著者
大森 絵美 西上 智彦 渡邉 晃久 脇 真由美 河田 健介
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3054, 2009

【はじめに】日常臨床上,気象の変化による痛みの増強を訴える症例をよく経験する.これまでに,佐藤らはモデルラットを用いて気圧・気温の低下が痛み閾値を低下させることを明らかにした.また,国内で実施された「健康と気候に関するアンケート」の調査結果において,一般生活者及び慢性疾患患者の約7割が天候や季節変化による体調への影響を経験していることが報告されている.しかし,臨床現場において,実際に,気圧・気温の変化が痛みを惹起しているかは明らかでない.そこで,本研究の目的は気圧や気温が痛みに関与するか検討することである.<BR><BR>【方法】対象は本研究を理解し同意が得られ,調査期間中に他に痛みが増強する要因がなかったことを確認した本院外来通院患者21名(男性7名,女性14名,平均年齢68.3±13.0歳)とした.まず,調査初日に気象の変化が痛みに影響するかについて意識調査を行った.痛み,気圧,気温の調査は10月中旬から同年11月中旬の不連続な計10日間に行った.痛みの程度は毎回午前9時から午前10時の間にvisual analogue scale(以下:VAS)を用いて評価した.気圧・気温については気象庁ホームページより,本院から最も近い観測所のデータを参考にした.解析対象は,気圧については調査日の午前9時における気圧及び気圧変化量(午前8時の気圧から午前9時の気圧を引いた値)とした.気温については調査日の午前0時から午前8時までの間の最低気温及び気温変化量(調査前日の午後10時の気温から調査当日の午前6時における気温を引いた値)とした.統計処理はSPSS11.5Jを用いて行った.まず,VASと気圧・気圧変化量・気温・気温変化量のそれぞれの相関係数を求め,相関係数0.8をカットオフ値として2群に分割し,気象の変化が痛みに影響するかの有無とのFisherの正確確率検定を行った.また,VASを目的変数とし,気圧,気圧変化量,気温,気温変化量を説明変数としたStepwise法による重回帰分析を行った.なお,有意水準は5%未満とした.<BR><BR>【結果】気象の変化が痛みに影響すると回答したのは21名中16名であった.Fisherの正確確率検定において有意な差は認めなかった.重回帰分析によりVASに影響を与える説明因子として21名中20名に気圧を認めた.<BR><BR>【考察】気象の変化が痛みに影響を及ぼすかの意識と実際の気象と痛みの関係は乖離していた.また,佐藤らは人為的に起こした気圧低下・気温低下においてモデルラットの痛みの増強を確認しているが,自然な気象変化の中で行ったヒトにおける本研究では,気圧・気圧変化量・気温・気温変化量のうち,気圧がもっとも痛みに影響を与える因子であった.本研究から,気圧の低下が痛みを増強していることが明らかになり,理学療法実施時には十分考慮した上での評価,治療が必要と考えられる.
著者
橋本 貴幸 岡田 恒夫 杉原 勝宣 渡邊 敏文 大西 弓恵 豊田 和典 村野 勇 中安 健 小林 公子 伊藤 万里 大山 朋彦 山口 梢
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.C0366, 2005

【はじめに】日本人の生活様式は、広範囲な屈曲可動域を要求されることが多いだけでなく、その特徴の一つに正座がある。深屈曲可動域の定義は、第33回日本人工関節学会において130°以上の屈曲を示すとされている。今回、受傷後理学療法までに4ヶ月以上経過し膝関節伸展拘縮を呈した症例の130°から正座に必要な160°までの屈曲可動域制限因子の特異的所見と理学療法について考察を踏まえ報告する。<BR>【対象】膝関節拘縮に伴い屈曲可動域130°以下の制限を呈した5例5膝(左5膝、内2膝は130°までの授動術を施行)を対象とした。性別は、女性2名、男性3名で平均身長162.4±7.8cm、平均体重58.4±7.2kgであった。<BR>【方法】1)膝関節周径計測(裂隙、膝上5・10・15cm、130°屈曲位膝蓋骨上縁の患側と健側差平均値)2)筋力測定(HORGAN社製MICROFET2を用い膝関節角度0°・90°・130°の伸展力を両側各3回施行し平均値を体重で除し指数化し患側/健側比を比較検討した)統計処理には、t検定を用い危険率5%未満を有意とした。3)130°屈曲位での下腿内旋角度計測(外旋位2点・中間位1点・内旋位0点とし指数化した)4)屈曲130°から正座獲得までの期間の4項目について調べ1)2)3)は膝関節の屈曲角度130°獲得時(以下BF)及び正座獲得時(以下AF)の2回計測し比較検討した。<BR>【結果】1)(BF/ AF)は裂隙(2.4/-1.4)5cm(0.3/0.1)10cm(-1.3/-1.1)15cm(-0.3/0.1)130°屈曲位(4.2/1.5)2)130°の場合のみ有意差を認めた(p<0.05)3) BF平均1.6点、AF平均0点4)正座獲得までの期間119.8±59日であった。<BR>【理学療法】1)浮腫管理2)深屈曲位での伸展筋強化 3)下腿内旋可動域拡大4)膝関節伸展機構及び内外側支持機構、関節内靭帯に対しアプローチした。<BR>【考察】深屈曲可動域獲得には、治療期間の長期化と拘縮による膝関節全体の硬さが制限因子である。特異的所見はBF時の130°における周径増大と伸展力低下、下腿内旋制限の3点が挙げられた。格谷らは、正常な深屈曲キネマティックスは、内顆部の2から5mmのlift-off、外顆部の大腿骨外顆の後方移動と大腿脛骨関節の亜脱臼状態及び外側半月板の可動性、膝蓋骨の遠位大腿骨内顆顆間のはまり込み、脛骨内旋・四頭筋腱顆部接触・fad padによる除圧機構が存在すると報告している。理学療法は、浮腫除去、膝伸展力強化・皮膚・膝伸筋機構・内側・外側構成体の伸張性と滑走性・関節内靭帯(ACL/PCL)の長さの獲得、低負荷持続伸張により全例正座可能となった。特異的所見の改善は正常な深屈曲キネマティックスを可能としその運動学的特徴を考慮することが深屈曲可動域獲得に重要である。
著者
池添 冬芽 小林 拓也 中村 雅俊 西下 智 荒木 浩二郎 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】近年,低強度の筋力トレーニングであっても疲労困憊までの最大反復回数で行うと,高強度と同程度の筋力増強・筋肥大効果が得られることが報告されている。しかし,疲労困憊までさせずに最大下の反復回数で低強度トレーニングを実施した場合,高強度と同等の筋力増強・筋肥大効果が得られるかどうか,また筋の質的要因に対しても改善効果が得られるかどうかについては明らかではない。本研究の目的は,健常若年男性を対象に低強度・高反復および高強度・低反復の膝関節伸展筋力トレーニングを8週間実施し,1)低強度・高反復トレーニングは高強度と同程度の筋力増強や筋肥大・筋の質改善効果が得られるのか,2)各項目の経時変化に両トレーニングで違いはみられるのかについて明らかにすることである。【方法】対象は下肢に神経学的・整形外科的疾患の既往のない健常若年男性15名とした。対象者を無作為に低強度・高反復トレーニング群(低強度群)と高強度・低反復トレーニング群(高強度群)に分類した。膝関節伸展筋力トレーニングは筋機能運動評価装置(BIODEX社製System4)を用いて,低強度群では30%1RM,高強度群では80%1RMの強度で週3回,8週間実施した。8回の反復運動を1セットとし,低強度群では12セット,高強度群では3セット実施した。介入前および介入2週ごとに1RM・最大等尺性筋力,超音波測定を行った。1RM・最大等尺性筋力測定には筋機能運動評価装置を用い,膝伸展1RMおよび膝関節70°屈曲位での最大等尺性膝伸展筋力を測定した。超音波診断装置(GEメディカルシステム社製LOGIQ e)を用いて,大腿直筋の筋量の指標として筋厚,筋の質の指標として筋輝度を測定した。なお,筋輝度の増加は筋内の脂肪や結合組織といった非収縮組織の増加を反映している。トレーニングの介入効果を検討するために,各項目について分割プロット分散分析(群×時期)を行い,事後検定にはBonferroni法による多重比較を行った。【結果】分割プロット分散分析の結果,1RM・最大等尺性筋力,筋厚および筋輝度のいずれも時期にのみ主効果がみられ,交互作用はみられなかったことから,いずれの項目も2群間で効果の違いはないことが示された。事後検定の結果,両群ともに1RMおよび最大等尺性筋力はPREと比較して2週目以降で有意な増加がみられた。また両群ともに筋厚はPREと比較して4週目以降で有意に増加し,筋輝度は8週目のみ有意に減少した。【結論】本研究の結果,両トレーニング群ともに筋力増強,筋肥大,筋の質の改善がみられ,その変化の程度や経時変化に違いはみられなかったことから,低強度であっても12セットと反復回数を増やすことによって,高強度3セットのトレーニングと同様の筋力,筋量,筋の質の改善効果が得られることが明らかとなった。
著者
久田 智之 工藤 慎太郎 颯田 季央
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101248, 2013

