著者
酒井 健児
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.C0607, 2008

【目的】今日までに投球動作分析に関する報告は数多くあるが,それらは,高価な動作解析機器を使用したもの,実際の投球動作の一場面を抜き取った分節的な評価・分析しているものが少なくない.そこで今回,投球動作という連続した運動を,寝返りという一連の動作で容易に評価できる『投球寝返りテスト』を考案した.このテストを当院に来院した投球障害症例に応用し,動作特性と実際の投球フォームの関連性について検討したので報告する.<BR>【方法】対象は,投球障害症例2名(症例1:10歳・右野球肘,症例2:10歳・右投球障害肩)である.投球寝返りテストの方法は,背臥位で,グローブ腕は肩外転90 °,肘屈曲90°,前腕回外90°とし,投球腕は手掌を耳に向けた"いわゆるゼロポジション"で,両股関節外転位を開始肢位とした.そして,検者は口答で「足から上に順番に捻っていき,最終的に右肘を左手のひらにつけて下さい(右投げの場合)」と指示した.主な観察ポイントは,足部から体幹にかけての上行性の回旋可動性とタイミング,上部体幹の伸展を伴った回旋可動性,投球側肩甲骨の内転機能,投球腕の肩甲骨面保持能力である.また,実際の投球フォームをビデオカメラで撮影した.<BR>【結果】症例1:投球寝返りテストでは,右股関節内旋・体幹左回旋が少ないため,右下肢からの波及運動が体幹につながらず,右肩甲帯の過剰な前方突出により右上腕が肩甲骨面から逸脱していた.投球フォームでも,early cockingからacceleration phaseにかけて右股関節の可動性が低下し,右肩甲帯の過剰な代償運動が観察できた.症例2:投球寝返りテストでは,足部から骨盤にかけて波及運動がみられるが,上部体幹の伸展を伴った回旋運動が少なかった.投球フォームでも,late cockingからfollow-throughにかけて上部体幹の回旋運動が少なく,ボールリリースで投球側肩内旋の増大が観察できた.<BR>【考察】投球動作における投球腕の使い方として,後方に引いてから前方に出すのではなく,重心移動によって残された投球腕が,重心移動の完了と共にその間で伸ばされたバネを戻すように前方に出て来る.したがって投球腕は,体幹から波及運動として,「動かされる」という要素が大きいと考える.症例1は,下肢から体幹への波及運動がなく,体幹回旋を右肩甲帯による過大な代償動作を利用して補っている.そのためボールリリースでの肘下がり,右上腕の肩甲骨面保持困難を助長し,肘外反ストレスを増大させることが考えられる.症例2は,上部体幹の回旋運動が少ない.そのため,ボールリリースがいわゆる内旋投げになり,肩内旋ストレスを増大させていることが考えられる.<BR>【まとめ】投球寝返りテストを考案し,投球障害症例の動作特性と実際の投球フォームの関連性について検討した.投球寝返りテストは,主に投球動作における回旋運動を評価する一助になることが示唆された.

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