著者
松良 俊明
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.57-67, 2007

カマキリ(チョウセンカマキリ)とオオカマキリの卵塊はセイタカアワダチソウに付いていることが多い。京都市伏見区に散在していた18ヶ所のセイタカアワダチソウ群落地において両種の卵塊密度を調べたところ,オオカマキリの卵塊は丘陵地から河辺草地まで広く分布していたのに対し,カマキリの卵塊は丘陵地には見られず,平地の水田地帯にあるセイタカアワダチソウ群落地に集中していた。この調査はおよそ30年前に行ったものであるが,今日その群落地のほとんどは消滅し,完全な市街地と化している。平地草原にのみ生息するカマキリは,潅木や樹木をも住処としかつ産卵するオオカマキリと異なり,都市近郊部から姿を消しているという実態を把握することができた。平地草原の永続性が危ぶまれる今日,やがてカマキリは日本から消滅するのではないかと危惧される。
著者
松良 俊明
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.55-65, 1993-03-31

かつて昆虫採集はわが国の理科教育において大きな比重を占めてきた。これは生物教育の方法論において,文部当局が標本収集ということを重視してきたことが大きい。いわば昆虫採集を政府自らが奨励してきたのであり,この方針はじつに明治初期から戦後10数年後まで続いたのであった。しかし,昭和33年(1958)に出された「学習指導要領」から,文部省の方針は採集重視から観察重視へと一変し,その結果昆虫採集は今日ほとんど顧みられなくなった。だが最近再び昆虫採集を見直す動きがあり,その是非をめぐって論争が起っている。これまで提出されてきた賛成派・反対派の論点を整理するとともに,昆虫採集には一定の利点が存在するが,それを上回る問題点も認められるとする筆者の考えを提示した。
著者
山嵜 泰正
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.53-68, 1997-03-31

オランダ風説書で米国船の来航を警告していたが,慣例重視の幕府はそれを無視した。現実の黒船出現と脅しに幕府は米国と和親条約を結び,大老・井伊直弼は勅許を得ずに日米修好通商条約を締結した。将軍継承問題での一橋派と南紀派(井伊大老)の対立は安政の大獄の大弾圧,そしてその反発で井伊大老暗殺を惹起した。公武合体で孝明天皇の妹・和宮が14代将軍・家茂に降嫁した。尊王攘夷運動は長州藩の米英蘭船砲撃,四カ国下関砲撃へ発展した。生麦事件を起こした薩摩藩は英軍艦報復攻撃を受け,軍備の近代化が必要と痛切に感じた。禁門の変の責めで長州征伐の際,薩摩藩は薩摩名義で長州の武器を購入し,その仲介役の形で海援隊の坂本龍馬が薩長同盟を成立させた。将軍家茂の急死で,15代将軍なった慶喜が,討幕運動の出鼻をくじくため大政奉還を決意した。その日に討幕派は討幕の密勅を受けた。王政復古を宣し「朝敵・徳川慶喜を討て」と号令を発した。1868(慶応4)年1月3日,鳥羽・伏見の戦いが始まり,幕府軍が敗走し,討幕派の薩長は「官軍」として「朝敵・徳川を征伐」するために江戸を攻めた。
著者
真下 弘征
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.11-40, 2000-03-31

日本の各地域は,戦後の地域開発政策や産業構造改革政策,大量生産・大量消費社会化政策,モータリゼーション等によって,環境破壊や地域社会の荒廃に陥ったところが多かった。しかし,多くの地域で,その破壊や荒廃をのりこえ新たな生活環境づくり,まちづくりに取り組み始めた。本稿は,生活環境づくりの課題について考察している。大量排出物の減量化・再利用化・ゴミゼロ化の課題から自然循環的社会づくりの要点をみることや,生態学的(エコロジカル)生活環境の再生・復元(エコロジカルまちづくり)の事例やその課題をみること,アメニティの概念の整理とその社会的側面・自然的側面の保障の課題,共生的な地域まちづくりの課題のほか,生活環境づくりとしての脱クルマ社会化,エネルギー問題・脱原発化などの課題にも触れている。これらの課題は今後の日本の重要な課題であるが,行政,市民各人,学校,企業がそれをどのくらい真剣に取り組むかで21世紀のありよう,グローバルにみれば地球環境のありようが違ってくる。
著者
坂東 忠司 谷川 幸江 櫻井 真由美
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.85-99, 2001-03-31
被引用文献数
1

