著者
芥川 眸
出版者
聖トマス大学
雑誌
サピエンチア : 英知大学論叢 (ISSN:02862204)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.247-268, 2007-02

幼い孫たちに囲まれ,おとぎ話を語り聞かせる老貴婦人。ロストプチン伯爵令嬢ソフィ,嫁してセギュール伯爵夫人(la Comtesse de Sugur,nee Rostopchine 1799-1874)に大方が抱くこうしたイメージを多少とも変化させ,その作品を再評価していこうとする動きが,作家の没後百数十年を経た現在,ヨーロッパを中心に起き始めている。セギュール伯爵夫人が,処女作『新仙女物語』Nouveaux Contes de feesを世に問うたのは,1858年,著者56歳の冬であった。夫人は,これより前の1855年に『子どもの健康』La Sante des enfantsを自費で出版し,また現在では失われた『子どものミサ典書』を公にしているが,前者は,民間療法による家庭の医学,後者は子どもたちの典礼理解を助けることを目的に書かれた実用的な著作である。母であり祖母である夫人は『新仙女物語』を機に,子どもを対象とする実用書の執筆から,同じく子どもを対象とする創作活動に入っていく。当初,児童を対象とする定期刊行物『こども週間』La Semaine des enfants創刊号に,「ブロンディーヌとボンヌ・ビッシュ,ボン・ミノンのお話と他のお話」として,かねて孫たちに語り聞かせて好評であった5編の物語が掲載された。のちに『新仙女物語』として「バラ色文庫」に収められたこれら5編は,先行する仙女物語を始めとする伝承民話の類型を踏襲しながらも,叙述を貫く作者のまなざしによって独自性と固有の魅力を醸しだす。いまも多くの子どもたち(そして大人たち)に読み継がれるセギュール作品の出発点である『新仙女物語』の解読を試みながら,その魅力の一端を示すことができれば幸いである。

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