【はじめに、目的】腰背筋群は内側筋群の多裂筋と外側筋群の最長筋・腰腸肋筋からなると言われており,内側筋群と外側筋群は神経支配,機能とも異なることが知られている.その中で,内側筋群である多裂筋の機能は姿勢保持や腰椎のコントロール,障害予防など臨床的に重要である.多裂筋の筋機能を測定するために表面筋電図が多く使われているが,筋電図学的には腰背筋群を脊柱起立筋群として捉えていることが多く,内側筋群・外側筋群を分けて考えられていない.また,多くの研究で使われている筋電図電極貼付け位置は海外の報告を引用していることが多く,日本人の体型に適しているのかという検討はされていない.さらに,我々は第47 回本学会において,超音波画像診断より内側筋群において多裂筋の同定は困難な例も存在し,横突棘筋と捉えることが望ましいと報告している.そこで,本研究の目的は超音波画像診断装置を用いて,多裂筋を含む横突棘筋における従来の筋電貼付け位置の妥当性を検討することとした.【方法】対象は腰部に障害を有してない健常成人男性20 名(平均身長172.8 ± 6.1cm,平均体重61.6 ± 9.2kg)の右側とした.超音波画像装置にはMyLab25(株式会社日立メディコ社製)を使用し,測定はBモード,プローブには12MHzのリニアプローブを使用した.腹臥位にてL2・4 棘突起から3cm,L4 棘突起から6cm外側の3 部位を測定部位とし,短軸像を撮影した.固有背筋の同定は先行研究に従い,横突棘筋と最長筋を同定し,L2・4 棘突起から3cm外側の位置での横突棘筋の有無を観察した.さらに(a)棘突起から横突棘筋外縁までの距離,(b)棘突起から横突棘筋最表層までの距離,(c)棘突起から3cmの位置に存在する筋の筋厚を計測した.すべての測定は同一検者が行い,測定方法においては検者内信頼性が高いことを確認した(ICC(1,1)=0.90 〜0.99).また,L2・4 の棘突起から横突棘筋外縁までの距離と身長,体重,腹囲,上前腸骨棘間の距離の関係をspeamanの順位相関係数により検討した.【倫理的配慮、説明と同意】対象には本研究の趣旨,対象者の権利を説明し紙面にて同意を得た.【結果】L2 レベルにおいて棘突起3cm外側に横突棘筋の存在した例は2 例,最長筋の存在した例は18 例であった.L4 レベルでは横突棘筋の存在した例は4 例,最長筋の存在した例は16 例であった.L2・4 レベルともに,横突棘筋の表層に最長筋が存在した.L4 棘突起6cm外側にはすべての例において腰腸肋筋が存在した.また,(a)棘突起から横突棘筋外縁までの距離はL2 レベルで2.55 ± 0.41cm,L4 レベルで2.76 ± 0.36cmであった.(b)棘突起から横突棘筋最表層までの距離はL2,L4レベルともに0.39 ± 0.07cmであった.(c)棘突起3cm外側に存在する最長筋の筋厚はL2 レベル2.69 ± 0.01cm,L4 レベルで2.63 ± 0.55cmであった.棘突起から横突棘筋外縁までの距離はL2 レベルにおいて,上前腸骨棘間の距離のみ相関関係を認めた(r=0.44,p<0.05).【考察】表面筋電における多裂筋の電極貼付け位置はVinksらにおけるL4 外側3cmの位置が多く引用されている.しかしながら,本研究の結果からL4 レベルにおいて棘突起から外側3cmの深層には多くの例で多裂筋を含む横突棘筋は存在しないことが明らかになった.さらに,多くの例でL4 レベルの棘突起外側3cmには最長筋を主とする外側筋群が2 〜3cmの厚みで存在する.そのため,現在までの表面筋電における報告は腰背筋群の外側筋群の筋電位を測定している可能性がある.表面筋電の電極貼り付け位置として,横突棘筋が最表層部に来る位置が考えられるが,棘突起から横突棘筋最表層部までの距離は3 〜4mmとなり,棘突起に非常に近く,アーチファクトの影響を受けやすいと考えられる.また,Vinksらは最長筋の表面筋電の電極貼り付け位置として,L2棘突起外側3cm を提唱している.今回の計測においても,L2 外側3cmには最長筋を主とする腰背筋群の外側筋群が存在していた.そのため同部位での筋活動の測定は最長筋の筋活動を測定できている可能性が高い.L2 棘突起から横突棘筋外縁までの距離と上前腸骨棘間の距離に相関がみられた.骨盤から起始し,下位腰椎に付着する横突棘筋は隣接する椎体に停止する線維束と幾つかの椎体をまたいで停止する線維束に分類できる.後者ほど筋束の外縁を走行するため,より高位の横突棘筋は骨盤の大きさと相関したと考えられる.つまり,Vinksらの結果は黄色人種と比較して,大きな人種を対象にしているため,今回の測定結果の相違が生まれたと考えた.【理学療法学研究としての意義】本研究により従来の多裂筋の表面筋電でよく引用されていた電極貼り付け位置は多裂筋ではなく外側筋群の筋電を測定していた可能性がある.そのため従来の研究結果は電極の種類や貼り付け位置を考慮する必要がある.
著者
永井 聡 石羽 圭 広瀬 勲
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.C1384, 2008

