著者
トンリー マイケル
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.11-29, 2008

アメリカの刑事政策がなぜ,これほど厳しいのかということに関し,従来なされてきた解釈は,いずれも説得力に欠けている.犯罪率の上昇,犯罪に対する大衆の不安増大,選挙を第一に考える政界の利己主義は,どれもその答えとはなりえない.犯罪率に影響を及ぼす政府権限の制約,国民の多様化と「他者の犯罪学(排他的犯罪学)」,特権階層が犯罪被害者となる危険性の上昇,グローバリゼーションと急速な社会変化に伴う治安の悪化など,さまざまな「後期近代の状況」も同じく答えにはならない.これらは1975年から2000年までのほぼ全期にわたって,どの先進国にもみられた特徴であり,にもかかわらず,そうした国々の大半は,極端なまでに政策を峻厳化させることはなかった.「大衆迎合的な厳罰性」「Penal Populism」といったあいまいで過度に一般化された概念や,喧伝されているネオ・リベラリズムもやはり,答えではない.複数の国に共通してみられ,説得力を持つ事象も確かにある.刑事政策が穏健で,拘禁率が低い場合,そうした国では収入の格差が小さく,信頼関係と合法性が高度に保たれ,国家の福祉基盤も強固で,刑事司法は政治化されたシステムと裏腹に専門化されており,政治文化は対立的ではなく,合意の下に成り立っている.これら要素のどれを取っても,アメリカという国は評価の低い方に位置づけられるのだが,問題はその理由である.答えは,国家の歴史・文化という明確な特徴の中に求めるべきであろう.4つの際立った特徴が挙げられる.すなわち,アメリカ政治の「偏執狂的特徴」,原理主義者の宗教観と結びついた二元論者的道徳主義アメリカ憲法の無用の長物化と,あからさま庶民感情が政策を動かしうる政治文化,そして,アメリカにおける人種関係の歴史である.

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