著者
藤本 昌央 信迫 悟志 藤田 浩之 山本 悟 森岡 周
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.493-498, 2009 (Released:2009-09-24)
参考文献数
37
被引用文献数
3 1

〔目的〕近年,運動イメージの想起課題がリハビリテーションの治療として応用されはじめている。対象者の歩行機能の回復は理学療法の代表的な目標となるが,歩行運動イメージ時において,高次運動関連領域を活性化されるかは一様の見解を得ていない。本研究の目的は,歩行運動イメージを想起させる方法として,レトリック言語を用いることで高次運動関連領域が効果的に活性化するかを脳機能イメージング手法によって明らかにした。〔対象〕健常成人12名(男性:2名,女性:10名,平均年齢±標準偏差:24.1±5.6歳)とした。〔方法〕条件A「歩いているイメージをしてください」,条件B「踵が柔らかい砂浜に沈み込むのを意識しながら歩いているイメージをしてください」とそれぞれ言語教示を与え,歩行運動イメージ中の脳血流量(酸素化ヘモグロビン値)の変化を捉えた。〔結果〕条件Bにおいて左背側運動前野,両補足運動野,左一次運動野において脳血流量の有意な増加が認められた。〔結語〕歩行運動イメージの想起にはレトリックを用いた言語教示によって,運動関連領域が活性化されたことが分かった。
著者
藤本 昌央 山本 悟 森岡 周
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20
被引用文献数
2

【目的】運動イメージ時の脳活動に関連した先行研究において,運動イメージが運動実行の際と共通の神経基盤を有することが明らかにされている。運動イメージの際に活動する主たる領域は,第二次体性感覚野,頭頂間溝,補足運動野,一次運動野,背側運動前野,小脳であると報告されている(Naito 2001)。なかでも,運動前野,補足運動野,小脳,頭頂間溝はあたかも自分自身が運動をしているようにイメージする一人称的運動イメージに関連する脳領域であることが判明している(Naito 2002)。近年,歩行イメージ中において前補足運動野の活動が増加することが報告された(Malouin 2003)が,高次運動領野は活性化しないといった報告(Jahn 2004)もあることから,その根拠は依然として不十分である。その理由の一つとして,歩行イメージは空間的にも時間的にも感覚情報処理の多さから明確なイメージを生成することが難しいことが考えられる。言語が上肢の運動生成に影響することは知られている(Gentilucci 2003)が,最近になって,メタファー言語が巧緻的な上肢運動の視覚運動感覚イメージに影響するといった仮説が述べられている(McGeoch 2007)。そこで本研究は,歩行イメージを鮮明化させるためにメタファー言語が有効であるかを脳イメージング装置によって明らかにすることを目的とする。<BR><BR>【方法】20代の健常成人12名が実験に参加した。なお,すべての参加者に本研究の主旨を説明し,参加の同意を得た。椅坐位の対象者に閉眼を求めた後,条件1では「歩いているイメージをしてください」,条件2では「踵が地面に着く感触を意識しながら歩いているイメージをしてください」,条件3では「踵が柔らかい砂浜に沈み込むのを意識しながら歩いているイメージをしてください」と言語教示を与えた。言語教示後に,安静5秒間-イメージ30秒間-安静5秒間の脳血流量を測定した。脳血流量の測定には(株)島津製作所製機能的近赤外分光装置(fNIRS,FOIRE-3000)を用い,酸素化ヘモグロビン(oxyHb)値を抽出した。光ファイバフォルダは前頭葉から頭頂葉,後頭葉にかけ覆った。統計処理にはKruskal-Wallis検定およびPost hoc testとしてScheffe検定を用いた。測定後,Fusion imagingソフト(島津製作所)を用いてMRI画像への重ね合わせを行い,脳マッピングを行った。<BR><BR>【結果】条件1および2に対して,条件3において左一次運動野,左運動前野領域のoxyHBが有意に増加した(p<0.05)。<BR><BR>【考察】条件3において一次運動野および運動前野領域の有意な血流量の増加は,先行研究から,メタファー言語の教示によって,運動イメージが鮮明化されたことが考えられる。歩行といった下肢の周期運動においてもメタファー言語の付与が運動イメージ生成に有効に作用することが示唆された。<BR>
著者
藤田 浩之 藤本 昌央 佐藤 剛介 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3P1132, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】立位姿勢制御において体性感覚の影響は様々な研究で明らかにされてきたが、特に立位を保持する上で足底からの求心性感覚は重要な情報源である.先行研究において若齢成人(Morioka 2004)、脳卒中患者(Morioka 2003)を対象に足底部の知覚能力の向上が立位姿勢バランスを安定させることが報告されている.また、加齢に伴い足底部の二点識別覚が低下することも明らかにされている(森岡 2005).しかしながら、75歳の超高齢者においても足底部の知覚能力の向上が可能であること、そしてその能力の向上が立位姿勢バランスの安定化につながるかについては明らかにされていない.そこで今回は、老人保健施設に入所している後期高齢者を対象に無作為化比較試験を用いて、足底部知覚能力の向上が立位姿勢バランスを安定させるかを明らかにする.【方法】老人保健施設に入所し、意識障害、認知機能に問題がなく、静止立位が可能な75歳以上の後期高齢者17名が調査に参加した.すべての参加者に対して実験の説明後、参加の同意を得た.参加者をトレーニング群8名とコントロール群9名に振り分けた.トレーニング群に対しては足底部における硬度弁別課題を介入した.5段階の硬度の異なるスポンジマット(30×30cm)を用い、立位にて足底で硬度を弁別する課題を行った.5種類のスポンジマットをランダムに2回ずつ用いて計10回のランダム表を作成し、それに従い課題を10日間実施した.このエラー数を求めた.コントロール群は10秒間、一定の硬度のスポンジマット上に立位を保持する課題を10日間実施した.調査開始時と終了時において閉眼立位にて重心動揺測定(アニマ社G-6100)およびFunctional Reach Test(以下FRT)を実施した.重心動揺の項目値には総軌跡長を使用した.エラー数の変化の検定には反復測定一元配置分散分析を用いた.開始時と終了時の総軌跡長とFRT値の比較にはt-testを用いた.有意水準は5%未満とした.【結果】トレーニング群のエラー数は試行を重ねるごとに有意な減少を認めた(p<0.05). 開始前と終了時の総軌跡長およびFRT値は、トレーニング群において終了時の総軌跡長に有意な減少、FRT値において有意な増加が認められた(p<0.05).一方、コントロール群において有意差は認められなかった.【考察】今回の調査において後期高齢者においても足底部の知覚向上により静的な立位姿勢バランスの安定化ならびに随意的な重心移動距離の増大がみられ、本方法によるトレーニング効果が認められることが判明した.【まとめ】今回用いた足底部の知覚課題が、若齢成人や脳卒中患者だけでなく、後期高齢者に対しても有効かつ簡便な立位姿勢バランストレーニングとして用いることが可能であることを強く示唆している.