著者
高田 宜武 伊藤 祐子 林 育夫
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.199-207, 2013

バカガイMactra chinensis幼貝の遊泳行動を実験室内で観察した。殻長7~15 mmの小型のバカガイは底面から跳躍後に,足を左右に振って遊泳した。遊泳速度は殻長7~9 mm の個体で毎秒平均6.0 cm,9~15 mmの個体で毎秒平均7.8 cmであった。遊泳距離は平均17.4 cmであった。殻長31~35 mmのやや大きい個体は,跳躍はするものの遊泳行動は認められなかった。水塊中でのバカガイの移動距離は,足を振って遊泳することにより,単なる跳躍よりも4.1倍増加した。したがって野外での遊泳行動は,捕食のリスクを低減するとともにより良い生息場所に潜砂できる可能性を増加させる適応的行動だと思われる。
著者
白井 亮久 近藤 高貴 梶田 忠
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3-4, pp.151-163, 2010-03-31 (Released:2016-05-31)
参考文献数
36
被引用文献数
1

琵琶湖固有の絶滅危惧種イケチョウガイと中国からの移入種ヒレイケチョウガイの交雑の実態を探るため,分子マーカーを用いて解析を行った。ミトコンドリアのCox遺伝子と核rRNA遺伝子のITS1領域の塩基配列を用いた系統解析の結果,両種はいずれの分子マーカーでも区別されることが分かった。遺伝的組成を調べたところ,琵琶湖と霞ヶ浦の淡水真珠養殖場では両種の交雑に由来すると考えられる個体がみつかった。琵琶湖の養殖場は自然環境とは完全には隔離されていないため,逸出した養殖個体とイケチョウガイの野生個体との交雑が懸念される。姉沼の野生集団は移植された養殖個体の逸出に由来するものの,唯一交雑の影響を受けていない純粋なイケチョウガイの集団であると考えられるため,保全上非常に重要である。
著者
亀田 勇一 福田 宏
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1-2, pp.15-40, 2015-01-15 (Released:2016-05-31)
参考文献数
60

シメクチマイマイSatsuma ferrugineaは「備前国岡山」をタイプ産地として記載され,鞭状器の形態に多型があることが知られている。このうちタイプ産地を含む岡山県,および対岸の香川県からは,鉤状と棒状の2型が記録されている。この2型を分子系統解析と形態解析によって比較した結果,本来のS. ferrugineaは鉤状の個体群に相当し,先端の丸い棒状の鞭状器を持つグループは,シメクチマイマイとは遺伝的交流のほとんどない姉妹種かつ新種であると判断された。この新種は備讃瀬戸周辺の島々と荘内半島,浅口市~岡山市南部に分布している。倉敷市や岡山市南部の丘陵地は土砂の堆積や干拓によって有史以降に陸続きとなった島であり,本新種の分布はこれらの丘陵地に限定されていることから,本来は本州や四国本土にはほとんど分布せず,瀬戸内海中部の島嶼部に固有であった可能性が高い。生息地はいずれも他の陸貝の種がわずかしか生息しない乾いた林内であることから,本新種は瀬戸内海島嶼部の乾燥した気候に適応した種であると考えられる。Satsuma ferruginea(Pilsbry, 1900)シメクチマイマイ殻は低い円錐形で,殻径12.7~22.2 mm,殻長 9.8~16.9 mm 程度,4.0~6.3層。殻表は時に鱗片状の殻皮毛を持ち,光沢は弱く,淡黄白色~赤褐色を呈する。周縁は丸く,褐色の色帯を有する。胎殻表面には鱗片状ないしは皺状の殻皮を持つ。殻口は丸みを帯びた菱形で1個の底唇突起を持つ。臍孔は開く。生殖器では陰茎・膣ともに後端に向けてやや肥厚する。陰茎本体はほぼ一様の太さで,多くは陰茎より長い。鞭状器は中ほどでやや肥厚し,先端は細くすぼまり,曲がって鉤状となる。兵庫県以西の本州と四国,九州の一部に分布する。紀伊半島や京都府以東での分布記録は他種の誤同定で,本種の確実な記録はない。高知県中部をタイプ産地とするオビシメクチマイマイSatsuma zonata(Pilsbry & Hirase, 1904)は殻の形態に差異が見られるものの,生殖器雄性部の形態や分子情報からは本種と区別できないため,異名とする。本種に対してシメクチマイマイという和名を対応させることの妥当性については亀田(2014)を参照されたい。Satsuma akiratadai n. sp. アキラマイマイ(新種・新称)殻は殻径14.2~18.8 mm,殻長 9.9~13.9 mm 程度,4.4~6.0層。前種に酷似し,統計的解析を行っても区別はつけづらい。生殖器では陰茎・膣ともに後端に向けてやや肥厚する。陰茎本体はほぼ一様の太さで陰茎より長い。鞭状器は一様の太さで,やや長く,先端は丸い。タイプ産地は岡山県倉敷市鶴形山。岡山県南部(岡山市南区・早島町・玉野市・倉敷市・浅口市)及び香川県島嶼部と荘内半島北端にのみ分布し,備讃地方の固有種と考えられる。本種の和名および学名は,永年シメクチマイマイ類の研究を続けており,本種個体群の存在を最初に見出した多田 昭氏に献名するものである。
著者
上島 励
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1-2, pp.91-94, 2002-06-30 (Released:2018-09-01)
参考文献数
4

