- 著者
-
岩田 祐子
- 出版者
- 国際基督教大学
- 雑誌
- 国際基督教大学学報. I-A, 教育研究 (ISSN:04523318)
- 巻号頁・発行日
- vol.44, pp.237-241, 2002-03
本論文の目的は二言語(英語と日本語)の使用がバイリンガル家族の子供に対する社会化にどのような影響を与えるかを研究するものである.すなわち二言語による社会化における言語の役割を考察することである.東京に住むバイリンガル家族(日本語が話せないイギリス人の父親・日本語と英語が話せるバイリンガルの日本人の母親・同じくバイリンガルの5才の娘と3才の息子)の日曜日の夕食時の会話6回分をビデオとカセットに録画(録音)し,分析したところ,二種類の社会化が見られた.一つははっきりとした目的を持って親が教えている場合の社会化(non-embedded socialization)で,もう一つは,両親があまり自覚することなく子供に伝わっている社会化(embedded socialization)である.データ分析が示すことは,第一にいわゆる「一人の親が一言語を子供に使用する方策('one parent-one language'policy)」をほとんどの場合にこの家族は実行していることである.ただし,会話の流れを重視し,この方策を実行しない場合もある.第二に,バイリンガリズムはバイリンガルである母親だけでなく,バイリンガリズムの重要性を認識したモノリンガルな父親によっても推進されている.バイリンガリズムはこの家にとって第一言語と言ってもよいのである.「一人の親が一言語を子供に使用する方策('one parent-one language'policy)」を厳しく守ると二つの危険性が生じる.モノリンガルで日本語を話さない父親を疎外してしまう危険性と会話のスムーズな流れを阻害してしまうことである.この危険性は,モノリンガルではあっても家族の二言語使用をこころよく許しているモノリンガルの父親によって一部回避されている.残りの一部は,「一人の親が一言語を使用する」という原則よりも実際の会話の流れを重視して,子供たちとも必要に応じて英語を話す母親の努力によって回避されている.第三に,夕食時に二言語を使いながら家族みんなで食事をし,共に会話を構築していく作業の中で,バイリンガル家族としてのアイデンティティを形成している.第四に夕食の主目的は,家族としてのまとまりを持つことであり,家族全体としてのコミュニケーションの方が子供たちに二言語を習得させることよりも重要視されている.この意味では,バイリンガル家族の社会化もモノリンガル家族の社会化と変わることはないと言える.違うのは,二言語を使用しているということだけである.この研究はケーススタディであるので,二言語による社会化を詳しく分析するためには継続研究が必要である.別の家族における二言語の社会化を見ていく必要があるだろう.