巨椋池干拓地の植物相を調査し,404種を確認した。干拓前に報告されている167種のうち91種はすでに見られなくなったが,残る76種は現在も生育していることが明らかとなった。この70年間に植物の種数は2.4倍に増加したが,これは干拓地の乾燥化によって水分環境が多様化したことに加え,鳥を中心とした動物や道路建設に伴う客土,あるいは耕作に伴う種子の持ち込みなどに起因するものと考えられる。中でもキク科,マメ科,イネ科のように,多くの帰化種を含む分類群の増加が著しい。現在,巨椋池干拓地およびその周辺の環境は加速度的に変化しつつある。現在の植物相を記録しておくことは,今後の環境変遷を考える上で重要な基礎資料となるものと思われる。
著者
梶原 裕二 細川 友秀 梁川 正 広木 正紀
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.121-131, 1999-03-31

環境問題は現代社会の中でも重要な課題で,その深刻な影響を考えると早急に対策を講じる必要がある。今日では問題がより複雑化,広域化し,企業ばかりでなく,生活者も主要な汚染者となっている。児童や生徒は次世代の生活者であることから,教育を通して幼少の頃から環境問題に関心をもつように啓蒙することは,長い目でみれば問題を解決する上でよい対処法と思われる。環境を考える基本的な意識として「循環」がある。我々自身を含め,食物連鎖を通した生物圏での循環,窒素・リン化合物の循環,エネルギーや二酸化炭素の地球規模での循環,紙や鉄資源の生産・消費活動での循環のように,多くの環境問題は循環抜きには考えられない。ところが,循環は実体が目に見えないために理解しづらい難点がある。その点,紙や瓶など資源ゴミのリサイクル運動は,実際の効果に加え,循環を認識するとても良い教材と考えられる。学校においても,できるだけ循環を視野に入れたリサイクルを実践したい。以前から行われていたリサイクルの一つとして,生ゴミや糞尿など有機廃棄物の堆肥化がある。化学肥料が十分に発達していない頃,農家では家畜の糞尿から作った堆肥が広く用いられていた。現在でも,比較的土地に余裕のある農家や畜産農家は堆肥を利用している。台所から出る生ゴミに関しては,堆肥化することで可燃ゴミを減らすという面から各自治体で注目を浴びている。その際も,生活者が生ゴミを分別収集することが前提条件となり,生活者の環境意識の向上が不可欠である。さて,今の子供達は生ゴミや家畜の糞尿など,有機廃棄物に潜在的な価値があることを知っているのだろうか。現代の便利な文明の中で成長している子供達は,ゴミ袋に入れさえすれば生ゴミはいつのまにか清掃車が運んでくれるし,下水の発達により,糞尿の行方は見えにくくなり,かえって有機廃棄物の問題を考える機会がなくなった。都市部に住む大半の子供達にとっては,農家における堆肥化の経験は皆無と思われる。そのため,特に糞尿の場合は,単に臭く,汚いものだけという固定観念が出来上がっている恐れがある。家畜の糞尿が肥料として使用できることは実感として捉えにくいであろう。このような状況において,台所の生ゴミや家畜の糞尿など有機廃棄物を堆肥として利用することは,生物圏の循環を実感する環境教育のプログラムになると思われる。京都教育大学の生物,生命系のいくつかの研究室では,実験用にハツカネズミを多用している。その際,比較的多量の糞尿が混じった木材クズが生じるが,焼却処分にせず,圃場の一角に貯め,腐熟させ堆肥として用いている。それを肥料として施した部分としない部分を作ったところ,施肥の効果が歴然として現れた。日常の動物の世話と糞尿の堆肥化を通して,堆肥が植物の生育にとても効果があることを再認識する機会であった。この事例が環境を考える上で必要な「循環」を認識させる教材として利用できると考えられた。
著者
細川 友秀
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.85-95, 2000-03-31
被引用文献数
1

