- 著者
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山下 浩史
- 出版者
- 社団法人日本気象学会
- 雑誌
- 天気 (ISSN:05460921)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, no.9, pp.781-796, 2007-09-30
- 参考文献数
- 11
- 被引用文献数
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2005年5月15日夕方,東京都八王子市などでは降雹や突風による風害が発生した.そこで,この現象をもたらした積乱雲の特徴について調査を行った.その結果,この積乱雲は,15時頃から15時30分前まで,スーパーセルに発達していたことが分かった.その発達の要因として,以下の(1)〜(3)が考えられる.(1)500hPaで約-27℃の寒気を伴った低気圧が東北地方を通過し,それに伴い,中層(高度600〜700hPa付近)のトラフが埼玉県熊谷付近を通過していたこと,(2)(1)のトラフの通過による対流不安定の強化の可能性と,海風による水蒸気量の増加と日照による昇温効果が加わったことにより,時間的・局地的に安定度が悪くなったと思われること,(3)積乱雲からの降水粒子の荷重と蒸発とで形成された冷気外出流と地上の南東風との間で起きた収束により上昇流が存在したと考えられること,である。このスーパーセルの最大の特徴は,メソサイクロンの出現時に,高度2000mより下層で鉛直渦度が顕著に強まっていること,スーパーセルの内部での雷が少ないことであった.また,スーパーセル発生時のバルク・リチャードソン数とストーム・リラティブ・ヘリシティは,それぞれ8.5,-5m^2/s^2となっていて,米国のスーパーセル発生指標の下限値を下回っていた.突風の被害地域はメソサイクロンの進路にほぼ一致し,被害は鉛直渦度の極大域が地上付近に達した時に発生していた.