- 著者
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冨山 清升
- 出版者
- 日本貝類学会
- 雑誌
- 貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
- 巻号頁・発行日
- vol.52, no.1, pp.87-100, 1993-03-31
- 被引用文献数
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小笠原諸島父島において, アフリカマイマイAchatina furica(Ferussac)の殻の成長と生殖器形成の様式について観察をおこなった。一般に有肺類に属する陸産貝類は生殖器が形成されて性成熟すると殻の成長が停止し, 殻口外唇部が反転肥厚することが知られている。しかし, 本種では殻口反転はみられない。本種は生殖器が形成された後も3∿8ケ月の間, 殻の成長が継続する。性成熟が完了すると殻の成長は停止し, 時間とともにカルシウム沈着によって殻口外唇部は肥厚する。年齢の若い個体ほど殻口外唇部の厚さは薄いことが経験的に知られているため, 本研究では, 生殖器が形成されている検討個体を, 殻口外唇部の厚さで, 3つの令クラスに機械的にふりわけて比較した。すなわち, 若齢成熟個体(厚さ0.5mm未満), 中間個体(0.5mm以上0.8mm以下), および完全成熟個体(厚さ0.8mmを越える個体)とした。まず, 野外個体で, 殻口外唇部の厚さと殻の成長との関係を検討してみた。その結果, 殻口外唇部の薄い個体は殻の成長が著しく, 殻口外唇部が厚い個体は殻の成長が停止していることがわかった。また, 完全成熟個体とした令クラスはほとんど殻は成長していなかった。殻の成長率と殻口外唇部の厚さは相関があることがわかった。次に加齢に伴う性成熟の状態を比較するために, 若齢成熟個体と完全成熟個体の間で, 生殖器を比較した。その結果, 若齢成熟個体は精子生産のみで卵はほとんど生産しておらず, 完全成熟個体は精子・卵共に生産していることがわかった。しかし, 交尾嚢の比較の結果, 若齢成熟個体・完全成熟個体ともに交尾は行っており, 両者ともに生殖行動には参加していることがわかった。すなわち, 本種は雄性先熟の様式をもつものと推定された。有肺類は卵形成直前にタンパク腺が発達することが知られている。完全成熟個体では, タンパク腺がよく発達した卵形成直前の個体は交尾嚢が重く, よく交尾していることがわかった。本研究の結果, 殻口外唇部の厚さを測定することによって, 各個体の殻成長と性的成熟がある程度推定できることがわかった。