大学の主要な役割は学生教育と各専門分野の研究である。しかし,現在の社会では,これらに加えて地域社会に向けて開かれた大学としての役割が求められ,社会人向けの公開講座の開講や児童・生徒向けの野外講座・科学講座の開講,インターネットによるさまざまな情報発信など多くの企画がなされている。我々の研究室でもこのような要求に応えるため,1997年の大学祭(藤陵祭)で研究室の4回生の卒業研究の一部を展示する企画を実行した。この企画の目的は次の3つであった。すなわち,1)主に地域の小中学生対象に,4回生の卒業研究の一部を平易にプレゼンテーションすることで地域社会へのはたらきかけとする,2)この企画を通じて卒業研究生が専門分野の研究内容を理解し,その内容について一般向けのプレゼンテーションと教材化のトレーニングをする,3)大学祭(藤陵祭)を教育大学としての特色あるアカデミックな地域社会との交流の機会として利用しつつ,大学祭への各研究室からの参加を促し,学問的な企画を増して大学祭を充実させる,の3つであった。この卒業研究の展示会場には,地域の小学生とその親を中心として200人以上が来場した。来場者のアンケートの回答のなかには,この企画を積極的に評価する意見が見られ,また,会場での会話の中で,もっとこのような企画を行ってほしいとの要望などもいくつか出された。展示を準備する4回生には,研究の動機,背景,実験結果を分かりやすく説明するように指示した。テーマによっては,現代の文明社会に生活する我々の生活環境と健康との関係に注意を向け,4回生自身への環境教育と小中学生への環境教育につながるように意図して展示の準備をするように簡単に指示した。しかし,多くは4回生の自主性と創意工夫によって,しっかりとしたプレゼンテーションが準備されて実行された。これらのことから,1997年の藤陵祭における展示は上記3つの目的をほぼ達成して成功であった。1997年の結果と反省をふまえて,1998年もその年度の4回生の卒業研究を紹介する展示を藤陵祭で行った。上記3つの目的に加えて,この企画を毎年継続することによって企画の効果の浸透・定着をめざした。1998年の卒業研究のテーマは,「様々な運動がマウスの免疫機能に及ぼす影響」,「緑茶成分の消化管免疫系の機能に及ぼす影響に関する研究」,「残留農薬による免疫系への影響に関する研究」,「内分泌撹乱化学物質の母胎への作用が胎仔の免疫系形成に及ぼす影響」,「ノルアドレナリンによるマウスのマクロファージの機能の制御に関する研究」,「オーラルトレランスの誘導に及ぼすエンドトキシンの影響に関する研究」であり,これらを融合した内容で研究室の院生も加わって,研究の動機,背景,実験結果などを紹介する展示を準備した。特に,免疫系の構成と機能の基本的な内容の説明,アレルギー反応の仕組みと原因の平易な説明,運動とストレスや緑茶の飲用を具体例とした生活習慣と免疫機能の関係についての解説,を展示の柱とした。さらに,残留農薬や内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)が身近な生活環境にあり我々が無意識のうちに摂取する可能性,それらが免疫系の形成過程と免疫機能に影響を及ぼす可能性について分かりやすい説明を準備するように卒業研究生に求めた。展示の準備と実施に際して,これらの課題を達成することで1997年度につづいて卒業研究生自身の環境意識を高め,小中学生の環境教育につながるように意図した。この企画には前年と同様に,地域の小中学生とその親を中心として多数の参加を得ることができた。参加者には簡単なアンケートに答えてもらい,展示の感想,評価,研究室への要望を聞いた。前年同様,親の回答の中にこの企画を積極的に評価する意見がいくつかあり,「この企画を毎年続けてほしい」,「来年も子供を連れてくる」,「来年は子供も連れてくる」などのコメントが見られた。しかし,小中学生の回答は,2,3人を除いてしっかり書いたものがほとんどなく,大学の卒業研究を地域の小中学生向けにやさしくプレゼンテーションするという目的がどの程度達成されたか評価することが困難であった。そのため,アンケートの内容を工夫し記入の説明の仕方をていねいにする必要があることがわかった。全体的には,卒業研究生の自主性と創意工夫によってしっかりプレゼンテーションが準備されて実行されたので,他の2つの目的については達成されたと評価できる。今後の課題としては,小学生,中学生,高校生,社会人のそれぞれに照準を合わせた展示をしっかり準備して,第一の目的を達成することである。また,このような活動の継続により,少しでも生徒の「理科離れ」を改善するのに役立つならば幸いである。

2 0 0 0 OA 8.竹林と環境

著者
徳永 陽子 荒木 光
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.99-123, 2007
被引用文献数
1

