著者
高田 宜武 伊藤 祐子 林 育夫
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.199-207, 2013

バカガイMactra chinensis幼貝の遊泳行動を実験室内で観察した。殻長7~15 mmの小型のバカガイは底面から跳躍後に,足を左右に振って遊泳した。遊泳速度は殻長7~9 mm の個体で毎秒平均6.0 cm,9~15 mmの個体で毎秒平均7.8 cmであった。遊泳距離は平均17.4 cmであった。殻長31~35 mmのやや大きい個体は,跳躍はするものの遊泳行動は認められなかった。水塊中でのバカガイの移動距離は,足を振って遊泳することにより,単なる跳躍よりも4.1倍増加した。したがって野外での遊泳行動は,捕食のリスクを低減するとともにより良い生息場所に潜砂できる可能性を増加させる適応的行動だと思われる。
著者
白井 亮久 近藤 高貴 梶田 忠
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3-4, pp.151-163, 2010-03-31 (Released:2016-05-31)
参考文献数
36
被引用文献数
1

琵琶湖固有の絶滅危惧種イケチョウガイと中国からの移入種ヒレイケチョウガイの交雑の実態を探るため,分子マーカーを用いて解析を行った。ミトコンドリアのCox遺伝子と核rRNA遺伝子のITS1領域の塩基配列を用いた系統解析の結果,両種はいずれの分子マーカーでも区別されることが分かった。遺伝的組成を調べたところ,琵琶湖と霞ヶ浦の淡水真珠養殖場では両種の交雑に由来すると考えられる個体がみつかった。琵琶湖の養殖場は自然環境とは完全には隔離されていないため,逸出した養殖個体とイケチョウガイの野生個体との交雑が懸念される。姉沼の野生集団は移植された養殖個体の逸出に由来するものの,唯一交雑の影響を受けていない純粋なイケチョウガイの集団であると考えられるため,保全上非常に重要である。
著者
上島 励
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1-2, pp.91-94, 2002-06-30 (Released:2018-09-01)
参考文献数
4

Preservation of molluscan specimens for DNA analysis is one of the most important collection management issue in modern malacology. The merits and demerits of two simple methods of DNA preservation, storage in ultracold freezer and alcohol preservation, are compared. Preferred protocols for alcohol preservation are described.
著者
伊藤 寿茂 上杉 翔太 柿野 亘
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3-4, pp.79-88, 2016-11-17 (Released:2016-12-10)
参考文献数
36
被引用文献数
2

Host species for the glochidia of the freshwater unionid mussel Cristaria plicata (Leach, 1815) were identified by determining whether the glochidia infected 27 fish taxa. The fishes were kept in tanks for 11–17 days after glochidial infection, and the numbers of glochidia and metamorphosed juveniles detached from the hosts were counted. Living juveniles of C. plicata detached from Tribolodon hakonensis, Pseudorasbora parva, Oryzias sp., Anabas testudineus, Trichogaster trichopterus, Trichopodus microlepis, Macropodus opercularis, Odontobutis obscura, Acanthogobius flavimanus, Gymnogobius urotaenia, G. castaneus, Tridentiger brevispinis, Rhinogobius giurinus, R. nagoyae and Rhinogobius sp. Therefore, these fishes were identified as suitable host species for the glochidia of C. plicata. Some native fishes that inhabit Anenuma Lake (e.g., Gy. castaneus) are considered to be useful local hosts. Moreover, some labyrinth fishes such as Anabas testudineus, which can climb out of the water and crawl over wet land, may disperse glochidia and juveniles over land in southern areas.
著者
Susumu Ohtsuka Kazunori Hasegawa Taeko Kimura Hiroshi Miyake Yusuke Kondo Ken Iida Honorio Pagliawan Ephrime Metillo
出版者
The Malacological Society of Japan
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1-4, pp.93-98, 2017-11-27 (Released:2018-01-11)
参考文献数
39

