- 著者
-
古我 正和
- 出版者
- 佛教大学
- 雑誌
- 文学部論集 (ISSN:09189416)
- 巻号頁・発行日
- vol.88, pp.93-102, 2004-03-01
イギリスのヴィクトリア朝は、対外的に大いに発展して経済的にも国内の産業がフル稼働していた時期であった。そのため人間個人の幸福や安寧はそれに追い付かず、 国家的な方面からの法整備もかなわぬままに、イギリス国民はその好景気に飲み込まれ、弱肉強食体制の中で、模索しながら生きていかなければならなかった。Charles Dickensはそのような世相の中で堅実に生きていこうとする庶民に日を向け、暖かく見守った。とりわけクリスマスには人々の心を癒してくれる物語を数多く書いた。本論では、そのクリスマスの物語の一つThe Cricket on the Hearthをとりあげ、そこに出てくる生きものと人聞が、ヴィクトリア朝というこの試練の時期にいかに懸命に生きているかを眺めながら、同時にディケンズの描くヴイクトリア朝の影も 探ってみた。