著者
荻原 桂子
出版者
九州女子大学・九州女子短期大学
雑誌
九州女子大学紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:09162151)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.63-76, 2007-02

漱石文芸における<狂気>とは、平常は人間の心の闇に潜み、突如として人間を襲う不可抗力としての歪みを発生させるものである。漱石文芸の主人公たちは、こうした恐怖と不安をともなう居心地の悪さのなかで人間の暗闇に潜む「人間の罪」のまえに佇立し続け、人間の関係性に悩む能力を高めていくのである。漱石は、「神経衰弱と狂気」(『文学論』序)を手がかりに、人間連帯への求道のなかで、<狂気>の超克の可能性を模索するのである。漱石文芸における<狂気>の諸相は、自己「本来の面目」と現実との歪みを認識し、「人間の罪」を自覚することで、その罪の前に佇立する人間の姿である。漱石は、自己の文芸創作をとおして自己の内なる<狂気>と対峙するなかで、「自然」に逃避するのではなく、「自然」を呼び覚ますことの重要性に気付きはじめる。漱石文芸の登場人物は、「自然」からの疎外に病んだ孤独を抱えながら、自己の内なる〈狂気〉と対峙し、「自然」に帰一するように、自己「本来の面目」にたどり着こうとするのである。

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