竹は,非常に用途の広い素材である。しかし,何年か前より,輸入製品や他の素材の製品に押され需要が低迷している。その結果,日本中で竹林め放置が目立ってきた。竹林の荒廃は,里山全体に大きな悪影響をもたらす。竹林の整備は,竹産業だけのためではなく,里山全体の環境の維持のために不可欠なものである。したがって,行政を含め,地域全体の大きな理解と協力の下で,竹林の整備を手抜きすることなく実施し続ける必要がある。そのための6つの課題とその解決方法について論述した。現在需要がないといっても,近い将来,日本に資源不足の事態が襲ってきたときに,竹製品に対する需要が必ず大きく伸びてくる。そのときに竹産業に関する技術が滅びておれば日本にとって大きな損失である。その技術を残していくためにも,日本め竹産業の滅亡は避けなくてはならない。
著者
前川 紘一郎
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.123-129, 2005-03-31

昼間に金星を観測するために,太陽・金星のデータ(赤経・赤緯)に基づき,前もって観測場所での金星南中時刻・南中高度を計算,その時刻にその方向へ望遠鏡を合わせることにより観察する。望遠鏡視野の中にある金星と太陽・地球位置を宇宙空間の中で立体的にとらえ,これらの3天体を俯瞰した視点にたち,それらをひとつの太陽系景観として把握することを試みた。昼間の青空を背景にして金星が視野のなかに光り輝いている姿,特に金星の満ち欠けの状態が見える場合は,満ち欠けの状態に基づいて,太陽・金星・地球が存在する太陽系空間の中にいる人間(観測者)を意識する立場から,空の中にその時の光景を考えることが可能となる。そして太陽系天体としての地球を再認識し,宇宙の中にいる人間という自然観を少しでも実感・深めることが可能と思われる。また自然現象を見ている観測者を,自然の構造の中に含めて(自然と一体となって)理解することにより,人間も自然の一部であるという認識,自然との連帯感が得られることを期待したい。
著者
寺前 周平 梶原 裕二
出版者
京都教育大学教育学部附属環境教育実践センター
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
no.11, pp.77-88, 2003

ソードテイルフィッシュの成体は自然環境においても性転換を行う大変興味深い魚である。本実験は,ソードテイルフィッシュが性転換を起こす機構を調べるための雌雄の判定基準をつくり,また環境に存在する性ホルモンや性ホルモン類似物質が成体で性転換を引きおこすかどうか,またその濃度を知るために行った。その結果,性ホルモンによりソードテイルフィッシュ成体に性転換が生じること,メダカ幼魚に性転換を引きおこす場合より約10倍の濃度が必要であることが明らかとなった。性転換はホルモン処理後2週で効果が生じ,オスの尾ビレ下辺の短縮,尻ビレの交接器の変化,メスの尾ビレ下辺の伸張として現れた。体長に対する尾ビレ下辺の割合は,よりオスらしい対照混泳群のオスでもっとも数値が高く,ついで対照単独飼育群のオス,ホルモン処理2週間後のオス,同4週間彼のオスの順と低くなった。また,メスでは逆に対照混泳群と対照単独飼育群のメスで低く,ホルモン処理でこの割合が増加した。これらの結果から,体長に村する尾ビレ下辺の割合は,尻ビレの交接器の存在より良いオス・メスを判定する基準となることが明らかになった。中間型の個体群を体長に対する尾びれ下辺の割合が0.4を境界にオス・メスに区別できることが示唆された。
著者
川村 康文
出版者
京都教育大学教育学部附属環境教育実践センター
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
no.6, pp.1-8, 1998-03

生命倫理の問題は,人類が「よく生きていく」ためには,さけてとおれない問題の一つである。高校生に限らず児童・生徒たちが,生命倫理について学習し,この問題について熟考することは,よき地球市民として「よく生きる力」を身につけるために大切である。今回は,そのような教育を作りあげるための基礎資料として「生命倫理」についての意識調査を理科系進学希望の高校3年生に対して行った。その結果彼らは,臓器移植,脳死,尊厳死について,脳死を人の死とし,尊厳死を認め,臓器移植を認めるという傾向がみられ,遺伝子操作についてはそう強く賛成の方向を向いているのではないことがわかった。実験動物にも,人間が侵してはならない権利があると考えていた。出産に関わる考え方は,出生前診断は行うことがあってもよいと考えており,状況によっては中絶の可能性を認めることもあるとしていた。代理母に関しては否定的な傾向が示された。人間に対する遺伝子治療でも,そう強く賛成の方向は向いていなかった。
著者
田川 義智
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-16, 1994-03-31