ウロコガイ科二枚貝ベッコウマメアゲマキScintilla philippinensis Deshayes, 1856の生体がフィリピン・パラワン島で採集されたが,外套膜とその膜上の突起,足を用いてウミウシ類及びカニ類に擬態と考えられる行動が観察された。ウミウシ類型の場合,外套膜を変形させて形態を似せる。カニ類型の場合には形態的類似性だけでなく足も用いて行動も真似る。ウロコガイ上科は他の動物に共生することで知られるが,擬態に関する知見は少ないので,今後のより詳細な研究が待たれる。
著者
中山 大成 長谷川 和範
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1-2, pp.19-26, 2016-04-13 (Released:2016-04-15)
参考文献数
12

沖縄県恩納村瀬良垣から金城浩之氏によって採集された日本産イトカケガイ科の1種をイボヤギヤドリイトカケ属(新称)Epidendrium A. & E. Gittenberger, 2005の新種として記載する。また,本種の属位を決定するにあたり,従来北西太平洋でAlora属に含められていた近似種と比較するとともに,それらの属位についても見直しを行った。Epidendrium parvitrochoides Nakayama n. sp. エンスイイトカケ(新種・新称)(Figs 8–10)殻長は3~5 mmの小型で薄く,円錐形。茶褐色。各層に胎殻は平滑で円筒形,体層,次体層とも下方に角張るが底盤を形成しない。次体層は6層内外で,殻表は縦肋と螺肋が交差し格子状の彫刻をなす。殻口は四角く外唇薄く著しい張り出しにはならない。臍孔は大きく開く。タイプ標本:ホロタイプ,殻長 5.8 mm; 殻径4.0 mm,NSMT-Mo 77925;パラタイプ1,殻長4.8 mm; 殻径 3.1 mm, NSMT-Mo 77924;パラタイプ2,殻長4.3 mm; 殻径 2.8 mm,NSMT-Mo 77923。タイプ産地:沖縄県恩納村瀬良垣,水深20~25 m。分布:タイプ産地のみからしか知られていない。付記:Epidendriumイボヤギヤドリイトカケ属(新称)はE. sordidum A. & E. Gittenberger, 2005ヒロベソイボヤギヤドリイトカケ(新称)をタイプ種としてGittenberger & Gittenberger(2005)によって創設され,従来Alora属とされていた種の幾つかがここに移された。後にGittenberger & Gittenberger(2012)はAlora属とEpidondrium属の違いについて改めて議論し,遺伝子配列の比較から系統的に隔たったものであることを示した。殻の形態では両者の区別はやや困難であるが,貝殻の全般的な形状や殻質などの違いによって区別が可能であると考えられる。これらの形質に基づいて,日本産の従来Alora属に含められていた種を再検討した結果,まず土田(2000)や Nakayama(2003)によってAlora billeeana(DuShane & Bratcher, 1965)イボヤギヤドリイトカケとして図示された種はE. aureum A. & E. Gittenbereger, 2005(Figs 1–2)に訂正される。この種と同時に記載されたヒロベソイボヤギヤドリイトカケも今回初めて沖縄から産出が確認された。E. reticulatum(Habe, 1962)センナリスナギンチャクイトカケは,貝殻の形態から本属に含めたが,本属の知られているすべての種がイボヤギ類に着生する(Gittenberger & Gittenberger, 2005)のに対して,本種はヒドロ虫類のセンナリスナギンチャクに付着する(Habe, 1962)ことから,今後の詳しい検討が必要である。Alora annulata (Kuroda & Ito, 1961)テラマチイトカケは寄主などの情報が不明であるが,原殻の形態的特徴と近年の他の文献等に倣い暫定的にAlora属に残す。Alora kiiensis Nakayama, 2000キイテラマチイトカケは明らかに異旋する大型の原殻をもつことなどから,タクミニナ科のTuba属に移される。本新種はE. billeeanumやイボヤギヤドリイトカケよりも小型で,螺層が角張りを持ち,殻口が方形であることで明瞭に異なる。ヒロベソイボヤギヤドリイトカケとは縫合が浅く,彫刻が弱いことで区別される。センナリスナギンチャクイトカケは殻形が最も近似するが,周縁が丸く,螺肋がより強くて数が少なく,格子状の彫刻を示すことで区別される。
著者
佐々木 猛智 齋藤 寛
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.191-194, 2005-12-31

