- 著者
-
大橋 洋士
- 出版者
- 物性研究刊行会
- 雑誌
- 物性研究 (ISSN:05252997)
- 巻号頁・発行日
- vol.89, no.6, pp.748-777, 2008-03-20
2004年にフェルミ原子気体^<40>K、^6Liで相次いで観測された超流動では、フェッシュバッハ共鳴と呼ばれる機構により、クーパー対形成に必要な引力相互作用を自在に制御することができる。この画期的な特徴を活かして実現されたのがBCS-BECクロスオーバーであり、そこでは相互作用を強くするにつれ、金属超伝導で実現するBCS状態から、超流動転移温度以上で形成された分子ボソンのボーズアインシュタイン凝縮(BEC)への連続的な移行が起こっている。これにより、従来別々に研究されできたフェルミ粒子系超流動(超伝導や液体^3He)とボーズ粒子系超流動(液体^4Heや希薄ボーズ原子ガス)を統一的に扱うことが可能になった。強結合領域で実現する超流動転移温度はフェルミ縮退温度の20%程度にまで達しており、これは金属超伝導の場合に換算すると室温をはるかに超える"超"高温超伝導の実現に匹敵している。また、ここで実現している超流動現象の物理的構造は金属超伝導のそれと本質的に同じであり、この系の研究は高温超伝導研究にも大いに資するところがあると考えられている。この講義では、BCS-BECクロスオーバーという極めて興味深い現象について、粒子の統計性、ボーズ凝縮、BCS理論といった基本的な話題から出発して詳しく解説する。併せて最新の話題についても触れ、現在爆発的勢いで研究が進むフェルミ原子ガス超流動研究の面白さを伝えたいと考えている。