地球環境の破壊に対する警告が発せられて久しいが,多数の人々の解決に向けての懸命な努力にもかかわらず,問題はますます深刻化している。環境を犠牲にしてまでも守り続けようとした経済そのものも衰退へと向かい必死の景気浮揚策実施にもかかわらず黒雲が世界を覆っている。Adam Smithが基礎を固めKeynesが修正・発展させた近代経済学理論がいかにもろいものであったかを,我々は痛切に知らねばならない。第二次世界大戦後の国際経済体制がケインズの提唱する国際決済同盟案を否決して,当時最強だったとはいえ一国の通貨であるドルを基軸通貨と定めたブレトン・ウッズ体制の矛盾と崩壊,延命策とも言えるスミソニアン体制の矛盾。我々は繁栄への神話となりつつある近代経済学理論にメスを入れ,"破滅に向かい突進している経済"を"人類にほんとうの幸せをもたらす経済"へと修正していかなければならない。虚飾の経済機構の修正は環境破壊の要因となっている地球資源の略奪(人工的生産部門)を縮小することより始めねばならない。そのためには,自然的生産部門の強化が必要となるのであるが,生産方式や性質の全く異なった農業を代表とする自然的生産活動分野と地球環境を破壊する要因となっている人工的な生産活動とを一つの土俵上で競争させている現行の制度下では望みうすである。自然的生産分野の株式化構想はこの問題を解決するために生まれた。工業生産部門の労働力を農業をはじめとする自然的な生産物の増産エネルギーに振り向けて行き,人類の経済的繁栄を出来る限り阻害せず,"収奪の経済理論"を中核とした"虚飾の経済機構"を修正して行くことが地球環境擁護にとって必要なことがらである。
著者
長谷川 淳也 広木 正紀
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.63-78, 2006-03-31

「身近な自然の,資源としてしての面」への目を育む教材開発のテーマとして,「回りにある地面の土を原料とした焼き物づくり」を取り上げた。「土の採取から土器づくりに到る筋道をどのような手順・方法で辿れるか」と「土器の原料に使える粘土が,どんな地面の土から取り出せるか」について検討した。

1 0 0 0 OA 8.企業と環境

著者
宮武 隆旭 荒木 光
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.73-89, 2002-03-31

今日,企業経営も環境問題を無視しては行い得ないようになってきた。法的規制をクリアするだけでは環境問題に対処できたとはいえない時代である。そこで,販売される商品が,場合によっては五十年・百年と使われる住宅の製造販売を行っている住宅産業が,この間題にどのように取り組んでいるかをこの産業界トップ2社を比較することで考察してみた。そして,企業としての収益を上げながら環境問題に対処するにはどのような問題点があるかを考えてみた。
著者
川村 康文
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.29-42, 2002-03-31

環境NGOサイエンスEネットが,2001年度に行ってきた活動内容について報告する。また,あわせて,本年度新たに,小中高校生用に開設された「サイエンスEネット ヤングスターズ」について概説する。
著者
細川 友秀 八木 要子 鵜飼 真美
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.91-100, 2002-03-31
被引用文献数
1

