著者
伊藤 哲 中村 太士
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.31-40, 1995-03-15
被引用文献数
17

森林動態における地表変動攪乱の位置づけを明確にし,森林動態研究の一つの方向性を示すことを目的として,地表変動攪乱の様式と更新過程の特徴を整理した。一般に地表変動と呼ばれる現象は,上部から下部への一連の物質流下現象であって,少なくとも洗掘(または削剥)と堆積という二つの要素からなるヘテロな空間を構成する。したがって,地表変動を林分レベルでの森林動態や植生パターン成立,種多様性などの説明原理として位置づける場合,内部にこのようなヘテロ性を包含する一連の流下現象を一つの単位として扱うには無理があり,洗掘(または削剥)・体積域の区分が地表変動の最も基本的な空間単位として重要であると考えられる。また,地表変動由来の攪乱は森林の階層構造の下層から上層へとその影響が広がるため,林冠の破壊を伴わない場合でも,林床の構造や更新基盤に大きな影響を与えうる。攪乱の性質と影響評価方法を1)物理破壊強度,2)生育・再生環境への影響度,および3)攪乱後の次期攪乱体制への影響度という視点から分類することで,他のタイプの攪乱との比較や森林動態における総合的位置づけが可能である。一つの森林内で,これらの影響度がそれぞれに異なる地表変動が発生することによって,攪乱を受けたパッチは異なる再生過程を経る。このことは,森林群集の種多様性や群集タイプの多様性をはじめとする構造的な不均質性を高める一つの原因となっていると考えられる。したがって,サイズ,強度や生育環境への影響度に関し幅広いレンジをもつ地表変動は,森林群集の多様性に大きく貢献していると考えられる。今後,地表変動攪乱を森林群集の長期的な動態や安定性の要因として位置づけるためには,個々の攪乱の影響評価とともに,攪乱によって形成される林縁の効果や地表変動の発生の時間的・空間的集中性の評価,解析が必要である。

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