- 著者
-
田川 義智
- 出版者
- 京都教育大学
- 雑誌
- 京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
- 巻号頁・発行日
- vol.2, pp.1-16, 1994-03-31
地球環境の破壊に対する警告が発せられて久しいが,多数の人々の解決に向けての懸命な努力にもかかわらず,問題はますます深刻化している。環境を犠牲にしてまでも守り続けようとした経済そのものも衰退へと向かい必死の景気浮揚策実施にもかかわらず黒雲が世界を覆っている。Adam Smithが基礎を固めKeynesが修正・発展させた近代経済学理論がいかにもろいものであったかを,我々は痛切に知らねばならない。第二次世界大戦後の国際経済体制がケインズの提唱する国際決済同盟案を否決して,当時最強だったとはいえ一国の通貨であるドルを基軸通貨と定めたブレトン・ウッズ体制の矛盾と崩壊,延命策とも言えるスミソニアン体制の矛盾。我々は繁栄への神話となりつつある近代経済学理論にメスを入れ,"破滅に向かい突進している経済"を"人類にほんとうの幸せをもたらす経済"へと修正していかなければならない。虚飾の経済機構の修正は環境破壊の要因となっている地球資源の略奪(人工的生産部門)を縮小することより始めねばならない。そのためには,自然的生産部門の強化が必要となるのであるが,生産方式や性質の全く異なった農業を代表とする自然的生産活動分野と地球環境を破壊する要因となっている人工的な生産活動とを一つの土俵上で競争させている現行の制度下では望みうすである。自然的生産分野の株式化構想はこの問題を解決するために生まれた。工業生産部門の労働力を農業をはじめとする自然的な生産物の増産エネルギーに振り向けて行き,人類の経済的繁栄を出来る限り阻害せず,"収奪の経済理論"を中核とした"虚飾の経済機構"を修正して行くことが地球環境擁護にとって必要なことがらである。