【はじめに】 線維筋痛症(Fibromyalgia Syndrome 以下FMS)は全身に激しい痛みが生じる原因不明の疾患である。日本では約200万人は潜在するといわれるが、的確な診断や治療法がまだ確立しておらず疾患に対する理解も得られていない疾患である。今回股関節痛・腰痛を主訴とし、数年経過しFMSと診断され、疼痛に対し理学療法が効果を示した症例を経験したので報告する。<BR>【症例紹介】 51歳 女性、 病歴 2004年より、腰痛出現・体動困難にて他院で 椎間板ヘルニアと診断される。その後約2年間、腰痛に対し他院数箇所にて加療。2005年末、股関節痛出現、2006年他院にて股関節唇損傷の診断で関節鏡施行、この頃から全身に疼痛感じるようになる。2007年6月 当院受診、疼痛は股関節痛・頭痛・左肩・左肋骨・仙腸関節痛を強く訴え、疼痛の表現としては切られるような痛み、火傷のような痛み(アロディニア)と表現する。8月にFMSと診断される。11月現在も当院にて治療継続中。<BR>【理学療法評価】 初診時疼痛の訴えは強く、アロディニアによる機能障害を有していた。疼痛評価としてVASにて定量化を試みるが、日変化、多部位の訴えのため当初は9/10程度の強い疼痛部位ばかりであった。理学療法開始から5ヶ月で部位によっては半分の5/10程度まで疼痛感の改善がみられた。関節可動域の著明な制限は無く、筋力も選択的な筋力低下はなし。レントゲン上疼痛関節の構築的な異常所見なし。血液検査上も炎症所見、膠原病所見はなかった。 <BR>【治療経過】 当初は内服と温熱療法が主体の治療をおこなった。温熱終了時は効果みられたが、徐々に疼痛減少が認められなくなった。FMSと診断されてからFMS研究会の治療指針を参考に内服から下行性疼痛抑制系賦活型疼痛治療薬のノイロトロピン静注を開始した。その後温熱療法のみでなく静注後にボールExやバランスクッションなど外乱に対する自動運動、筋収縮、反応促通の運動療法を開始し疼痛感の軽減効果を認めた。<BR>【考察】 理学療法の介入は、当初疼痛対策に温熱療法を施行したが、即効性を示すものの、FMSのような症例には疼痛の訴えの減少は持続せず、疼痛確認すると逆に疼痛に執着する傾向になってしまった。ノイロトロピン開始により若干疼痛感が軽減してから、理学療法の戦略を運動療法の併用に転換すると、動作・反応の中で患者本人に疼痛を確認させると安静時に比較しアロディニア症状が改善し運動療法効果を確認できた。FMSはまだ治療のガイドラインが確立しておらず、従来は多岐に渡る疼痛訴えの患者に対しメンタルな問題などとして理学療法が関わることから逃避してきた感があるが、的確に診断し理学療法士が関わることで、疼痛に対する効果が検証されてくれば、治療のガイドラインとして理学療法も介入できると考えられる。<BR>
著者
内堀 昭宜 川上 照彦 石田 充 武末 和彦 牧 晋一郎 奥村 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.F0888, 2006

【目的】スポーツ現場においては、運動後に筋疲労を残さないために、ストレッチングやクーリングダウンが行われている。しかし短時間に筋疲労を回復させるにはその効果に限界がある。そこで我々は、筋疲労を早期に回復させる手段として、交代浴や温浴の末梢循環促進効果に着目し、これらの筋疲労回復に及ぼす影響について、血中乳酸値と筋出力の視点から検討したので報告する。<BR><BR>【対象と方法】健常男性10例(21.7±1.3歳)を被験者とし、サイベックスによる2回の運動負荷によって筋疲労試験を行った。運動負荷は屈伸回数を50回とし、比較的早い角速度である180deg/s、膝関節屈伸運動の等速度運動に設定した。また、運動負荷の間隔は58分とし、初回運動後2度目の運動まで何もせずに安静にした群と、19分間交代浴をした群、温浴をした群の3群につき血中乳酸の変化を調べた。血中乳酸は指尖部より採血し、ラクテート・プロを用い10回測定した。また、交代浴と温浴は、温浴を38~42度、冷浴を10~15度に設定し、両下腿部に部分浴を行なった。<BR><BR>【結果】血中乳酸値の経時的変化を反復測定分散分析した結果、交代浴群において安静群・温浴群より有意に血中乳酸値が減少していた。しかし、安静群・温浴群では、有意差は認められず、温浴の効果を確認することはできなかった。また、筋疲労試験については、膝関節伸展筋群で、温浴群が安静群より有意に筋力が低下しており、温浴後に筋力を発揮できない結果となった。<BR><BR>【考察】我々は、交代浴・温浴ともに、その血管拡張作用による血流量の増加により、乳酸の処理を促進し、血中乳酸値を減少させると考えた。しかし、交代浴では有意に血中乳酸が低下したにもかかわらず、温浴群ではその効果が確認できなかった。これは、交代浴の冷浴における血管収縮が、その後の温浴の血管拡張効果を増大させ、温浴のみよりも有意に血流量を増加させ、血中乳酸値の低下に差を生じさせたものと思われた。一方、筋力の低下に関しては、筋力と持久力は温熱を加えることにより30分間は低下するという報告があり、2度目の運動負荷試験時には、血中乳酸値は低下したものの筋力としては発揮できなかったものと思われた。以上我々の行なった疲労回復処置は、時間の短いインターバルでは筋力の回復の点から不向きであると思われるが、疲労した筋力の回復には、冷浴の時間配分が多い交代浴が効果的であるという報告もあり、今後の検討課題と思われた。<BR><BR>【まとめ】交代浴、温浴の筋疲労回復効果を血中乳酸及びサイベックスを用いた筋疲労試験により検討した。交代浴群において有意に血中乳酸は低下したが、筋力の回復効果は認められず、逆に、温浴群において、筋出力の低下が認められた。交代浴は、温・冷浴の時間配分を検討すれば、時間の短いインターバルにおける筋疲労回復処置の有効な手段になりうるものと思われた。
著者
酒井 章吾 石橋 敏朗 浦辺 幸夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】様々なスポーツにおいて,運動中に声を発する場面をしばしば目にすることがある。これはシャウト効果(Shout effect)を期待しており,自ら発声することによって最大努力時の筋力が増加するというものである。シャウト効果については様々な先行研究があるが,筋出力時の言葉の種類について言及したものは少ない。筆者らは,もし言葉の種類によってシャウト効果に差が生じるのであれば,スポーツ場面で選手が発する言葉を選択することで,より高い筋力発揮ができると考えた。本研究では,母音の種類によるシャウト効果に違いがあるか検証を試みた。【方法】一般成人男性30名(平均年齢21.6±1.1歳)を対象に無発声,「あ」「い」「う」「え」「お」の各母音の最大発声をランダムに行い,各母音発声中の等尺性膝伸展筋力を測定した。筋力の測定には,Cybex 6000(メディカ株式会社)を使用し,1条件に対し2回測定を行い(筋出力時間は5秒間),測定間の休息時間は60秒間とした。また,各条件間の休息時間は10分間とした。測定肢位は,膝関節は60°屈曲位,背もたれ角度は110°(座面が基本軸)とした。統計処理には,PASW statistics 18を使用し,1元配置分散分析を行い,事後検定には,Bonferroniの方法を用いた。危険率5%未満を有意とした。【結果】無発声および各母音の発声時の筋力測定値の平均値を示す。無発声で2.70±0.53(Nm/kg),「あ」で2.97±0.63,「い」で3.01±0.52,「う」で2.88±0.66,「え」で3.00±0.47,「お」で2.90±0.57だった。「え」では無発声に対して有意に筋力が増加した(p<0.05)。「あ」「い」「う」「お」では無発声に対して,全て筋力が大きくなったが,有意な増加ではなかった(NS)。【結論】シャウト効果が生じる要因について,先行研究では,音刺激による心理的影響や脊髄前角細胞の興奮順位の増強により,筋力発揮が増加すると考えられている。また,「い」「え」を選択すると運動能力が向上したという報告もある。本研究結果では,「え」の発声時のみ,無発声時よりも筋力が増加した。先行研究では「い」「う」「え」の発声時に,精神的緊張が高まるとされており。この緊張と筋出力のタイミングが合致することで運動に対し有効に働くとされている。今回,「え」のみで筋力の増加が認められたが,発声に関与する筋や頸部周囲筋の特性を含めて検討を進めたい。
著者
佐々木 嘉光 内野 恵里 山口 ゆき 美津島 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B4P2146, 2010

