著者
竹井 謙之
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.487-491, 2007-09

最近わが国でも肥満が著明に増加しつつありますが,肥満に高い率で合併する疾患の一つに脂肪肝があります.脂肪肝は従来,進行しない良性の肝疾患と考えられていました.しかし,今や脂肪肝は生活習慣病の一つであると共に,メタボリックシンドロームや動脈硬化の発症・進展と直接関わりを持つことが明らかになりつつあります.肝臓は食事由来のブドウ糖を取り込んで肝細胞内に蓄え,空腹時など,諸臓器の需要に応じてブドウ糖を血液中に放出します.一方,膵臓から分泌されたインスリンは肝臓に作用して,ブドウ糖の取り込みを促進し,食後の過血糖を抑刺します.脂肪肝になると,肝臓におけるインスリン作用の減弱-インスリン抵抗性-が現れ,血糖制御の変調を招きます.また,インスリン抵抗性があると,これに打ち勝ってインスリンの作用を確保しようとして,血液中のインスリン濃度が上昇するため,インスリンの負の作用である脂肪合成亢進作用,血圧上昇作用,動脈硬化促進作用が前面に出ます.肥満・脂肪肝と高血圧や糖尿病,高脂血症はインスリン抵抗性を基盤としてそれぞれを増悪させていくわけです.アルコールを飲まない人にも脂肪性肝炎が発症することがあり,非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と呼ばれます.脂肪肝がまず存在して,そこに様々なストレスや障害因子が加わり,炎症の出現NASH発症に至ると考えられています.NASHは炎症を伴わない脂肪肝よりもさらにインスリン抵抗性が顕著であり,病態形成やメタボリックシンドロームの惹起に重要な役割を果たしています.また,NASHは炎症の持続から,肝臓の線維化を来して肝硬変,さらには肝がんまで進展しうる疾患です.メタボリックシンドロームの基盤病態として,また進行する肝臓病として,NASHを捉え,適切な対応をしていく必要があります.

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