溝腹類は世界中から240種が知られているが,その生態についての情報は乏しい。溝腹類は少数の例外を除いて刺胞動物を食物としていることが知られているが,摂餌の様子が直接観察された例は大型で細長い体をもつカセミミズ属Epimeniaのみで,他の多くは消化管内容物に見られる刺胞から判断されたものである。また刺胞動物の種類も宿主であるヒドロ虫類やヤギ類などに絡みついて採集されもの以外は殆ど分かっていない。著者の1人佐々木は淡青丸による遠州灘沖の生物調査において,イソギンチャクに付着した溝腹類を採集した。溝腹類がイソギンチャクを摂餌する様子を直接観察した例はこれまでないと思われるのでここに報告する。採集された個体はトロール網曳網の刺激によって急激に強く収縮したため,イソギンチャクをくわえたまま引揚げられたと思われる(図1)。採集された種は太短く,体表に中実の針状小棘と,樋状の小棘(図2)をもつことからサンゴノフトヒモ属Neomeniaの種であることは間違いなく,体の大きさや採集された位置,深度(水深763〜796m)からおそらくサンゴノフトヒモNeomenia yamamotoi Baba, 1975と同定される。またイソギンチャクは千葉県立中央博物館の柳研介博士に同定を依頼し,クビカザリイソギンチャク科Hormathiidaeの種であることがわかった。イソギンチャクは海底では上部口盤側は海底から上方に伸びていたと考えられる。したがってサンゴノフトヒモは海底から口盤まで体を起こした状態あるいは這い上がって,摂餌していたと思われる。さらに付着している様子を観察すると,サンゴノフトヒモはイソギンチャクの口盤の縁,触手の密生する部分を吻ではさんでいる。サンゴノフトヒモ属は歯舌や顎板のような食物を切り取る硬い組織を欠いているが,口から突出可能な吻(前腸)をもち,これには種類によって数の異なる複数の括約筋が附属する。また,対になった腹部前腸腺を欠くものの,吻部には多数の単細胞腺が附属する。このようなことから,サンゴノフトヒモ属はSalvini-Plawen(1985)が歯舌を欠く溝腹類の摂餌様式として推測した方法,すなわち餌を消化酵素で溶かしながら吸引する方法によってイソギンチャクを摂餌することが想像される。サンゴノフトヒモ属は外套膜のクチクラ層が薄いがその下にsubepidermal matrix又はground substanceと呼ばれる厚い層をもっている。この組織の性質については知られていないが,今回の観察から,イソギンチャクの触手や槍糸などの刺胞に対する防御機能があることが考えられる。
著者
岩崎 敬二 石田 惣 馬場 孝 桒原 康裕
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1-4, pp.67-81, 2017-11-27 (Released:2018-01-11)
参考文献数
50

Mytilus trossulus Gould, 1850 is a mytilid bivalve with a boreal distribution in the northern Pacific Ocean, northern Atlantic Ocean, and Baltic Sea. The distribution of M. trossulus in Japanese waters was hitherto believed to be restricted to the northernmost island of Hokkaido. However, we discovered dry specimens and dead shells of this species on the northern and central Japan Sea coasts of Honshu Island. Specimens were collected before 1936, before 1948 and in 1951 from Shikaura, Fukui Prefecture (35°56´N, 135°59´E), and were archived at the Fukui City Museum of Natural History as "Mytilus edulis Linnaeus 1758". Dead shells with rotten soft bodies were collected from the Kisakata sandy shore, Akita Prefecture (39°12´24˝N, 139°53´40˝E) on March 29, 2014. In addition, we found old records of the nonindigenous congener M. galloprovincialis Lamarck, 1819 in molluscan lists that were published in Akita, Niigata, Ishikawa and Fukui Prefectures from the 1930s to 1950s. This species was introduced to Japan before 1932 and appears to have been infrequently confused with M. trossulus. In 2007, 2010 and 2014, we conducted field surveys in the regions where the dry specimens and dead shells had been collected but found no M. trossulus specimens. In view of the results of the field surveys and water temperature regime in its distribution range, we believe that the dry specimens and dead shells had drifted from the more northerly Japan Sea coasts of Russia or Hokkaido. The old records of M. galloprovincialis in the molluscan lists may indicate the actual occurrence of the nonindigenous species during the early years of its invasion in Japan.
著者
三浦 一輝 藤岡 正博
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.137-150, 2015

本コンテンツは著作権の範囲内に限り利用が可能です。
著者
山下博由 芳賀拓真 Jørgen Lützen
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.123-133, 2011