【目的】重症熱中症は、意識障害を含む中枢神経障害をはじめとした多臓器不全(MOF)を呈する疾患であり、48時間以上の遷延性意識障害例で小脳症状の後遺症を来すとされている。今回、熱中症発症後に48時間を越える遷延性意識障害とMOF等を呈し、小脳症状等の後遺症を来した症例を経験した。発症から自宅退院までの経過をまとめ、機能予後について検討したので報告する。<BR>【症例】40歳代前半、男性。持ち家一人暮らし。業務中に行方不明となり、2日後に車内で倒れているのを発見されA病院へ救急搬送。意識レベルはJCS 300、血圧76/37mmHg、直腸温41.7&deg;Cであった。重症熱中症によるMOF、横紋筋融解症と診断され、腎不全に対し人工透析(HD)を週3回実施。脳波検査、頭部MRIで異常所見はなかった。遷延性意識障害が続き、発症2ヶ月後よりリハビリを開始。訓練開始1週間後、HDとリハビリ目的で当院転院し、同日より訓練(PT・OT・ST)開始となった。HDは転院2週間後に腎機能改善し離脱した。入院時検査所見では、BMI 20.9Kg/m<SUP>2</SUP>、心電図で洞性頻脈を認め、頭部CTは正常であった。安静時血圧は120/90mmHg、心拍数は105拍/分。精神機能は興奮、幻視、せん妄、見当識障害、記銘力障害がみられた。言語はジャーゴン様発話で強い不明瞭発語の構音障害を認め、失語症の評価はせん妄のため困難であった。また嚥下障害を認め中心静脈栄養管理であった。MMTは上肢1~3、下肢4<SUP>-</SUP>~4。深部筋腱反射は右アキレス腱・左上腕三頭筋腱で亢進、左膝蓋腱で正常、他減弱。病的反射は陰性。感覚は精査困難で筋緊張は低下。基本動作は全介助で寝たきりレベル。ADLはFIM 18点、協調運動は体幹失調試験ステージ4、国際協調運動評価尺度(ICARS)92点で姿勢および歩行障害・運動機能障害・構音障害・眼球運動異常を認めた。<BR>【説明と同意】本人に対して症例報告の目的、方法、参加・協力の拒否権、個人情報の保護、利益、公表方法について書面および口頭で説明を行い、同意と署名を得た。<BR>【訓練・経過】発症後約2.5ヶ月からリハビリ開始。理学療法(2~3単位)は、筋力維持・増強訓練、基本動作訓練、起立・歩行訓練を実施。運動負荷は%HRの65~75%程度、Borg scale 11~13とした。作業療法(1~2単位)は、高次脳機能訓練、両上肢巧緻動作訓練、ADL訓練を実施。言語療法(1~2単位)は、摂食・嚥下訓練と構音障害・失語症の評価と訓練を行った。訓練開始当初は起立性低血圧を認めたが、発症後約3ヶ月で車椅子駆動訓練、4輪型歩行車(CW)の介助歩行訓練を開始。寝返りは自立し、食事はきざみ食となった。標準失語症検査(SLTA)では、単語レベルでの理解と表出は可能であった。ICARSは79点で、座位・立位時の著明な体幹動揺と失調性歩行を認めた。発症後約4ヶ月で精神機能が著名に改善し、起立・着座訓練、リカンベント式エルゴメーター、踏み台昇降訓練、CW歩行訓練(40m)、バランス訓練実施。FIMは77点、食事は常食、SLTAは正常域で失語症は否定された。ICARSは72点で構音障害は不明瞭発語であるがほとんどの語は理解可能となった。発症5ヶ月後FIMは113点、ICARS 58点で、6ヶ月後FIMは122点、ICARS 35点となった。発症から9.5ヶ月後に頭部MRIを実施した結果、小脳に軽度の萎縮を認めた。10.5ヶ月後に独居の準備も整い、主治医と相談のうえ自宅退院となった。退院時はMMTが上肢4<SUP>+</SUP>~5、下肢5<SUP>-</SUP>~5、基本動作自立、手押し歩行車歩行は10m最大歩行速度7秒87、6分間歩行300m、独歩は見守りで10m程度可能、FIM 122点となった。体幹失調試験はステージ2、ロンベルグ徴候陰性、ICARS 27点で、最終的に小脳症状の後遺症(姿勢および歩行障害・構音障害・運動機能障害・眼球運動異常)が残存した。<BR>【考察】本症例は、発症後約2.5ヶ月間は全身状態が安定せず臥床状態が続き、予後は転院時でも予測できなかったが、約8ヶ月間のリハビリの実施により精神・運動機能、歩行能力と失調症状、構音障害とADLが改善した。発症4ヶ月頃より精神機能の改善と合わせてICARSとFIMは加速的に向上し、全般的な小脳症状が残存したが自宅退院に至り、機能予後は比較的良好であった。発症時の高体温による重度のMOFと48時間を超える遷延性意識障害を来す重症例では、意識レベルや精神機能が改善するまでの廃用予防と、精神機能改善後の集中的なリハビリが必要と考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】理学療法においては、これまで小脳症状とADLの程度を示した報告が少なく、稀な疾患であり、症例報告の蓄積によって今後の理学療法学の発展に寄与すると考える。
著者
江玉 睦明 影山 幾男 熊木 克治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI2033, 2011

【目的】大腿直筋の肉離れはハムストリングスに続いて多く,発生部位は近位部に集中している.今回,大腿直筋について肉眼解剖学的に筋構造を明らかにし,肉離れ発生部位との関連を検討した.<BR><BR>【方法】日本歯科大学新潟生命歯学部に献体された成人3遺体5側を用いた.検索方法は主に肉眼解剖学的手法を用いた.<BR><BR>【説明と同意】本研究は死体保護法で同意を得て行った.<BR><BR>【結果】大腿直筋は下前腸骨棘と寛骨臼蓋上縁から起こり,遠位1/4から内側広筋,外側広筋,中間広筋とで共同腱を形成し膝蓋骨上縁に停止した.表面の近位1/3まで幅広い起始腱膜があり,そこから遠位1/3まで筋内腱が存在した.裏面では停止腱膜が近位1/4まで幅広く存在した.下前腸骨棘と寛骨臼蓋上縁から起こる起始腱は混同して起始腱膜となり,近位部で徐々にねじれて筋内腱を形成した.筋内腱は起始腱膜の延長であり,薄い膜状構造を呈した.近位部の特徴として,起始腱膜から筋内腱の筋線維は両側へ走行し羽状構造を呈して停止腱膜に停止していた.起始腱(下前腸骨棘)からの筋線維は,半羽状構造を呈し,起始腱(臼蓋上縁)からの筋線維は長軸方向に平行に停止腱膜に付着しており,表層と深層では異なる筋線維走行を呈した.また起始腱膜の形状は一様ではなく,加えて近位部で徐々にねじれて筋内腱を形成していることで近位部表面の筋線維走行は部位により異なる走行を呈した.<BR><BR>【考察】肉離れの発生メカニズムとして羽状構造,筋腱移行部,遠心性収縮がポイントとして挙げられる.大体直筋は羽状筋であり,サッカーのシュート動作時などに受傷することが多く,近位部の筋内腱部,筋束の筋膜が好発部位とされている.今回の結果から近位部は,表層と深層では異なる筋線維走行をしており,また,起始腱膜の形状は一様ではなく,加えて近位部から徐々にねじれて筋内腱を形成しているため,近位部前面は部位により異なる筋線維走行を呈していた.このため,近位部は収縮時に部位により異なる収縮動態を呈する可能性があり,このことが肉離れの発生に関与しているのではないかと考えられた.今後は,超音波を使用しての筋収縮の動的評価を行い近位部の収縮動態を明らかにしていきたい. <BR><BR>【理学療法学研究としての意義】本研究は,肉眼解剖学的観点から大腿直筋の肉離れの発生原因を考察しており今後更に発展させていくことにより肉離れの治療や予防の一助となるものと考える.
著者
生友 尚志 永井 宏達 西本 智一 田篭 慶一 大畑 光司 山本 昌樹 中川 法一 前田 香 綾田 裕子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.A0851, 2006

