著者
Akahane Ritsu
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度学仏教学研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.1121-1125, 2008-03

ジュニャーナガルバ(Jnanagarbha)は『二諦分別論』(Satyadvayavibhanga-vrtti)において二諦説を説くが,その中で,自らの二諦説の教証として『聖無尽意経』(Arya-Aksayamatinirdesasutra)の二諦説に言及した一節を引用し,さらにその内容に注釈を行っている.本稿では,この注釈部分の大半がジュニャーナガルバ自身の独自の理解ではなく,『聖無尽意経注』(Arya-Aksayamatinirdesasutra-tika)の注釈内容に依拠していることを示した.その一方で,その『聖無尽意経注』に依拠していない注釈部分に関しては,チャンドラキールティ(Candrakirti)を意識して書かれており,そこにジュニャーナガルバ自身の独自の思想が示されている可能性に言及した.具体的には,『空七十論注』(Sunyatasaptati-vrtti)においてチャンドラキールティが同経典を引用し,それに対してなされた注釈内容を訂正している可能性が存在するということである.つまり,「世間の慣習」(lokavyavahara)に関して,チャンドラキールティが「認識活動」と「言語表現」の両者をその特徴として理解しているのに対し,ジュニャーナガルバはそれを基本的には「認識活動」と理解し,少なくとも表現する主体である「言葉に関する特徴」を排除しているという点を明らかにした.

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