- 著者
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バーチ J. B.
- 出版者
- 日本貝類学会
- 雑誌
- 貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
- 巻号頁・発行日
- vol.27, no.1, pp.20-27, 1968-08-31
核型分析が近縁種問の類縁関係を知るのに非常に有効であることは明かであるが, 軟体動物では僅かにSTAIGER(1954)その他数篇の報告があるに過ぎない。これはよい検鏡標本を作るのが大変困難なためで, この問題を解決するために著者は組織培養を計画した。材料はCatinella vermeta(SAY)(オカモノアラガイ科)とHelix pomatia L.(ブドウマイマイ, エスカルゴ;マイマイ科)である。1) 生殖腺の摘出。殻をよく洗い, 70%アルコールで拭き乾いてからこわして軟体部を取出す。次に中腸腺(肝ぞう)に埋没している生殖腺(両性腺)を注意深く摘出する。この際, 小葉を傷つけぬことが大切である。生殖腺は蝸牛用生理塩水で数回洗った後, 1∿2mm^2に切刻んで手早く生理食塩水で洗って培養管に入れ培養液に浸しておく。使用器具その他は充分消毒滅菌し, 殺菌灯下で操作することはいうまでもない。2) 培養。4種の培養液(調製等については文献及び付記参照)を使用したが, 結果は何れも良好であった。培養液には何れも10^<-3>モルになるようにコルキシンを添加する。濃度は10^<-5>, 10^<-7>でも効果があった。培養管は室温(23℃)及び15℃に4日間おいたが, 大抵は42∿48時間後検鏡標本を作った。1∿24時間位では分裂像は稀である。また培養温度は23℃も15℃も大差なかった。3) 検鏡。1mm^2位の小片をスライドに取り, 醋酸オルセイン押しつぶし法で検鏡する。4) 結果。C. vermetaでは4対の中部付着型(中部狭窄型, V型ともいう)と小さい2対の次中部付着型(L型)の染色体があり, そのうち1対は他のどれよりも大きい。H. pomatiaでも前種同様で端部付着型(I型)の染色体はないが小型で数が多く, 16対の中部付着型, 11対の次中部又は次端部付着型(J型)の染色体が見られた。両種共染色体の長さは, 細胞が異ってもほぼ一定していた。このように組織培養法が核型の分析や比較に応用されれば, 系統分類学上多大の効果をもたらすものと信ずる。(稲葉明彦 抄訳)