シャコ類の巣穴に共生することで知られているDivariscintilla属(ヨーヨーシジミ属,和名新称)の新種が,大分県から発見された。これは同属の日本及び北太平洋からの初めての記録である。Divariscintilla toyohiwakensis n. sp.ニッポンヨーヨーシジミ(新種,新称)殻長約4 mm,殻高約3 mm,膨らみは弱く,丸い亜三角形で,殻頂は僅かに前方に寄り,腹縁中央はごく僅かに窪む。白色半透明,薄質で,殻表は平滑で光沢があり,殻の内側には縁部で強まる多くの放射条がある。両殻に1主歯があり,側歯を欠く。外套膜は殻を覆い,前部に2対,後部に1対と1本の外套触角がある。口の直下の内蔵塊前部に1個のflower-like organ(花状器官:和用語新称)を備える。足は前部・後部に分かれ,後部は顕著に伸張し,その後端背面にbyssal adhesive gland(足糸粘着腺:和用語新称)があるが,組織切片では腺構造は確認できなかった。足の底面にはbyssal groove(足糸溝)が前部から後端まで走っている。フロリダ産のDivariscintilla octotentaculata Mikkelsen & Bieler, 1992に,殻や軟体外形が近似するが,D. octotentaculataは触角が1対多く,花状器官を欠く。ニッポンヨーヨーシジミは,Acanthosquilla acanthocarpus (Claus, 1871) シマトラフヒメシャコの巣穴中に小集団を形成して生息し,その壁面に足糸で付着している。タイプ産地:大分県中津市大新田付記:ヨーヨーシジミ属は,ニュージーランド・西オーストラリアに1種,フロリダ・カリブ海に5種,日本に1種が分布するが,いずれもトラフシャコ上科の種の巣穴に生息し,同上科との生態・進化上の密接な関係が示唆される。種小名toyohiwakensisは,タイプ産地の大分県中津市を含む豊前・豊後地方の古名「豊日別」に由来する。属・種の和名は,玩具のヨーヨーのように足糸でぶら下がり上下する生態に着目して命名されたDivariscintilla yoyo Mikkelsen & Bieler, 1989と,そこから派生した英名yoyo clamに由来する。D. yoyoには,ヨーヨーシジミの和名を与える。
著者
広瀬 もえり 鈴木 廣志 山本 智子
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1-2, pp.55-64, 2003 (Released:2018-09-01)
参考文献数
9

The relationship between body length and color of Elysia ornata (Swainson, 1840) was examined by laboratory experiment and field observation. The results indicated that the difference in body color is not an individual variation but is related to growth. Body coloration follows a sequence from transparent, pale green, dark green, greenish white and to beige, with the length reaching maximum size at dark green, and decreasing thereafter. Based on these results, it was inferred that E. ornata has an annual life cycle beginning in late spring.
著者
髙野 剛史 田中 颯 狩野 泰則
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.45-50, 2019