【目的】広背筋は上半身の中で最も大きい筋であり、その働きは多岐にわたる。この広背筋の筋電図学的研究は多くなされているが、その中でもPatonらは広背筋を6つに分けて筋活動の測定を行い、機能的な分化があることを報告している。また、前田らも同様の方法により行っているが、両者とも肩関節運動時の筋活動を測定しており体幹運動時の筋活動は測定していない。さらに広背筋の体幹伸展、回旋動作の研究は多く行われているが、体幹側屈動作時の筋活動の研究は少ない。本研究の目的は、体幹側屈動作を先行研究に加えて測定し、広背筋の体幹側屈時の筋活動とその機能的分化について筋電図学的特徴を明らかにすることである。<BR>【対象と方法】対象は上下肢及び体幹に整形外科的疾患のない健常成人男性10名(平均年齢24.9±3.0歳)とした。なお、被験者には本研究の趣旨を説明し同意を得た上で測定を行った。筋電図の測定にはNORAXON社製MyoSystem 1400を使用し、表面電極による双極誘導法にて行った。測定筋は右広背筋とし、Patonらの方法をもとに広背筋をC7棘突起と上前腸骨棘を結んだ線上で等間隔に4つ(広背筋上部、中上部、中下部、下外側部)に分け、筋線維に平行に表面電極を貼付した。また、体側のTh9の高さの筋腹(広背筋上外側部)にも貼付した。測定動作は腹臥位での右肩関節伸展・内転・水平伸展・内旋・下方突き押し、端座位での体幹右側屈・プッシュアップ、側臥位での体幹右側屈・右股関節外転・左股関節内転、背臥位での右骨盤引き上げ運動の計11項目とした。プッシュアップは端座位で臀部を床から持ち上げた状態で3秒間保持した時の積分筋電図値(以下IEMG)を、それ以外は3秒間最大等尺性収縮した時のIEMGを求め、それらを徒手筋力検査に準じた肢位にて測定した肩関節伸展最大等尺性収縮時のIEMGを100%として正規化し、各部位ごとに%IEMGを求めた。統計処理は反復測定分散分析を行った。<BR>【結果と考察】各動作において部位ごとの%IEMGを比較すると、全ての動作において有意な差がみられた。肩関節水平伸展、内旋においては広背筋上部が他の部位に比べて高値を示し、肩関節内転やプッシュアップは広背筋下外側部が高値を示した。肩関節下方突き押しについては広背筋上外側部、下外側部が高値となった。これに対して、体幹側屈動作では側臥位体幹右側屈において広背筋上外側部、中下部、下外側部が高値を示し、座位体幹右側屈、側臥位右股関節外転・左股関節内転、背臥位右骨盤引き上げ運動においては広背筋下外側部が高値となった。本研究の結果より、広背筋は筋線維により機能的に分化していることが確認できた。また、広背筋の上部線維は肩関節運動時に大きく働き、外側線維については体幹の側屈を伴うような運動時に大きく働くということが示唆された。<BR>
著者
羽崎 完 藤田 ゆかり 山田 遼
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0440, 2012

【目的】 筋連結とは,隣接するふたつの骨格筋において,筋膜,筋間中隔などの結合組織や互いの筋線維が交差して接続していることを指し,全身のいたる所で観察できる。Myersは,個々の筋連結による筋の全身におよぶ連続したつながりを経線としてとらえ,ほとんどの運動が経線に沿って拡がるとしている。つまりこれは,ある筋が収縮したとき,その筋に連なる筋にまで活動が伝達されることであり,この概念は広く臨床に応用されるようになっている。しかし,筋連結や経線についての概念は解剖学的な考察や経験に基づいており,筋の機能的な連結について明確にされていない。我々は,Myersの述べる経線のひとつであるラセン線上にある前鋸筋と外腹斜筋に着眼し,両筋が機能的に筋連結していることを明らかにし,第46回日本理学療法学術大会においてその成果を報告した。本研究では,その延長線上にある菱形筋と前鋸筋も機能的に連結しているか否かを明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は,健常成人男性10名(平均年齢21.2±1.8歳,身長170.4±9.7cm,体重65.6±26.2kg)とした。測定は,前鋸筋に負荷を与えたときの前鋸筋と菱形筋の筋活動を導出した。測定肢位は,高さの調節できる椅子に膝関節90°屈曲位になるように座らせ,肘関節伸展位にて肩関節90°屈曲位,肩甲骨最大外転位とした。この肢位で,前腕遠位部に自重(負荷なし),2kg,4kg,6kgの負荷を加え,それぞれ5秒間保持させた。測定筋は第6肋骨前鋸筋,第8肋骨前鋸筋,菱形筋とした。第6および第8肋骨前鋸筋は肋骨上で触診できる位置に,菱形筋は肩甲骨最大外転位で,僧帽筋下部線維外側縁,肩甲骨内側縁,肩甲骨下角から第5胸椎棘突起を結んだ線でできる三角形内に電極を貼付した。なお、電極が正確に菱形筋に貼付できているか,超音波画像診断装置(日立メディコ社製Mylab25)を用いて確認した。筋活動の測定は,表面筋電計(キッセイコムテック社製Vital Recorder2)を用い,電極間距離1.2cmのアクティブ電極(S&ME社製)にて双極導出した。筋活動の解析は,自重時の平均筋活動量を1として,各負荷における筋活動量の変化率を算出し行った。第6および第8肋骨前鋸筋と菱形筋の関係は,Pearsonの相関係数を求め検討した。さらに,第6肋骨前鋸筋と第8肋骨前鋸筋のどちらがより菱形筋と関係が強いか検討するために重回帰分析を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者の個人情報は,本研究にのみ使用し個人が特定できるような使用方法はしないことや研究の趣旨などの説明を十分に行った上で,対象者の同意が得られた場合にのみ,本研究を実施した。【結果】 Pearsonの相関係数を求めた結果,菱形筋と第6肋骨前鋸筋との相関係数は0.791,第8肋骨前鋸筋との相関係数は0.817となり、いずれも有意な強い正の相関が認められた(p<0.01)。重回帰分析の結果,第6肋骨前鋸筋の標準偏回帰係数は0.356,第8肋骨前鋸筋の標準偏回帰係数は0.517となり,第8肋骨前鋸筋にのみ有意な影響が認められた(p<0.05)。【考察】 五十嵐らは解剖実習献体を用いて,菱形筋と前鋸筋が肩甲骨内側縁で線維性結合組織で連結されていることを肉眼にて確認している。また,竹内らも解剖実習献体の大菱形筋付着部を観察し,それが前鋸筋筋膜に折りたたまれるように接着していることを確認している。このように菱形筋と前鋸筋が解剖学的に連結していることは明白であり,菱形筋の筋活動の変化率と前鋸筋の変化率が強い相関を示した今回の結果から,機能的にも連結していることが明らかとなった。一般的に菱形筋は肩甲骨の内転・下方回旋に,前鋸筋は外転・上方回旋に作用し,両筋は拮抗筋の関係にあるとされている。その一方でPatersonが経験に基づき推察しているように菱形筋と前鋸筋は共同筋として肩甲骨の安定に作用していることが知られている。今回の結果は,この推察を科学的に証明した。菱形筋と前鋸筋は,解剖学的にも機能的にもあたかもひとつの筋のように肩甲骨の安定に作用すると考える。また重回帰分析の結果から、第6肋骨前鋸筋よりも第8肋骨前鋸筋の方がより菱形筋との関係が深い傾向が認められた。これは,第6肋骨前鋸筋よりも第8肋骨前鋸筋の方が菱形筋の走行の向きに近似しており,肩甲骨の安定に対して共同筋としてより機能しやすいためと考える。Myersもラセン線は前鋸筋のより下部を通過するとしており,下方の前鋸筋の方が菱形筋との関係が深いことが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果は,不安定な肩甲骨に対して前鋸筋のみにアプローチするのではなく,菱形筋と前鋸筋をひとつの筋としてアプローチする必要があることを示唆している。
著者
谷出 康士 沖 貞明 田坂 厚志 甲田 宗嗣 長谷川 正哉 島谷 康司 金井 秀作 小野 武也 田中 聡 大塚 彰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P1368, 2009