Preservation of molluscan specimens for DNA analysis is one of the most important collection management issue in modern malacology. The merits and demerits of two simple methods of DNA preservation, storage in ultracold freezer and alcohol preservation, are compared. Preferred protocols for alcohol preservation are described.
著者
伊藤 寿茂 上杉 翔太 柿野 亘
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3-4, pp.79-88, 2016-11-17 (Released:2016-12-10)
参考文献数
36
被引用文献数
2

Host species for the glochidia of the freshwater unionid mussel Cristaria plicata (Leach, 1815) were identified by determining whether the glochidia infected 27 fish taxa. The fishes were kept in tanks for 11–17 days after glochidial infection, and the numbers of glochidia and metamorphosed juveniles detached from the hosts were counted. Living juveniles of C. plicata detached from Tribolodon hakonensis, Pseudorasbora parva, Oryzias sp., Anabas testudineus, Trichogaster trichopterus, Trichopodus microlepis, Macropodus opercularis, Odontobutis obscura, Acanthogobius flavimanus, Gymnogobius urotaenia, G. castaneus, Tridentiger brevispinis, Rhinogobius giurinus, R. nagoyae and Rhinogobius sp. Therefore, these fishes were identified as suitable host species for the glochidia of C. plicata. Some native fishes that inhabit Anenuma Lake (e.g., Gy. castaneus) are considered to be useful local hosts. Moreover, some labyrinth fishes such as Anabas testudineus, which can climb out of the water and crawl over wet land, may disperse glochidia and juveniles over land in southern areas.
著者
大塚 攻 長谷川 和範 木村 妙子 三宅 裕志 近藤 裕介 飯田 健 Honorio Pagliwan Ephrime Metillo
出版者
The Malacological Society of Japan
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1-4, pp.93-98, 2017-11-27 (Released:2018-01-11)
参考文献数
39

ウロコガイ科二枚貝ベッコウマメアゲマキScintilla philippinensis Deshayes, 1856の生体がフィリピン・パラワン島で採集されたが,外套膜とその膜上の突起,足を用いてウミウシ類及びカニ類に擬態と考えられる行動が観察された。ウミウシ類型の場合,外套膜を変形させて形態を似せる。カニ類型の場合には形態的類似性だけでなく足も用いて行動も真似る。ウロコガイ上科は他の動物に共生することで知られるが,擬態に関する知見は少ないので,今後のより詳細な研究が待たれる。
著者
中山 大成 長谷川 和範
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1-2, pp.19-26, 2016-04-13 (Released:2016-04-15)
参考文献数
12