<p>ハナゴウナ科Eulimidaeの腹足類は,棘皮動物を宿主とする寄生者である。同科の<i>Mucronalia</i>属は形態および生態情報に乏しいグループで,タイプ種のフタオビツマミガイ<i>M. bicincta</i>は生貝での採集報告がなされていない。Warén(1980a)による殻形態に基づく属の概念では,つまみ状の原殻,内唇滑層,ならびに中央部の突出した外唇を有することが重要視されている。また2既知種がクモヒトデ寄生性であることが知られており,これが本属貝類に共通の生態とみなされている。本報では,神奈川県真鶴町の潮下帯より採取されたアカクモヒトデ<i>Ophiomastix mixta</i>の腕に外部寄生する<i>Mucronalia</i>属の1新種を記載した。</p><p><i>Mucronalia alba</i> n. sp.オビナシツマミガイ(新種・新称)</p><p>原殻がつまみ状に突出すること,殻口内唇に滑層を有すること,また外唇は中央部が突出し横からみると大きく曲がることから,<i>Mucronalia</i>属の一種であると判断された。殻は本属としては細く塔型,最大5.5 mm,白色半透明である。後成殻は6.6巻,螺層は時に非対称に膨れ,螺塔は成長に伴い不規則に太くなる。外唇縁痕は不定期に現れ,僅かに褐色を呈する。殻口は細長い卵型。軸唇はまっすぐで,体層の軸から20°傾く。原殻は淡い褐色。</p><p>本種の殻形は,同じく日本に産するヤセフタオビツマミガイ<i>M. exilis</i>と,オーストラリアのクイーンズランドから記載された<i>M. trilineata</i>に似る。一方これら2種は殻に褐色の色帯を有し,また軸唇の傾きが弱い。オマーンをタイプ産地とする<i>M. lepida</i>と<i>M. oxytenes</i>,メキシコ西岸の<i>M. involuta</i>はいずれも本種と同様白色の殻をもつが,前2種は殻が太く螺層の膨らみが弱い点で,また<i>M. involuta</i>は本種と比してはるかに小型である点で区別される。タイプ種であるフタオビツマミガイ<i>M. bicincta</i>,オマーンに産する<i>M. bizonula</i>,スリランカの<i>M. exquisita</i>は,色帯のある円筒形の殻をもつ点で本種と明瞭に異なる。</p><p>上述の種のほか,コガタツマミガイ"<i>M.</i>" <i>subula</i>やヒモイカリナマコツマミガイ"<i>M. lactea</i>"が<i>Mucronalia</i>属として扱われることがある。しかしながら,前者は殻口外唇が湾曲せず,カシパンヤドリニナ属<i>Hypermastus</i>に含めるのが妥当である。後者は,殻形態,寄生生態および予察的な分子系統解析(髙野,未発表)により,セトモノガイ属<i>Melanella</i>の一種であると考えられた。しかしながら,<i>Eulima lactea</i> A. Adams in Sowerby II, 1854が同じ<i>Melanella</i>に所属すると考えられるため,ヒモイカリナマコツマミガイに対する<i>lactea</i> A. Adams, 1864は主観新参ホモニムとなる。そこで,ヒモイカリナマコツマミガイに対する代替名として<i>Melanella tanabensis</i>を提唱した。東アフリカのザンジバル諸島産で,同じくヒモイカリナマコに内部寄生する"<i>Mucronalia</i>" <i>variabilis</i>もセトモノガイ属に含めるのが妥当と考えられ,本論文で属位を変更した(<i>Melanella variabilis</i> n. comb.)。</p>
著者
伊藤 寿茂 北野 忠 唐真 盛人 藤本 治彦 崎原 健 河野 裕美
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.77-87, 2014

2006年に国内で初めて記録された石垣島のドブガイモドキについて,幼生の採集を試み,幼生が寄生している魚種を調査するとともに,実験飼育下で宿主として機能する魚種を確認した。島内の生息地においてプランクトンネットをひき,幼生の採集を試みるとともに,採集した成貝を継続飼育し,放出した幼生を採集した。幼生の殻の形状は亜三角形で腹縁に鉤を持つAnodonta型であり,殻長,殻高,殻幅の平均はそれぞれ221.5 μm,228.0 μm,108.3 μmであった。次に,現場で採集した幼生の寄生を受けていると想定される6魚種(ギンブナ,グッピー,タイワンドジョウ,ティラピア類,オカメハゼ,タウナギ)と,飼育下で放出された幼生を人為的に寄生させた12魚種(コイ,キンギョ,タイリクバラタナゴ,ドジョウ,ヒレナマズ,メダカ,グッピー,タイワンキンギョ,オカメハゼ,タナゴモドキ,ゴクラクハゼ,ヨシノボリ類)を実験水槽内で継続飼育して,魚体から離脱してきた幼生を観察,計数した。その結果,ヒレナマズ,メダカ,グッピー,タイワンキンギョ,オカメハゼ,タナゴモドキ,ゴクラクハゼ,ヨシノボリ類の8魚種より,変態を完了させた稚貝が出現した。寄生期間中に幼生サイズの増大や外形の著しい変化は見られなかった。全離脱数に占める稚貝の出現率は魚種によって差があり,タイワンキンギョ,グッピー,ヨシノボリ類において,特に出現率が高かった。次に,同生息地において採集した6魚種(ギンブナ,カダヤシ,グッピー,ティラピア類,オカメハゼ,タナゴモドキ)を10%ホルマリン水溶液で固定して,魚体に寄生した幼生の状態を観察,計数したところ,グッピーとティラピア類の体に寄生が見られた。寄生は鰓や各鰭のほか,鰓蓋の内側,鰓耙にも見られた。幼生の相対寄生密度および被嚢率はグッピーの方が高かった。石垣島を含むドブガイモドキの生息地においては,その幼生の宿主として,在来種,外来種を含む複数の魚種が宿主として機能している可能性がある。特に,石垣島では,生息する魚の大部分を外来種が占めており,中でもグッピーが主な宿主として機能していることが判明した。このことから,石垣島内における宿主魚類の移入による分布拡大が,ドブガイモドキの分散に寄与した可能性がある。
著者
酒井 治己 高橋 俊雄 古丸 明
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1-4, pp.109-121, 2014-03-31 (Released:2016-05-31)
参考文献数
54