【目的】イメージトレーニングによる運動学習や運動習熟に関する研究は数多く報告されている.しかし,イメージトレーニングの筋力増強効果についての研究は少ない.そこで本研究では大腿四頭筋を対象とし,イメージトレーニングによる筋力増強効果を検討した.また,イメージ能力の高い被験者群とイメージ能力の低い被験者群との2群を設け,イメージ能力の差が筋力増強効果にどのような影響を与えるかを調べることとした.<BR><BR>【方法】研究の実施にあたって対象者には十分説明を行い,同意を得た.対象は健常学生24人とし,筋収縮を伴う筋力増強運動群(以下,MS群),イメージ能力の低いイメージトレーニング群(以下,Ns群),イメージ能力の高いイメージトレーニング群(以下,PT群)に分類した.Biodexを用いて,膝関節屈曲60°での膝関節伸展筋力を計測した.MS群には大腿四頭筋の等尺性最大収縮をトレーニングとして行わせた.一方Ns群とPT群にはトレーニング前に運動を想起させる原稿を読ませ,上記のトレーニングをイメージさせた.4週間のトレーニング実施前後に等尺性収縮を5秒間持続し,最大値を記録した.また,全被験者に自己効力感についてのアンケート調査を実施した.統計は各群内の筋力差にt検定を,3群間の筋力上昇率の差に一元配置分散分析を行い,有意差を5%未満とした.<BR><BR>【結果】1)筋力測定の結果:初期評価と最終評価における筋力平均値の変化は,MS群(p<0.01),Ns群(p<0.05),PT群(p<0.01)で有意に増加したが,各群間での筋力上昇率に有意差は認められなかった.2)アンケート:「トレーニングにより筋力は向上したと思うか」という問いと筋力上昇率との間に,MS群は正の相関が認められたのに対し,Ns群およびPT群では負の相関が認められた.<BR><BR>【考察】筋力測定の結果,3群全てにおいて筋力が向上した.イメージトレーニングのみ行ったNs群とPT群においても筋力増強が認められた理由として,運動イメージを繰り返すことにより筋収縮を起こすためのプログラムが改善されたためと考える.次に,Ns群・PT群間の筋力上昇率に有意差は認められない理由として,イメージの誘導に用いた原稿が影響したと考えられる.この原稿によってイメージ能力が低いと想定したNs群でも,一定の水準でイメージを持続できていたと考えられる.原稿によるイメージのし易さは,PT群に比べてNs群で高く,Ns群は原稿の誘導を頼りにイメージを想起し,PT群とのイメージ能力の差を補った可能性が示唆された.最後に,MS群では筋力上昇率と自己効力感との間に正の相関があったが,Ns群・PT群では負の相関が認められた.イメージトレーニングのみ行ったNs群・PT群では,フィードバックが無いことで,「この練習で筋力は向上するのか」という懐疑心が強くなったと考えられる.
著者
荒川 高光 寺島 俊雄 三木 明徳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Aa0138, 2012

【はじめに、目的】 内側広筋は解剖学的に斜頭が存在すると報告されて以来(Lieb and Perry, 1968)その解剖学的な分類と機能について議論されてきた筋である。しかしながら、内側広筋斜頭に関しては、線維の方向が他の部と違い膝蓋骨に横から付着するもの(Lieb and Perry, 1968)という説が一般的であるが、その線維方向だけで斜頭を決定している報告(Peeler et al., 2005)や大内転筋腱から起こる部分が斜頭であるとする説(Williams, 2005)があり、定義が一定でない。さらには解剖学的に分けられないという報告(Hubbard, 1997)も存在するなど、その解剖学的詳細が明らかになっているとは言い難い。よって今回われわれは、内側広筋の起始と、内側広筋起始の周囲にある広筋内転筋板に着目し、その機能的意義や臨床上の応用について詳細に検討を加えることとした。【方法】 本学医学部の解剖学実習に提供された遺体8体12側(右6側、左6側)を使用した。関係構造物の破損が激しい場合や遺体の固定の状態のため、全例で両側を使用することはできなかった。内側広筋、大内転筋など、広筋内転筋板と関係する筋群を中心に詳細に解剖した。大腿動脈、大腿静脈、大腿神経、およびそれらの枝たちも広筋内転筋板との関係に注意して詳細に解剖した。その後、広筋内転筋板を切開して翻転し、大腿動脈、大腿静脈、大腿神経の枝たちの位置を確認後、それらを適宜翻転しながら、内側広筋を起始に向かって詳細に解剖した。とくに内側広筋の起始・停止を詳細に観察し、スケッチとデジタル画像にて記録した。【説明と同意】 本研究で使用した遺体は死体解剖保存法に基づき、生前に適切な説明をし、同意を得ている。解剖は全て、定められた解剖実習室内にて行った。【結果】 内側広筋と広筋内転筋板は全例で認められた。広筋内転筋板は大内転筋の腱部の一部が外側上方へと張り出して腱膜となるが、12側中10側で長内転筋の停止腱からも広筋内転筋板へ連続する腱膜が存在した。内側広筋の起始を観察すると、大部分は深層の大腿骨粗線内側唇から起こる部が占めるが、下部浅層約4分の1には、広筋内転筋板から起こる内側広筋の筋束があった。深層から起始した筋束も、下部浅層の広筋内転筋板から起こる筋束もお互いに並んで外側下方へと走行した。停止は、膝蓋骨内側へと放散する筋束もあるが、横膝蓋靱帯などの膝関節内側の関節包へと連続するものも一部認められた。【考察】 内転筋管は大腿動脈と大腿静脈が前方から後方へと通過する管であり、その前壁に張る腱膜構造が広筋内転筋板である。今回、われわれの観察により、広筋内転筋板は大内転筋の腱部のみでなく、長内転筋の停止腱からも線維が関与することが明らかになった。内側広筋の下部浅層の筋束は広筋内転筋板から起こり、膝蓋骨や膝関節内側の関節包に停止する。よって内側広筋の下部浅層の筋束は、他の内側広筋の筋束よりも起始が前に位置することとなり、そのため筋腹も前方へと移動する。体表解剖学において内側広筋の下部は外側広筋と比較して前方へ膨らんで観察される。すなわち、体表解剖学的に観察できる内側広筋が前方へ膨らんだ下部こそ、広筋内転筋板から起こる筋束の部である可能性が高い。大内転筋や長内転筋の一部の筋束がその筋の停止腱から広筋内転筋板を介して内側広筋と連続する構造は、機能的に二腹筋の構造を呈していると考えたい。すなわち、大内転筋や長内転筋の収縮があって初めて内側広筋の下部浅層の筋束は起始が固定されるのかもしれない。言い換えれば、立位・歩行時に股関節外転筋群が収縮して片脚立位を保つと、股関節内転筋群の収縮が抑制され、内側広筋の下部浅層の筋束はその起始の固定を失ってしまうため、内側広筋の下部浅層の筋力を十分に発揮できない可能性がある。内側広筋の斜頭は解剖学的には明確に分離できなかったが、広筋内転筋板から起こる筋束として定義することが可能ならば、機能的・臨床的意義は高いと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 長い間問題となっていた内側広筋斜頭の解剖学的事実を明らかにし、内側広筋の機能的・臨床的な応用を新しく提唱できたと考える。
著者
片桐 由美子 矢崎 高明 井上 宜充 高篠 瑞穂 久合田 浩幸 田村 拓也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.A0434, 2008

