- 著者
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國中 均
- 出版者
- 社団法人プラズマ・核融合学会
- 雑誌
- プラズマ・核融合学会誌 (ISSN:09187928)
- 巻号頁・発行日
- vol.82, no.5, pp.300-305, 2006-05-25
- 被引用文献数
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2
プラズマ生成に直流放電を利用する従来式電気ロケットは,放電電極損耗という劣化要素を含み,長寿命・高信頼を必須とする宇宙機械において重大な問題を抱えていた.これをマイクロ波放電による無電極化にて根本的に解決し,日本独自のシステムとしてマイクロ波放電式イオンエンジンが開発された.「はやぶさ」小惑星探査機は,2003年5月から2年余を掛けて,太陽距離0.86天文単位から1.7天文単位に至る広範な宇宙を走破して,目的天体「いとかわ」とのランデブーに成功した.この間,主推進装置である4台のマイクロ波放電式イオンエンジンは,22kgの推進剤キセノンを消費して,総増速量1,400m/s,延べ作動時間25,800時間という世界一級の成果を挙げた.慣性(弾道)飛行していたこれまでの「人工惑星」「人工衛星」とは異なり,高性能推進機関を搭載する宇宙機は,動力航行する能力を持ち,「宇宙船」に分類されるべき新しい技術である.