著者
生形 貴男
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.149-160, 2004-01-31
参考文献数
26
被引用文献数
3

イタヤガイ科(二枚貝)の63種について,楕円フーリエ解析を用いて,殻の輪郭を族(tribe)及び生活型の間で比較した。その結果,足糸付着型のものと自由生活型のものとの間でも,また族の間でも,フーリエ係数やその主成分の分布に差異が検出された。祖先的な生活型と考えられる足糸付着型のもの同士で比較すると,イタヤガイ亜科に属するものの方が,カミオニシキ族やヒオウギ族のものよりも,丸くて対称性の高い輪郭成分の割合が大きい傾向にある。一方,自由生活型のものは,キンチャクガイ族の一部を除いて,従来言われていた通り,丸くて対称性の高い輪郭成分が卓越する。以上の結果は,カミオニシキ亜科よりもイタヤガイ亜科の方が,もともと自由生活に適した丸くて対称性の高い形態を獲得しやすかったことを示唆する。このことは,自由生活者がイタヤガイ亜科に多くカミオニシキ亜科に少ないことの理由のひとつであるかもしれない。また,本研究で扱った材料の中でカミオニシキ亜科唯一の自由生活者であるホタテガイ(カミオニシキ族)は,イタヤガイ亜科の自由生活者の多くのものよりも,高さ/長さ比がやや大きくて縦長である。これは,カミオニシキ族に顕著な縦長の輪郭要素が,自由生活型に進化したホタテガイにおいてもなお祖先形質として保存されているからだと考えられる。

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