為結果果粒はdouble sigmoidの生長曲線を示した.5.可溶性固形物および酸はGA処理によってあまり影響されなかった.しかし,果皮の色素はGA_<4+7> 100ppmで最も多かった.
著者
福富 久夫 安蒜 俊比古
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.85-91, 1970-12-31

前回報告した松戸および柏市の小学校のうち,校舎の平面型が異なる4校を対象として,夏の日課時期における児童の屋外行動を調査した.なお,動的利用調査も一部試みた.その結果を要約すれば次のようである.1.学校における自由時間に屋外で遊ぶ児童は,ピーク時で40〜70%であり,冬の時期に比べて10〜15%多い.中学年が最も高率であり,低学年が最も低い.性差については,女子の方が男子より10%程度低い.この傾向は季節的に変りがない.時間的には,昼休みが最も高く,休み時間の長さが関係する.2.遊びの内容は,年令・性別によって異なる.低学年はスポーツ的な遊びは殆んどなく,器具を使った遊びが最も多い.中学年はポール遊びが最も多く,高学年では殆んどボール遊びである.学校の施設条件などによって差がみられる.また,学校の体育指導による影響から季節的に変化がみられる.3.児童の形成する集団の範囲は,2〜45人であり,各学年を通じて最も多いのは,2〜5人の小グループであるが,学年・性別によって差がある.低学年児童および中学年女子の集団化の大きさは,7人以下が殆んどである.中学年男子および高学年男女は,集団の人数は14人位までである.男女の混合集団は10〜14人の中グループが最も多く,集団化の大きさは19人位までである.遊びの種類別にみると,集団化の大きさは最も盛んな遊びが最も集団のサイズが大きい.季節的には,冬の時期の方が夏より同じ遊びでも,多少集団のサイズが大きくなる傾向がある.4.学年・性別によって使いやすい場に差がある.低学年は器具の近辺と校舎前の限られたスペースであり,中・高学年男子は運動場の広い場所を中心に,最も大きなスペース,同じく女子の行動領域は,この男子と低学年の間に分散し,最もまとまりがない.学校の施設条件や学年構成の違いなどによって,かなりおもむきが異なる.運動場におけるさまざまな遊びや運動は,集団化の水準を高め,知的発達や社会性を育てるために重要なのであって,児童の形成する小集団と,その行動をより重視して校庭の取扱いを検討することが必要である.
著者
慶野 征〔ジ〕
出版者
千葉大学園芸学部
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
no.54, pp.115-123, 2000-03

農協問題は, 運動論, 組織論, 経営論など様々な観点から接近することができる.本稿では, ミクロ経済学の初歩的な理論を用いて, 農協の販売事業について経済理論的に接近した.農協が完全に競争的な状態にある場合は, 農協がそのような状態を創り出す過程での貢献を別とすれば, その行動は集出荷商人の行動とほぼ同じである.他方, 農協が競争的な状態にない場合は, その役割は大きい.買手独占を想定した場合, 集出荷商人は利潤極大化を目指して行動するが, 農協は利潤極大化を唯一の目標として行動することはない.組合員に対し, 販売代金のほかに超過利潤を利用高配当金として給付し, 組合員の生産拡大の誘因を生み出すことにより, 購入量と買取価格を制限し, 超過利潤を獲得する独占者の行動を抑制する装置が内装されていることが明らかとなった.Farmers' cooperative problems can be approached from the exercise argument, the organization argument, and the management argument etc. I consider the selling business of the farmers' cooperatives by using the basic theory of micro economics, in this manuscript. The farmers' cooperatives act almost as same as the collection merchant, in the condition of competition completely. The farmers' cooperatives have important roles in the condition of non-competition. The collection merchant's objective is to maximize net profit by equating MFC=MRP in the case of monopsony. The farmers' cooperatives often have more objectives than maximizing net profit. A cooperative patron can receive the payment in the form of a prices and patronage refund. This higher payment causes the production expansion of the member of cooperatives. The cooperative systems have the device that controls the action of the monopsonist who restricts purchase quantity and price and get the excess profits.
著者
岩佐 亮二 本間 忠 高野 史郎
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.103-113, 1962-12-31

1 従来から栽培されているマツバボタンPortulaca grandifloraは1年草であり,8月中下旬以降草勢が衰え,10月に枯死する.この種の花弁では,数や色彩に巾広い変異が見られる.2 近年導入されたジュエル種P. parana (?)は単弁バラ色であり,11月迄咲きつづけ,東京附近では冬期の簡単な保護によって越冬し,永年生となる.3 著者等は,ジュエルにつき,秋口の花壇用としての価値を高く評価しているが,この評価を延長して,品種的な分化の穫得を企図し,数年来,種間交雑・コルヒチン処理・レントゲン線照射・栄養接近等を行って来た.4 圃場における種間交雑では,正逆何れの場合も,柱頭並びに花柱内で,異種花粉に対する抑制作用が強く発現し,ためにF_1種子を得ていない.5 この阻害作用をうけて,花粉の多くは異種柱頭上で不発芽に終り,一部発芽したものも,その花粉管は柱頭内に侵入出来ずにトグロ状に彎曲し,極くわずかの花粉が正常に近い花粉管を出すものの,その伸長も遅々として進まない,ことを観察した。6 花粉の人工発芽試験では,培地の組成に若干の工夫を加えたにも拘らず,満足出来る状態に達していない.但し,庶糖20%,寒天1.5%の区が多少優っていた.7 上記培地の表面下1mmの深さに自種雌蕋を埋没すると,その直上で,花粉の発芽状態は可成りの改善を示した.8 雌蕋に含まれる或る種の化学物質を想定すれば,このものは,他種花粉に対しては阻害的に,自種花粉に就ては促進的に働くものと推測される.また,それは寒天中で拡散する.9 栄養雑種・栄養接近については,台と穂の組合せを代えても,プラスの結果が現われなかった.
著者
劉 東啓 油井 正昭
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.75-84, 1999-03-31

The goal of this study is to engage in analysis concerning the park plans of Taipei City under the Japanese reign and how the plans influence the present park plans. The analysis result shows: (1) The process of park plans of Taipei City before the Second World War can be divided to 4 stages. (2) The park plans of Taipei City under the Japan reign is almost continued after the Second World War. (3) The construct of parks of Taipei City is influence by the park plans of Japanese reign in the park plan, the plan idea and the system.