- 著者
-
田辺 幾之助
浜田 史郎
- 出版者
- 鹿児島大学
- 雑誌
- 鹿児島大学農学部学術報告 (ISSN:04530845)
- 巻号頁・発行日
- no.30, pp.p147-161, 1980-03
酒税法上, 果実酒または雑酒の範畴に入りながらも, 醸造酒としての市場性がないため製品化されず, とはいえ一般家庭では静かだが確実な需要のある自然発酵による含アルコール嗜好性飲料を猿酒とし, これの酒税法との関係を検討した.まず, 家庭で普通に行っているとされる自然発酵をともなうしょ糖による果汁の抽出を行わせ, 抽出経過を観察, 出来た猿酒を分析した.使用した果実は梅の実(白加賀, 豊後梅), すもも(サンタローザ, よねもも, からり), ぶどう(キャンベル・アーリー, デラウェア, 巨峰, マスカット・ベーリーA, ネオマスカット), りんご(国光), びわ(茂木), レモン, 桑いちご, もも(中早生, 大久保), ラビットアイ・ブルーベリー(ホームベル, ティフブルー, ウッダード), いちご, やまももの21種類におよんだ.このうち, 特に梅の実を使用する猿酒, すなわち梅酢とすもものシロップについて, 仕込方法とアルコール濃度との関係および嗜好性飲料としての価値を検討した.梅酢の場合, 梅の実としょ糖の配合比は1 : 1,2週間で果汁の抽出は完全で, 梅酢のアルコール量も酒税法上も問題にならない場合が多い.しかし, 官能検査の面からいうと, 4-5倍に希釈する清涼飲料としては白加賀で配合比2 : 1〜1.5の時が, 又そのままで飲む時は2 : 0.7で甘酸味のバランスが最良であった.すもものシロップの場合は配合比1 : 1で6日間の抽出の時, 単位果実重あたりの抽出色素量は最もよく, アルコール量も酒税法の1%を大きく越えることはなかった.一方, ぶどうを原料とした猿酒はワインと区別出来なくなるし, 又, 他の果実類はそれだけを単独で原料とした場合には嗜好性の点で劣ると判断出来るので, 今回はあまり期待出来ないとした.アルコール濃度, 特に1%のアルコール濃度を検知する能力の程度を調べた.それによると, 普通の, 特に検知経験のない人間が, 普通の状態で, 果汁中に含まれる1%のアルコール濃度を検知することは, かなり困難のようであった.猿酒の微生物を調べたが, こうぼ相中Saccharomyces cerevisiaeの比重がかなり高い場合が多いようであった.