【目的】臨床では腹臥位が困難な症例に対し、背側の筋を働かせる目的で背臥位でのブリッジ運動や膝関節伸展位での股関節伸展運動を行うことがある。今回はブリッジ課題と背臥位での股関節伸展課題の体幹・下肢の筋活動を比較・検討したので報告する。<BR>【方法】対象は健常男性10名(27.4±4.22歳)。筋活動電位は日本光電マルチテレメーターシステムWEB-5500を用い表面電極にて導出した。測定筋は右側の腹直筋、外腹斜筋、傍脊柱筋、大腿直筋、大殿筋、中殿筋、半腱様筋とした。測定課題は背臥位・両膝関節屈曲120°の両脚ブリッジ課題(WB)、背臥位・両股関節屈曲20°・膝関節伸展位で足部を台にのせた位置からの股関節伸展課題(HE)とした。最終肢位は両課題とも股関節が中間位まで殿部を挙上した位置とした。それぞれ最終肢位を5秒間保持し、その中から安定した3秒間のデータを採用した。各筋についてDanielsの徒手筋力テストの抗重力肢位での最大等尺性収縮値をMVCとし、WBとHEにおける各筋の%MVCを算出した。有意差の判定はWilcoxonの符号順位和検定を使用した(p<0.05)。<BR>【結果】各筋の筋活動はWBでは傍脊柱筋55.03±17.63%、中殿筋31.35±33.16%、大殿筋44.88±30.04%、大腿直筋14.78±16.24%、半腱様筋20.27±12.79%。HEでは傍脊柱筋83.83±28.76%、中殿筋49.13±30.36%、大殿筋64.43±42.70%、大腿直筋25.65±15.07%、半腱様筋77.23±51.75%。全ての筋でHEの方がWBよりも高い値を示し、有意差は傍脊柱筋、中殿筋、大腿直筋、半腱様筋で認められた。<BR>【考察】ブリッジ課題は股関節周囲筋へのトレーニング効果が少なく背筋群での効果が高いといわれているが、今回のわれわれの実験では大殿筋および中殿筋において、どちらも30%以上の高値を示し、筋力増強が期待できることが示唆された。HEでは傍脊柱筋83%、大殿筋64%、半腱様筋77%と全ての背側の筋で高値を示し、中でも半腱様筋と傍脊柱筋は有意に高かった。挙上する際の肩甲帯~足部の距離がHEはWBよりも長い。殿部を挙上する高さが異なるため一概には言えないが、この長さの影響で背側筋群に高値結果が出たと考えた。そのひとつとしてHEでは膝関節伸展位のため二関節筋である半腱様筋は股関節伸展筋としても働きWBより筋力が発揮されたと考えた。また、HEでは体幹を挙上させる際に、半腱様筋、中殿筋が股関節固定筋として働いたためWBよりも高値を示したと考えた。
著者
滝沢 直樹 森田 浩庸 滝沢 久美子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.C0267, 2007

【はじめに】<BR> 若い男性にとって性行為は、重要なQOLの一つと考えられる。今回、膝関節拘縮により性行為時の体位が制限されていた症例が、2年以上の理学療法を行い正常位・後背位が可能になったのでここに報告する。<BR>【症例紹介】<BR> 35歳、男性、左下腿骨骨折(GASTILOIII-C)。2002年12月仕事中建設重機に挟まれ受傷、10ヶ月間創外固定にて膝完全伸展位をとり、その間、前傾骨筋切除、皮膚移植、足関節固定術を受けた。2004年2月関節受動術を受けた。<BR>【経過】<BR> 2004年4月より当院外来リハ開始、膝関節屈曲60°であった。2004年5月に「性行為時に、正常位ができずに困っている」という訴えを受け、体位獲得のための関節可動域運動(以下ROMex)中心の理学療法を開始した。動作練習として、四つ這い位にて膝を固定し骨盤を前後傾させるClosed Kinetic Chainを行った。2004年11月膝関節90°まで改善したが膝関節の違和感(筋の張り)の訴えがあり正常位での性行為ができなかった。そこでROMexに加え、軟部組織へのアプローチと筋活動をより増加させるために、膝立ち位での動作練習も行った。2005年3月には、膝関節屈曲100°となり軟部組織の柔軟性も向上し、性行為時の膝の違和感は減少した。2005年5月から仕事を始めるようになり、運動量が増加、軟部組織の柔軟性も明らかに向上していった。練習開始から14ヶ月後の2005年7月末、膝関節屈曲100°、正常位での性行為が可能になった。さらにROMex、軟部組織へのアプローチ、動作練習を継続し13ヵ月後、2006年8月中旬には、後背位にての動作も可能になった。この間膝関節屈曲100°で変化は無かった。<BR>【考察とまとめ】<BR> 性行為時の動作獲得のためには、関節可動域の改善は当然であるが、スムースな動きを出す筋活動も求められた。本症例では社会復帰の結果、活動量の増加し、筋活動も増していったことが目標の達成のための大きな要因となったとも考えている。<BR>この症例にとって12ヶ月以降関節の可動域に変化は無かったが、性行為時の動作を再学習するためには、27ヶ月のアプローチは必要であった。<BR>今回の症例のように、青年層が重症外傷によって膝に障害が残るケースもある。このような場合、性行為などのQOLを考慮したサービス提供も考えていく必要がある。<BR><BR>【謝辞】<BR>本症例には、発表に際し内容、個人特定されないよう配慮する旨を説明し、快諾を頂いたことに感謝します。
著者
前岡 浩 松尾 篤 冷水 誠 岡田 洋平 大住 倫弘 信迫 悟志 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】痛みは不快を伴う情動体験であり,感覚的,認知的,情動的側面から構成される。したがって,知覚される痛みは刺激強度だけでなく,不快感などの心理的状態にも大きく影響を受ける。特に,慢性痛では認知的および情動的側面が大きく影響することが報告され(Apkarian, 2011),運動イメージ,ミラーセラピー,バーチャルリアリティなどの治療法が提案されている(Simons 2014, Kortekass 2013)。しかしながら,これらの治療は主に痛みの認知的側面の改善に焦点を当てており,情動的側面からのアプローチは検討が遅れている。そこで今回,痛みの情動的側面からのアプローチを目的に,情動喚起画像を利用した対象者へのアプローチの違いが痛み知覚に与える影響について検証した。【方法】健常大学生30名を対象とし,無作為に10名ずつ3群に割り付けた。痛み刺激部位は左前腕内側部とし,痛み閾値と耐性を熱刺激による痛覚計にて測定し,同部位への痛み刺激強度を痛み閾値に1℃加えた温度とした。情動喚起画像は,痛み刺激部位に近い左前腕で傷口を縫合した画像10枚を使用し,痛み刺激と同時に情動喚起画像を1枚に付き10秒間提示した。その際のアプローチは,加工のない画像観察群(コントロール群),縫合部などの痛み部位が自動的に消去される画像観察群(自動消去群),対象者の右示指で画像内の痛み部位を擦り消去する群(自己消去群)の3条件とした。画像提示中はコントロール群および自動消去群ともに自己消去群と類似の右示指の運動を実施させた。評価項目は,課題実施前後の刺激部位の痛み閾値と耐性を測定し,Visual Analogue Scaleにより情動喚起画像および痛み刺激の強度と不快感,画像提示中の痛み刺激部位の強度と不快感について評価した。統計学的分析は,全ての評価項目について課題前後および課題中の変化率を算出した。そして,課題間での各変化率を一元配置分散分析にて比較し,有意差が認められた場合,Tukey法による多重比較を実施した。統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】痛み閾値は,自己消去群が他の2群と比較し有意な増加を示し(p<0.01),痛み耐性は,自己消去群がコントロール群と比較し有意な増加を示した(p<0.05)。また,課題実施前後の痛み刺激に対する不快感では,自己消去群がコントロール群と比較し有意な減少を示した(p<0.05)。【結論】痛み治療の大半は投薬や物理療法など受動的治療である。最近になり,認知行動療法など対象者が能動的に痛み治療に参加する方法が提案されている。本アプローチにおいても,自身の手で「痛み場面」を消去するという積極的行為を実施しており,痛みの情動的側面を操作する治療としての可能性が示唆された。
著者
佐藤 健一 小林 量作 計良 圭一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3068, 2009