沖縄県恩納村瀬良垣から金城浩之氏によって採集された日本産イトカケガイ科の1種をイボヤギヤドリイトカケ属(新称)Epidendrium A. & E. Gittenberger, 2005の新種として記載する。また,本種の属位を決定するにあたり,従来北西太平洋でAlora属に含められていた近似種と比較するとともに,それらの属位についても見直しを行った。Epidendrium parvitrochoides Nakayama n. sp. エンスイイトカケ(新種・新称)(Figs 8–10)殻長は3~5 mmの小型で薄く,円錐形。茶褐色。各層に胎殻は平滑で円筒形,体層,次体層とも下方に角張るが底盤を形成しない。次体層は6層内外で,殻表は縦肋と螺肋が交差し格子状の彫刻をなす。殻口は四角く外唇薄く著しい張り出しにはならない。臍孔は大きく開く。タイプ標本:ホロタイプ,殻長 5.8 mm; 殻径4.0 mm,NSMT-Mo 77925;パラタイプ1,殻長4.8 mm; 殻径 3.1 mm, NSMT-Mo 77924;パラタイプ2,殻長4.3 mm; 殻径 2.8 mm,NSMT-Mo 77923。タイプ産地:沖縄県恩納村瀬良垣,水深20~25 m。分布:タイプ産地のみからしか知られていない。付記:Epidendriumイボヤギヤドリイトカケ属(新称)はE. sordidum A. & E. Gittenberger, 2005ヒロベソイボヤギヤドリイトカケ(新称)をタイプ種としてGittenberger & Gittenberger(2005)によって創設され,従来Alora属とされていた種の幾つかがここに移された。後にGittenberger & Gittenberger(2012)はAlora属とEpidondrium属の違いについて改めて議論し,遺伝子配列の比較から系統的に隔たったものであることを示した。殻の形態では両者の区別はやや困難であるが,貝殻の全般的な形状や殻質などの違いによって区別が可能であると考えられる。これらの形質に基づいて,日本産の従来Alora属に含められていた種を再検討した結果,まず土田(2000)や Nakayama(2003)によってAlora billeeana(DuShane & Bratcher, 1965)イボヤギヤドリイトカケとして図示された種はE. aureum A. & E. Gittenbereger, 2005(Figs 1–2)に訂正される。この種と同時に記載されたヒロベソイボヤギヤドリイトカケも今回初めて沖縄から産出が確認された。E. reticulatum(Habe, 1962)センナリスナギンチャクイトカケは,貝殻の形態から本属に含めたが,本属の知られているすべての種がイボヤギ類に着生する(Gittenberger & Gittenberger, 2005)のに対して,本種はヒドロ虫類のセンナリスナギンチャクに付着する(Habe, 1962)ことから,今後の詳しい検討が必要である。Alora annulata (Kuroda & Ito, 1961)テラマチイトカケは寄主などの情報が不明であるが,原殻の形態的特徴と近年の他の文献等に倣い暫定的にAlora属に残す。Alora kiiensis Nakayama, 2000キイテラマチイトカケは明らかに異旋する大型の原殻をもつことなどから,タクミニナ科のTuba属に移される。本新種はE. billeeanumやイボヤギヤドリイトカケよりも小型で,螺層が角張りを持ち,殻口が方形であることで明瞭に異なる。ヒロベソイボヤギヤドリイトカケとは縫合が浅く,彫刻が弱いことで区別される。センナリスナギンチャクイトカケは殻形が最も近似するが,周縁が丸く,螺肋がより強くて数が少なく,格子状の彫刻を示すことで区別される。
著者
佐々木 猛智 齋藤 寛
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.191-194, 2005-12-31