Allozyme variability in the androgenetic freshwater clams Corbicula leana from Japan and the exotic C. fluminea were investigated. A total of 462 individuals of C. leana from 19 localities throughout the distribution range of the species were monomorphic at three allozyme loci as well as in purple inner shell color. Corbicula fluminea from three localities, on the other hand, was variable in shell color; with white, purple, white with purple flash, or deep purple examples. The present results suggest that they may include several clonal lines with different shell colors and allozyme genotypes. We discuss possible diversification of freshwater clams among bisexual species and hermaphroditic clones through clonal capture, genome capture, or ploidy elevation.
著者
奥谷 喬司 小島 茂明 金 東正
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.29-32, 2004-06-30
被引用文献数
1

シロウリガイ属はこれまで北東・北西太平洋から多様の種類が知られてきたが,南西太平洋からはニュージーランド沖とラウ海盆からこの属の出現が予報的に報じられているのみで,分類学的な詳細は公表されていない。ところが,1994年にドイツのゾンネ号が行ったニューアイルランド海盆の調査中,リヒル島沖のエジソン海山から本属の標本を採集していた。今回その後同地点から採集された標本の形態学的および分子系統学的研究(Kojima et al.,未発表)を行った結果,我が国本州沖の南海トラフに棲むナンカイシロウリガイに近似の未記載種であることが判ったので記載した。Calyptogena(Archivesica) edisonensis n. sp.エジソンシロウリガイ(新種・新称)殻長99.8mm(ホロタイプ)。殻頂は前方1/4〜1/5くらいに偏っていて,殻の後域は僅かに広がる。殻皮は薄く,殻頂域では剥離している。〓歯は放射状。浅い殻頂下洞がある。前足牽引筋痕は明らか。エジソン海山の水深1450m。あらゆる点でナンカイシロウリガイに似るが,ナンカイシロウリガイでは前足牽引筋痕が深い孔状になる特異性がある。
著者
奥谷 喬司 藤原 義弘 藤倉 克則 三宅 裕志 河戸 勝
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.61-64, 2004-06-30
被引用文献数
4

約1年半前に鹿児島県野間岬沖の水深約200〜250mに沈下されたマッコウクジラの死体に形成される生物群集の調査を行った結果,鯨骨上にはヒラノマクラ(少数のホソヒラノマクラ混在)の濃密な群生がみられた。本種の外套膜後端は筒状に丸まり,極めて長い"入水管"を形成し,また完全な管状になった出水管を持つほか,足もよく発達して活発に動き回るというイガイ科としては極めて特異な機能形態を持つことが判った。長い水管のため,本種が群生しているとあたかも鯨骨が細いマカロニで被われているようにさえ見える。ヒラノマクラの生体の観察は今回初めてと思われるので,速報する。
著者
狩野 泰則 佐々木 猛智 石川 裕
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.129-140, 2001-09-30
被引用文献数
1

鹿児島県上甑島の汽水湖(貝池 : 模式産地)ならびに高知・愛媛県の3河川(赤野川・仁淀川・蓮乗寺川)河口域の礫下から得られたコハクカノコ科の新種Neritilia mimotoiツバサコハクカノコ(新称)を記載する。貝殻は白色半透明, 殻径2 mm内外で, 殻形は変異に富み, 内唇滑層後端には時にツバサカノコ(アマオブネ科)同様の翼状突起を備える。本種はジャマイカ産のNeritilia pusillaに近似するが, サイズがより大きく, また殻口がより広がる点で区別される。同属のその他の既知種はすべて有色(赤褐色&acd;黄褐色)の殻をもち, 本種と容易に区別される。
著者
山崎 友資 園田 武 野別 貴博 五嶋 聖治
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-18, 2018

