著者
藤本 昌央 山本 悟 森岡 周
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20
被引用文献数
2

【目的】運動イメージ時の脳活動に関連した先行研究において,運動イメージが運動実行の際と共通の神経基盤を有することが明らかにされている。運動イメージの際に活動する主たる領域は,第二次体性感覚野,頭頂間溝,補足運動野,一次運動野,背側運動前野,小脳であると報告されている(Naito 2001)。なかでも,運動前野,補足運動野,小脳,頭頂間溝はあたかも自分自身が運動をしているようにイメージする一人称的運動イメージに関連する脳領域であることが判明している(Naito 2002)。近年,歩行イメージ中において前補足運動野の活動が増加することが報告された(Malouin 2003)が,高次運動領野は活性化しないといった報告(Jahn 2004)もあることから,その根拠は依然として不十分である。その理由の一つとして,歩行イメージは空間的にも時間的にも感覚情報処理の多さから明確なイメージを生成することが難しいことが考えられる。言語が上肢の運動生成に影響することは知られている(Gentilucci 2003)が,最近になって,メタファー言語が巧緻的な上肢運動の視覚運動感覚イメージに影響するといった仮説が述べられている(McGeoch 2007)。そこで本研究は,歩行イメージを鮮明化させるためにメタファー言語が有効であるかを脳イメージング装置によって明らかにすることを目的とする。<BR><BR>【方法】20代の健常成人12名が実験に参加した。なお,すべての参加者に本研究の主旨を説明し,参加の同意を得た。椅坐位の対象者に閉眼を求めた後,条件1では「歩いているイメージをしてください」,条件2では「踵が地面に着く感触を意識しながら歩いているイメージをしてください」,条件3では「踵が柔らかい砂浜に沈み込むのを意識しながら歩いているイメージをしてください」と言語教示を与えた。言語教示後に,安静5秒間-イメージ30秒間-安静5秒間の脳血流量を測定した。脳血流量の測定には(株)島津製作所製機能的近赤外分光装置(fNIRS,FOIRE-3000)を用い,酸素化ヘモグロビン(oxyHb)値を抽出した。光ファイバフォルダは前頭葉から頭頂葉,後頭葉にかけ覆った。統計処理にはKruskal-Wallis検定およびPost hoc testとしてScheffe検定を用いた。測定後,Fusion imagingソフト(島津製作所)を用いてMRI画像への重ね合わせを行い,脳マッピングを行った。<BR><BR>【結果】条件1および2に対して,条件3において左一次運動野,左運動前野領域のoxyHBが有意に増加した(p<0.05)。<BR><BR>【考察】条件3において一次運動野および運動前野領域の有意な血流量の増加は,先行研究から,メタファー言語の教示によって,運動イメージが鮮明化されたことが考えられる。歩行といった下肢の周期運動においてもメタファー言語の付与が運動イメージ生成に有効に作用することが示唆された。<BR>

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