溝腹類は世界中から240種が知られているが,その生態についての情報は乏しい。溝腹類は少数の例外を除いて刺胞動物を食物としていることが知られているが,摂餌の様子が直接観察された例は大型で細長い体をもつカセミミズ属Epimeniaのみで,他の多くは消化管内容物に見られる刺胞から判断されたものである。また刺胞動物の種類も宿主であるヒドロ虫類やヤギ類などに絡みついて採集されもの以外は殆ど分かっていない。著者の1人佐々木は淡青丸による遠州灘沖の生物調査において,イソギンチャクに付着した溝腹類を採集した。溝腹類がイソギンチャクを摂餌する様子を直接観察した例はこれまでないと思われるのでここに報告する。採集された個体はトロール網曳網の刺激によって急激に強く収縮したため,イソギンチャクをくわえたまま引揚げられたと思われる(図1)。採集された種は太短く,体表に中実の針状小棘と,樋状の小棘(図2)をもつことからサンゴノフトヒモ属Neomeniaの種であることは間違いなく,体の大きさや採集された位置,深度(水深763〜796m)からおそらくサンゴノフトヒモNeomenia yamamotoi Baba, 1975と同定される。またイソギンチャクは千葉県立中央博物館の柳研介博士に同定を依頼し,クビカザリイソギンチャク科Hormathiidaeの種であることがわかった。イソギンチャクは海底では上部口盤側は海底から上方に伸びていたと考えられる。したがってサンゴノフトヒモは海底から口盤まで体を起こした状態あるいは這い上がって,摂餌していたと思われる。さらに付着している様子を観察すると,サンゴノフトヒモはイソギンチャクの口盤の縁,触手の密生する部分を吻ではさんでいる。サンゴノフトヒモ属は歯舌や顎板のような食物を切り取る硬い組織を欠いているが,口から突出可能な吻(前腸)をもち,これには種類によって数の異なる複数の括約筋が附属する。また,対になった腹部前腸腺を欠くものの,吻部には多数の単細胞腺が附属する。このようなことから,サンゴノフトヒモ属はSalvini-Plawen(1985)が歯舌を欠く溝腹類の摂餌様式として推測した方法,すなわち餌を消化酵素で溶かしながら吸引する方法によってイソギンチャクを摂餌することが想像される。サンゴノフトヒモ属は外套膜のクチクラ層が薄いがその下にsubepidermal matrix又はground substanceと呼ばれる厚い層をもっている。この組織の性質については知られていないが,今回の観察から,イソギンチャクの触手や槍糸などの刺胞に対する防御機能があることが考えられる。
著者
照井 滋晴 秋山 吉寛
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1-4, pp.38-43, 2021-06-11 (Released:2021-09-11)
参考文献数
27

We observed sphaeriid clams attached to the digits of salamanders distributed in wetlands of eastern Hokkaido, Japan. One of the clams in either the genus Euglesa or Odhneripisidium was found on a salamander (Salamandrella keyserlingii) captured on dry land, showing that the clam was being transported by a land-walking amphibian. It is possible that sphaeriid clams migrate between water areas using salamanders to expand their distribution.
著者
Paul Callomon Amanda S. Lawless
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1-2, pp.13-27, 2013-01-31 (Released:2016-05-31)
参考文献数
27

