著者
宇梶 徳史 原 登志彦
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.89-99, 2007-03-31

分子生物学的手法の進歩に伴い、より包括的に生物のシステム構築機構を分子レベルから明らかにすることが可能になりつつある。本稿では、筆者らがイチイ(Taxus cuspidata)を用いて行った、発現する遺伝子(Expressed-Sequence tags ; EST)の包括的解析の結果を紹大する。そして、耐凍性に加えて、冬季の光ストレスが寒冷圈に生育する樹木の生活環を制御する重要な要因であることを指摘する。これまでに、威しい冬の寒さへの適応の指標である耐凍性が、寒冷圈における樹木の生活環や地理的分布を決定する極めて重要な要因であることが生理学・生態学的アプローチによる多くの研究により報告されてきた。本研究におけるゲノミクス手法を用いた解析により、冬季のイチイの針葉では、光ストレスに対する防御遺伝子が極めて多量に発現していることが明らかとなった。またこれらの光ストレス防御遺伝子の発現は、葉緑体を持たない組織では認められなかった。これは寒冷圈における樹大の生活環制御に冬季の光ストレスが強く関わっていることを示している。本研究の結果から、筆者らは、1)光合成を行わない冬季に葉を維持すると、光ストレスから葉緑体を防御することにコストを要すること、2)落葉樹における秋の落葉は、冬季の光ストレスを回避するための適応戦略であること、を指摘したい。

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