【目的】麓(1982,1989)の研究によると、利き足には機能的利き足(以下、機能足)と力発揮の利き足(以下、支持足)に分けられる.前者はボールをける足で右足が多く、後者は高跳びなどの踏み切り足とされ左足であることが多い.本研究の目的は、左右及び利き足の違いによって片脚立ち保持時間に影響を及ぼすか検討することである.<BR>【方法】対象は本学およびA専門学校学生588名(男性394名、女性194名、19.5±1.7歳)の内アンケートにおいて骨・関節障害の記載者を除いた463名(男性316名、女性147名、19.5±1.6歳、身長168.1±8.2cm、体重61.1±9.5kg)である.対象者に開眼・閉眼片脚立ち時間の測定およびアンケートを実施した.片脚立ち時間の測定は上限を120秒とし、開眼、閉眼において左右各2回行い最長時間を代表値とした.アンケートは、年齢、身長、体重、運動器疾患の有無、車酔いの頻度、めまいの有無、機能足(ボールをける足)、支持足(高跳びの踏み切り足)である.統計解析にはSPSS Ver.12を使用し、一元配置分散分析、対応のないt検定、有意水準5%未満とした.なお本研究は新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を得て対象者全員から書面による同意を得た.<BR>【結果】(1)利き足の割合は支持足右42.7%、左52.9%、左右4.3%.機能足右92.6%、左5.2%、左右2.2%で、利き足の組み合わせは9通りみられ、最も多かった組み合わせは支持足左-機能足右49.5%、次いで支持足右-機能足右39.3%であった.(2)片脚立ち時間の性差は、開眼・閉眼とも認められなかった.(3)車酔い、めまいのアンケート結果と片脚立ち時間及びロンベルグ率(閉眼片脚立ち時間 / 開眼片脚立ち時間)の比較でも有意差は認められなかった.(4)左右の片脚立ち時間では、開眼(右117.3秒、左118.8秒)、閉眼(右55.8秒、左60.7秒)のいずれも左右差が認められた.(5)支持足および機能足の左右差では、支持足における閉眼片脚立ち(右50.6±38.9秒、左65.2±44.0秒)のみ有意差が認められた.(6)ロンベルグ率における支持足、機能足の左右差においても支持足(右0.4±0.3、左0.5±0.4)のみ有意差が認められた.<BR>【考察】片脚立ち保持時間については支持足が左であることが他の条件(支持足が右、機能足が左など)よりも有意に長く、特に閉眼片脚立ちで顕著であった.これは、姿勢バランスの視覚による補正が断たれることで顕在化したものと考えられる.また、閉眼では全体的に標準偏差が大きいことから、片脚立ち保持時間の測定には利き足の個人差が影響すると考えられる.
著者
上薗 紗映
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.47, pp.K-9-K-9, 2020

<p> 「ブラック企業」「働き方改革」「やりがい搾取」といったような,働き方や,働く姿勢,人間らしい生活とはなにか,という話が大きく話題になっている。理学療法士は,半数が女性で,なおかつ40歳代未満で8割程度という非常に若い年齢層で構成されている。20歳代~40歳代は結婚出産子育てといったライフイベントも多く,働き方や,自分のキャリアについて多くの女性が悩む時期となっている。また40歳代以降は更年期障害等加齢に伴う自分の身体機能の衰えと,親の介護問題に直面するタイミングであるといえる。今までの日本であれば,これは女性特有の問題であったと思われるが,これからの時代は,男性にとっても取り組むべき課題であり,いかに組織の力を落とさずに,良い医療サービス・福祉サービスを国民に届けられるかは喫緊の課題である。今回の話題提供では,自分自身の経験を例示しながら,陥りやすいジレンマについて話題提供を行いたい。</p>
著者
合田 明生 佐々木 嘉光 本田 憲胤 大城 昌平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101989, 2013

【はじめに、目的】近年,運動が認知機能を改善,または低下を予防する効果が報告されている.運動による認知機能への効果を媒介する因子として,脳由来神経栄養因子(Brain-derived Neurotrophic Factor;BDNF)が注目されている.BDNF は神経細胞の分化,成熟,生存の維持を促進する.またBDNFは神経細胞内に貯蔵されており,中枢神経系の神経活動によって神経細胞から刺激依存性に分泌される.さらに血液-脳関門を双方向性に通過可能なため,中枢神経のみではなく末梢血液中にも存在している.運動時のBDNF反応を観察した先行研究から,中強度以上の有酸素運動によって末梢血液中のBDNFが増加することが示唆されている.一方で,これらの先行研究は欧米人を対象としたものが多く,日本人を対象とした研究は見つからなかった.そこで本研究では,日本人において中強度有酸素運動によって末梢血液中のBDNFが増加すると仮説を立て検証を行った.その結果から,運動による認知症予防のエビデンス構築の一助とすることを目的とする.【方法】健常成人男性40 名(年齢 24.1 ± 2.8 歳; 身長 170.6 ± 6.7cm; 体重 64.8 ± 9.4kg)を対象にした.本研究は,運動負荷試験と本実験からなり,48 時間以上の期間を空けて実施した.運動様式は,運動負荷試験・本実験ともに,自転車エルゴメータを用いた運動負荷(60 回転/分)とした.運動負荷試験では,最高酸素摂取量を測定した.本実験では,30 分間の中強度運動介入を行い,運動前後で採血を実施した.採血は医師によって実施された.採取した血液検体は,血清に分離した後,解析まで-20°で保管した.血液検体の解析は検査機関に委託し,酵素結合免疫吸着法検を用いてBDNF量の測定を行った.以上の結果から,中強度有酸素運動によって末梢血液中のBDNFが増加するのかを検討した.正規性の検定にはShapiro wilk検定を用いた.BDNFの運動前後の比較には,対応のあるt検定を用いた.危険率5%未満を有意水準とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究の実施にあたり,聖隷クリストファー大学倫理審査委員会及び近畿大学医学部倫理委員会の承認を得た.また対象者には研究の趣旨を口頭と文章で説明し,書面にて同意を得た.【結果】中強度の有酸素運動介入によって,40 人中22 名で運動前に比べて運動後に血清BDNFが増加した.しかし,運動前後のBDNF量に有意な差は認められなかった(p=.21).【考察】運動介入によって末梢血液中のBDNFが増加することは,欧米人を対象とした多くの先行研究で報告されている.健常成人における有酸素運動介入による末梢血液中のBDNFの急性反応を調査した文献は13 本確認され,運動後にBDNFが増加した研究は8 本であり,不変または減少した研究は5 本であった.本研究と同様に,運動後に有意なBDNF 増加が認められなかった先行研究では,急速な中枢神経系への輸送が生じたため,運動後の採血でBDNFの増加が見られなかったのであろうと考察している.本研究では,動脈カテーテルを用いたリアルタイムの採血ではなく,静脈に穿刺して採血を行っている.そのため,被験者により運動終了から採血までの時間が数分程度差異があり,この間の末梢血液中BDNFの脳内取り込みが結果に影響している可能性がある.さらに,本研究で運動によりBDNF増加が生じなかった要因の1 つとして,一塩基多型(Val66Met)によるものも考えられる.これはBDNF遺伝子の196 番目の塩基がGからAに変化した多型のことで,これによってBDNF前駆体であるproBDNFの66 番目のアミノ酸がValからMetに変化する.Met 型の一塩基多型を持つ個体では,Val型に比べ,BDNFの活動依存性分泌が障害されることが報告されている.また日本人における一塩基多型(Val66Met)の保有率は,50.3%〜53.0%と欧米人に比べて高い値が報告されおり,このBDNF分泌を阻害する一塩基多型(Val66Met)の保有により,本研究対象者の運動によるBDNFの調節性分泌が減少していた可能性が考えられる.以上より,健常日本人男性におけるBDNFを増加させることを目的とした30 分間の中強度有酸素運動は,対象者によって適応の有無を検討する必要があることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から日本人の特性を考慮した認知機能に対する運動介入が必要であることが示唆される.今後需要が拡大すると予測される認知症予防の分野ではあるが,BDNF増加を目的とした運動介入を行う際には,対象者の適応を検討することでより効率的な介入効果が期待できると考えられる.