主に貝殻と歯舌の形態に基づいてスジマキイソニナ属(新称)Lirabuccinum Vermeij, 1991の現生種の再検討を行い,黄海から見出された1新種を記載した。さらに,関連するタクサのタイプを検討し,Searlesia constricta Dall, 1918, Euthria hokkaidonis Pilsbry, 1901 とE. fuscolabiata E. A. Smith, 1875のレクトタイプを指定した。Lirabuccinum dirum (Reeve, 1846) スジマキイソニナ属のタイプ種,カリフォルニアからアラスカまでのアメリカ西岸に分布。Lirabuccinum fuscolabiatum (E. A. Smith, 1875) エゾイソニナ北海道から東北沿岸太平洋側,日本海,および朝鮮半島南部に分布。土佐湾からも記録がある。Fususmodestus Gould, 1860 [non philippi, 1844]トバイソニナ,Searlesia constricta Dall, 1918チョウセンイソニナは異名。Lirabuccinum hokkaidonis (Pilsbry, 1901) ホソエゾイソニナ(新称)本種はエゾイソニナの亜種,あるいは近年は主に異名として扱われてきた。今回,タイプ標本を初めて図示し,多くの標本を比較することにより,両者は独立した種であることが明らかとなった。本種はエゾイソニナよりも細長く,縦肋がより細く密に並ぶ。これまで北海道北西岸から男鹿半島の間の海域からのみ採集されている。Lirabuccinum musculus n. sp. コネズミツノマタ(新称)見かけ上イトマキボラ科の種に類似するが,軟体部の外部形態と歯舌の形態から本属に含まれることが分かった。タイプ産地(山東省威海沖の黄海,水深 30~ 60 m)からしか知られていない。これらの種を貝殻の形態で詳しく比較すると,まず貝殻の厚さでスジマキイソニナが北西太平洋産の3種と著しく異なる(前者の方が厚い)。また,貝殻断面でみた殻口内の螺状襞の構造などにも両者に明らかな違いが認められ,太平洋の両岸で大きく分化している可能性が示された。しかし,歯舌や軟体部外部形態の違いに大きな違いがないことから,属レベルで区別するためには化石種との比較などのさらなる証拠が必要である。
著者
髙野 剛史 田中 颯 狩野 泰則
出版者
The Malacological Society of Japan
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1-4, pp.45-50, 2019-05-15 (Released:2019-06-06)
参考文献数
29

ハナゴウナ科Eulimidaeの腹足類は,棘皮動物を宿主とする寄生者である。同科のMucronalia属は形態および生態情報に乏しいグループで,タイプ種のフタオビツマミガイM. bicinctaは生貝での採集報告がなされていない。Warén(1980a)による殻形態に基づく属の概念では,つまみ状の原殻,内唇滑層,ならびに中央部の突出した外唇を有することが重要視されている。また2既知種がクモヒトデ寄生性であることが知られており,これが本属貝類に共通の生態とみなされている。本報では,神奈川県真鶴町の潮下帯より採取されたアカクモヒトデOphiomastix mixtaの腕に外部寄生するMucronalia属の1新種を記載した。Mucronalia alba n. sp.オビナシツマミガイ(新種・新称)原殻がつまみ状に突出すること,殻口内唇に滑層を有すること,また外唇は中央部が突出し横からみると大きく曲がることから,Mucronalia属の一種であると判断された。殻は本属としては細く塔型,最大5.5 mm,白色半透明である。後成殻は6.6巻,螺層は時に非対称に膨れ,螺塔は成長に伴い不規則に太くなる。外唇縁痕は不定期に現れ,僅かに褐色を呈する。殻口は細長い卵型。軸唇はまっすぐで,体層の軸から20°傾く。原殻は淡い褐色。本種の殻形は,同じく日本に産するヤセフタオビツマミガイM. exilisと,オーストラリアのクイーンズランドから記載されたM. trilineataに似る。一方これら2種は殻に褐色の色帯を有し,また軸唇の傾きが弱い。オマーンをタイプ産地とするM. lepidaとM. oxytenes,メキシコ西岸のM. involutaはいずれも本種と同様白色の殻をもつが,前2種は殻が太く螺層の膨らみが弱い点で,またM. involutaは本種と比してはるかに小型である点で区別される。タイプ種であるフタオビツマミガイM. bicincta,オマーンに産するM. bizonula,スリランカのM. exquisitaは,色帯のある円筒形の殻をもつ点で本種と明瞭に異なる。上述の種のほか,コガタツマミガイ“M.” subulaやヒモイカリナマコツマミガイ“M. lactea”がMucronalia属として扱われることがある。しかしながら,前者は殻口外唇が湾曲せず,カシパンヤドリニナ属Hypermastusに含めるのが妥当である。後者は,殻形態,寄生生態および予察的な分子系統解析(髙野,未発表)により,セトモノガイ属Melanellaの一種であると考えられた。しかしながら,Eulima lactea A. Adams in Sowerby II, 1854が同じMelanellaに所属すると考えられるため,ヒモイカリナマコツマミガイに対するlactea A. Adams, 1864は主観新参ホモニムとなる。そこで,ヒモイカリナマコツマミガイに対する代替名としてMelanella tanabensisを提唱した。東アフリカのザンジバル諸島産で,同じくヒモイカリナマコに内部寄生する“Mucronalia” variabilisもセトモノガイ属に含めるのが妥当と考えられ,本論文で属位を変更した(Melanella variabilis n. comb.)。
著者
岩崎 敬二 石田 惣 馬場 孝 桒原 康裕
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1-4, pp.67-81, 2017-11-27 (Released:2018-01-11)
参考文献数
50

