- 著者
-
樋口 孝之
宮崎 清
- 出版者
- 日本デザイン学会
- 雑誌
- デザイン学研究 (ISSN:09108173)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, no.5, pp.35-44, 2008-01-31
- 被引用文献数
-
1
本稿では,明治中期において,「意匠」が重要な概念として用いられた各種の文化に関わる言説の語用を確認し,当時に「意匠」が示した意味内容について考察を行った。明治思想において重要な言説でありその影響が極めて大きかった『美術真説』のなかで,フェノロサが説く'power of subject'が大森惟中によって「意匠ノカ」と訳出された。『美術真説』に啓発された近代文学論において,西洋概念アイデア(idea)に対置される日本語として「意」あるいは「意匠」が用いられた。また,修辞学におけるinventionに「意匠」の語を用いて説明した例がみられる。さらに,目的論の論旨におけるdesign(adaptation of means to ends)を説くために「意匠」が用いられた。「意匠」は,各種の制作活動等において主体が客体をどのようなものとするか案出する思考行為を示しており,また,主体が案出した意図として客体に内在し他者が感受する概念として認知されるものを示すこともあることが確認された。「意匠」は、制作した主体の存在をよく認識させることばとして選択され使用されていたと推測される。