私たちの研究室では,1997年以降,大学祭(藤陵祭)において『マウスといっしょ』という展示を毎年行ってきた。これは,研究室の研究内容を地域の人々に紹介するという企画である。地域社会に向けて開かれた大学が求められている現在,私達の研究室では教育大学としての特色ある地域社会との交流をめざして,この企画を実施してきた。この企画の目的は次の3つである。1)主に地域の小・中学生対象に4回生の卒業研究の一部を平易に紹介し地域社会への働きかけとする,2)卒業研究生は専門分野の研究を理解し,その内容について一般向けのプレゼンテーションと教材化のトレーニングをする,3)大学祭(藤陵祭)を地域社会との交流の機会として利用しつつ,藤陵祭への各研究室からの参加を促すことで学問的な企画を増し,藤陵祭を教育大学としての特色あるアカデミックな地域社会との交流の場としていっそう充実させる。1997年以降,各年度の研究生達は毎年改良を重ねて,いっそう目的に近づけるよう様々な創意工夫をしつつ毎年継続することにより,この企画が地域社会に浸透して定着することも目指している。こわような経過を踏まえて2000年度と2001年度も『マウスといっしょ』を企画した。展示を準備する4回生には,研究の動機,背景,実験結果を分かりやすく説明できる準備をするように指示した。テーマによっては,現代の文明社会に生活する我々の生活環境と健康との関係に注意を向け,4回生自身への環境教育と小中学生への環境教育につながるように意図して展示の準備をするように簡単に指示した。しかし,多くは4回生の自主性と創意工夫によって,しっかりとしたプレゼンテーションが準備されて実行された。2000年度と2001年度の企画にはこれまでと同様に,地域の小中学生とその保護者を中心として多数の人々が参加した。これまでどおり参加者には簡単なアンケートに答えてもらい,展示の感想,評価,研究室への要望を聞いた。保護者の回答の中にこの企画を積極的に評価する意見がふえ,また,小学生とその保護者の回答には,「毎年来ている」,「友達を誘ってきた」,「この企画を毎年続けてほしい」,「来年も子供を連れてくる」,などのコメントが多く,この企画が少しずつではあるが地域に定着してきていると思われる。今後,これまでのこの企画の経験を生かして,学校休業日となる土曜日などに地域の小中学生の希望者を対象にして生命・環境科学分野の実験教室などを企画し,子どもたちが学校の授業外で多彩な活動をする機会を提供したいと考えている。このような活動は,様々な形で大学を地域に開放し大学と地域社会との結びつきを強める,教育大学としての特色ある活動となると考える。また,2000年度と2001年度の企画では,目的の一つ,「卒業研究生は専門分野の研究を理解し,その内容について一般向けのプレゼンテーションと教材化のトレーニングをする」ことを,さらに進めるように努力した。すなわち,卒業研究のテーマがこの企画に合った初等理系や中学理学の教員養成課程の4回生が,これらの年の企画の計画・準備・実施について,それぞれの立場から実施結果の考察とまとめをおこない,各人の卒業論文の中に一つの章として組み入れた。この報告の中にそれらの章の内容が活かされている。
著者
坂口 慶治
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.51-82, 1998-03-31

京都府の北端に位置する丹後地方は,わが国における廃村の先行的,集中的な発生地帯である。本稿では,その地域的な発生機構の解明の中で,とくに自然環境との関連性について考察した。元来,廃村化は集落の生業・規模・立地密度等の文化社会形態に関わる人文現象であるために,自然環境との関連性についても,集落の立地態様を規定した立地受容要因としての側面と,それを介しての立地障害要因としての側面を視野に入れて考察する必要がある。ここでは地形的には中低山性山地ながらも,急斜面によって多数の山地塊に分断されている構造地形的特性が,中小規模の山地集落の,分散立地形態での高い立地密度を生み,それが廃村の多発現象の一要因となった。その結果,各山地塊間では,それぞれの構造地形的特性を反映して,廃村の発生状況に大きな差がみられた。また,地質的には,多種類の地層が錯綜分布し,その独特のモザイク的分布と多彩な接触構造が,自給型集落の高い立地密度を生み,その集落の小規模・多様性が廃村の多発現象の一要因となった。それ故,各山地塊間での廃村の発生状況の差にも,それぞれの地質構成の差異が反映している。さらに,構造地形や地質条件と密接に関連して現われる小地形が,集落の立地態様をより直接的に規定している側面が認められ,廃村化に関わる自然環境の総合的指標として,小地形の分布構成が有用であることが判明した。
著者
石川 誠
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.1-10, 2006-03-31

本稿はごみ処理の有料化に関して実施した調査の報告である。今回の調査ではごみ処理有料化を導入している100市町村を対象に,ごみ排出量,人口等の経年データを収集するとともに,手数料の金額等の情報も収集した。その結果,有料化導入後のごみ排出量の推移は4つのパターン(減量成功パターン,リバウンドパターン,変化なしパターン,増加パターン)に分類されることがわかった。これらの中ではリバウンドパターンに該当する市町村が多く見られ,有料化導入によるごみの減量効果が長期間持続できていないケースが多かった。このリバウンド現象の発生の主な要因は手数料が安く住民に経済的負担を与えていないことであるため,導入時の適切な手数料の設定と導入後についても手数料水準などの見直しが必要である。
著者
本井 幸児 広木 正紀
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.69-98, 1995-03-31

市街地の子ども達が植物的自然に関われる空間として,地域にある寺院の境内を生かすことができないか,を検討することにした。検討に必要な基礎資料を得る目的で,京都市内の寺院について境内の種子植物相を調べた。1993年3月6日から11月19日までに108箇所の寺院境内を調査し,616種類(自生草本159,栽培草本198,木本259)を確認した。1つの境内当たりの平均は42種類(自生草本9,栽培草本7,木本26)であった。