Mytilus trossulus Gould, 1850 is a mytilid bivalve with a boreal distribution in the northern Pacific Ocean, northern Atlantic Ocean, and Baltic Sea. The distribution of M. trossulus in Japanese waters was hitherto believed to be restricted to the northernmost island of Hokkaido. However, we discovered dry specimens and dead shells of this species on the northern and central Japan Sea coasts of Honshu Island. Specimens were collected before 1936, before 1948 and in 1951 from Shikaura, Fukui Prefecture (35°56´N, 135°59´E), and were archived at the Fukui City Museum of Natural History as "Mytilus edulis Linnaeus 1758". Dead shells with rotten soft bodies were collected from the Kisakata sandy shore, Akita Prefecture (39°12´24˝N, 139°53´40˝E) on March 29, 2014. In addition, we found old records of the nonindigenous congener M. galloprovincialis Lamarck, 1819 in molluscan lists that were published in Akita, Niigata, Ishikawa and Fukui Prefectures from the 1930s to 1950s. This species was introduced to Japan before 1932 and appears to have been infrequently confused with M. trossulus. In 2007, 2010 and 2014, we conducted field surveys in the regions where the dry specimens and dead shells had been collected but found no M. trossulus specimens. In view of the results of the field surveys and water temperature regime in its distribution range, we believe that the dry specimens and dead shells had drifted from the more northerly Japan Sea coasts of Russia or Hokkaido. The old records of M. galloprovincialis in the molluscan lists may indicate the actual occurrence of the nonindigenous species during the early years of its invasion in Japan.
著者
三浦 一輝 藤岡 正博
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.137-150, 2015

本コンテンツは著作権の範囲内に限り利用が可能です。
著者
山下博由 芳賀拓真 Jørgen Lützen
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.123-133, 2011

シャコ類の巣穴に共生することで知られているDivariscintilla属(ヨーヨーシジミ属,和名新称)の新種が,大分県から発見された。これは同属の日本及び北太平洋からの初めての記録である。Divariscintilla toyohiwakensis n. sp.ニッポンヨーヨーシジミ(新種,新称)殻長約4 mm,殻高約3 mm,膨らみは弱く,丸い亜三角形で,殻頂は僅かに前方に寄り,腹縁中央はごく僅かに窪む。白色半透明,薄質で,殻表は平滑で光沢があり,殻の内側には縁部で強まる多くの放射条がある。両殻に1主歯があり,側歯を欠く。外套膜は殻を覆い,前部に2対,後部に1対と1本の外套触角がある。口の直下の内蔵塊前部に1個のflower-like organ(花状器官:和用語新称)を備える。足は前部・後部に分かれ,後部は顕著に伸張し,その後端背面にbyssal adhesive gland(足糸粘着腺:和用語新称)があるが,組織切片では腺構造は確認できなかった。足の底面にはbyssal groove(足糸溝)が前部から後端まで走っている。フロリダ産のDivariscintilla octotentaculata Mikkelsen & Bieler, 1992に,殻や軟体外形が近似するが,D. octotentaculataは触角が1対多く,花状器官を欠く。ニッポンヨーヨーシジミは,Acanthosquilla acanthocarpus (Claus, 1871) シマトラフヒメシャコの巣穴中に小集団を形成して生息し,その壁面に足糸で付着している。タイプ産地:大分県中津市大新田付記:ヨーヨーシジミ属は,ニュージーランド・西オーストラリアに1種,フロリダ・カリブ海に5種,日本に1種が分布するが,いずれもトラフシャコ上科の種の巣穴に生息し,同上科との生態・進化上の密接な関係が示唆される。種小名toyohiwakensisは,タイプ産地の大分県中津市を含む豊前・豊後地方の古名「豊日別」に由来する。属・種の和名は,玩具のヨーヨーのように足糸でぶら下がり上下する生態に着目して命名されたDivariscintilla yoyo Mikkelsen & Bieler, 1989と,そこから派生した英名yoyo clamに由来する。D. yoyoには,ヨーヨーシジミの和名を与える。
著者
奥谷 喬司 土田 真二
出版者
The Malacological Society of Japan
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3-4, pp.125-133, 2005-01-31 (Released:2018-09-01)
参考文献数
6