<p>サハリン~北海道,本州周辺海域から採集された標本に基づいて,モスソガイ属の分類学的再検討を行った。モスソガイ属は近縁のエゾバイ属の異名として扱われる場合もあるが,貝殻の形態の顕著な違いから,独立した属として扱った。</p><p>これまでモスソガイ属は研究者によって2種3亜種,あるいは1種に分類されていた。本研究においては,Habe & Ito(1980)により定義された5つの種および亜種タクサを操作上のタクサとして,主に貝殻,蓋と陰茎の形態,および地理的分布を比較した結果,以下の3種群に分類された。なお,歯舌形態は中歯の歯尖数に個体間変異が多く,本属において,種レベルにおける分類形質として有効ではないことが明らかとなった。</p><p>1)<i>ampullacea</i>種群:殻は小型,蓋の核は保存されていて丸く,足後縁部の前側に位置し,陰茎の生殖口は丸みを帯びる。ベーリング海,オホーツク海,日本海,北太平洋広域に分布する。含まれるタクソンは,<i>ampullacea</i>のみ。</p><p>2)<i>nipponkaiensis</i>種群:殻は小型,蓋の核は保存されていて丸く,足後縁部の前側に位置し,陰茎の生殖口は三角形。日本海,宗谷海峡に分布する。含まれるタクソンは<i>nipponkaiensis</i>と<i>limnaeformis</i>。</p><p>3)<i>perryi</i>種群:殻は大型,蓋の核は欠けていて裁断状,足後縁部のやや前側に位置し,陰茎の生殖口は鋭く尖る。オホーツク海,日本海,北太平洋広域に分布する。含まれるタクサは<i>perryi</i>と<i>ainos</i>。</p><p>同一種群に含まれる<i>nipponkaiensis</i>と<i>limnaeformis</i>,<i>pe</i>r<i>ryi</i>と<i>ainos</i>のそれぞれは,側所的に生息し,貝殻,特に殻皮の形態から不連続に区別できることから亜種として扱い,モスソガイ属は以下3種2亜種から構成されると結論づけた。</p><p><i>V. ampullacea ampullacea</i>(Middendorff, 1848)ヒメモスソガイ</p><p><i>V. nipponkaiensis nipponkaiensis</i> Habe & Ito, 1980 ナガモスソガイ</p><p><i>V. nipponkaiensis limnaeformis</i> Habe & Ito, 1980 ウスカワモスソガイ</p><p><i>V. perryi</i> <i>perryi</i>(Jay, 1856)モスソガイ</p><p><i>V. perryi</i> <i>ainos</i> Kuroda & Kinoshita, 1956 クマモスソガイ</p><p>ウスカワモスソガイ<i>V. n. limnaeformis</i> Habe & Ito, 1980のタイプ産地は,北海道南部の岩代Iwashiro沖として記載されたが,北海道には岩代という地名は存在せず,岩内Iwanai沖であることが確認できた。しかしながら,ホロタイプの再調査により本タクソンのタイプ産地は詳細地名の特定されない北海道と訂正される。</p><p>本論文で取り扱った標本は全て北海道大学総合博物館分館水産科学館及び,蘭越町貝の館に所蔵されている。</p>
著者
岡野 元哉 和田 年史
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1-4, pp.58-62, 2012-07-31 (Released:2016-05-31)
参考文献数
21

We investigated size structure and reproduction of violet shell Janthina prolongata stranded on the coast of Iwami-cho in eastern part of Tottori Prefecture, southwestern Sea of Japan, on 27 September, 2010. Shell length (SL) exhibited a bimodal size distribution with a range of 6.08–40.36 mm. Our results also indicated that individuals of more than 27.4 mm SL laid egg capsules under their bubble raft. Moreover, there was a significant positive correlation between the length of egg capsules and SL. Larger individuals had shrunken and differently colored egg capsules on the forefront of bubble raft, suggesting that J. prolongata might lay egg capsules intermittently.