海洋科学研究開発機構(JAMSTEC)の無人深海探査機ハイパードルフィンによって,小笠原諸島西方の海形海山の中腹,水深912mにおいてハワイヒカリダンゴイカの小群が発見された。いずれの個体も海底面すれすれのところでホーバリングを行っており,海底に付いているものや高い位置で遊泳しているものは見られなかった。各個体ともまちまちな方向を向いており,海流に支配されているようには見えない。本種はこれまでもハワイ他西太平洋各地に分布していることは知られていたが,これまでの採集はおおむね開放ネットによるものであり,中層浮遊性とされていたが,今回の観察により漸深海底帯で,近底層性の生活を送っていることが判った。この観察の時,9標本が採集されたが,いずれも雌で,ハワイから採集されたタイプ標本も,またサモア北方のコンベ礁から採集されたものも雌で,雄の報告はない。また,Nesisは琉球や小笠原など日本近海を分布範囲にあげているが,それらの詳細についての報告は見あたらない。これらの標本と過去の形態記載と比較も行い,腕長式などにかなりの種内変異があることも確かめられた。
著者
平野 弥生 C. D. Trowbridge 平野 義明
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3-4, pp.212-216, 2013-10-31 (Released:2016-05-31)
参考文献数
19

餌海藻の細胞内に入り,内側から摂餌を行う嚢舌目ウミウシが少なくとも3種,沖縄に生息している。すべてアリモウミウシ属 Ercolaniaに分類され,1種はオーストラリアやグアムから報告されているE. kencolesi Grzymbowski et al., 2007と同定されたが,他の2種は未記載種であると思われる。これら3種には,海藻の細胞内に侵入するための独特な穴開け行動が共通して見られ,藻体内食は固有の行動適応を伴う新しい摂餌様式と見なすことができる。
著者
小菅 丈治
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1-2, pp.67-70, 2009-09-30 (Released:2016-05-31)
参考文献数
8
被引用文献数
1

ブンブクヤドリガイ科アケボノガイ属の一種Barrimysia siphonosomae Morton & Scott, 1989を,石垣島名蔵湾から記録した。本種は,香港の砂泥質の干潟に棲息するスジホシムシモドキSiphonosomacumanenseの巣孔内に棲息することが知られ,石垣島名蔵湾でもサンゴ片などの礫混じりの砂泥干潟に棲息するスジホシムシモドキの巣孔内より見出された。日本からは初めての記録であり,ホシムシの一種の巣孔に棲む習性とアケボノガイ属の一種であることに因んで「ホシムシアケボノガイ」の新和名を提案した。模式産地以外から初めての記録でもあり,香港から琉球列島にかけて分布することが明らかになった。2008年8月に行った名蔵湾での観察結果では,採集したスジホシムシモドキの巣孔の15~17%にホシムシアケボノガイが生息していた。ホシムシアケボノガイは,多くの場合単独で生息していたが,2個体の貝が1つの巣孔から見つかる例も少数観察された。
著者
広瀬 もえり 鈴木 廣志 山本 智子
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1-2, pp.55-64, 2003 (Released:2018-09-01)
参考文献数
9

The relationship between body length and color of Elysia ornata (Swainson, 1840) was examined by laboratory experiment and field observation. The results indicated that the difference in body color is not an individual variation but is related to growth. Body coloration follows a sequence from transparent, pale green, dark green, greenish white and to beige, with the length reaching maximum size at dark green, and decreasing thereafter. Based on these results, it was inferred that E. ornata has an annual life cycle beginning in late spring.
著者
髙野 剛史 田中 颯 狩野 泰則
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.45-50, 2019

<p>ハナゴウナ科Eulimidaeの腹足類は,棘皮動物を宿主とする寄生者である。同科の<i>Mucronalia</i>属は形態および生態情報に乏しいグループで,タイプ種のフタオビツマミガイ<i>M. bicincta</i>は生貝での採集報告がなされていない。Warén(1980a)による殻形態に基づく属の概念では,つまみ状の原殻,内唇滑層,ならびに中央部の突出した外唇を有することが重要視されている。また2既知種がクモヒトデ寄生性であることが知られており,これが本属貝類に共通の生態とみなされている。本報では,神奈川県真鶴町の潮下帯より採取されたアカクモヒトデ<i>Ophiomastix mixta</i>の腕に外部寄生する<i>Mucronalia</i>属の1新種を記載した。</p><p><i>Mucronalia alba</i> n. sp.オビナシツマミガイ(新種・新称)</p><p>原殻がつまみ状に突出すること,殻口内唇に滑層を有すること,また外唇は中央部が突出し横からみると大きく曲がることから,<i>Mucronalia</i>属の一種であると判断された。殻は本属としては細く塔型,最大5.5 mm,白色半透明である。後成殻は6.6巻,螺層は時に非対称に膨れ,螺塔は成長に伴い不規則に太くなる。外唇縁痕は不定期に現れ,僅かに褐色を呈する。殻口は細長い卵型。軸唇はまっすぐで,体層の軸から20°傾く。原殻は淡い褐色。</p><p>本種の殻形は,同じく日本に産するヤセフタオビツマミガイ<i>M. exilis</i>と,オーストラリアのクイーンズランドから記載された<i>M. trilineata</i>に似る。一方これら2種は殻に褐色の色帯を有し,また軸唇の傾きが弱い。オマーンをタイプ産地とする<i>M. lepida</i>と<i>M. oxytenes</i>,メキシコ西岸の<i>M. involuta</i>はいずれも本種と同様白色の殻をもつが,前2種は殻が太く螺層の膨らみが弱い点で,また<i>M. involuta</i>は本種と比してはるかに小型である点で区別される。タイプ種であるフタオビツマミガイ<i>M. bicincta</i>,オマーンに産する<i>M. bizonula</i>,スリランカの<i>M. exquisita</i>は,色帯のある円筒形の殻をもつ点で本種と明瞭に異なる。</p><p>上述の種のほか,コガタツマミガイ"<i>M.</i>" <i>subula</i>やヒモイカリナマコツマミガイ"<i>M. lactea</i>"が<i>Mucronalia</i>属として扱われることがある。しかしながら,前者は殻口外唇が湾曲せず,カシパンヤドリニナ属<i>Hypermastus</i>に含めるのが妥当である。後者は,殻形態,寄生生態および予察的な分子系統解析(髙野,未発表)により,セトモノガイ属<i>Melanella</i>の一種であると考えられた。しかしながら,<i>Eulima lactea</i> A. Adams in Sowerby II, 1854が同じ<i>Melanella</i>に所属すると考えられるため,ヒモイカリナマコツマミガイに対する<i>lactea</i> A. Adams, 1864は主観新参ホモニムとなる。そこで,ヒモイカリナマコツマミガイに対する代替名として<i>Melanella tanabensis</i>を提唱した。東アフリカのザンジバル諸島産で,同じくヒモイカリナマコに内部寄生する"<i>Mucronalia</i>" <i>variabilis</i>もセトモノガイ属に含めるのが妥当と考えられ,本論文で属位を変更した(<i>Melanella variabilis</i> n. comb.)。</p>