著者
菊池 利彦 宮崎 清
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.91-100, 2009-11-30

「死」はかつて、人びとの身近に存在した。死者がでると、人びとは自ら埋葬を行い、死者の鎮魂をし、死者に由来する魔や穢れの処理を行った。葬送儀礼は、穢れが漂う空間を平穏な日常空間に復旧するための空間意匠を内包するものであったといえる。本稿では、千葉県成田市台方における葬送儀礼に注目し、儀礼に内包される空間意匠を抽出するとともに、その特質について考察を行った。これにより以下の知見を得た。(1)出棺から埋葬までにみられる-連の所作は、葬家から埋葬地に至る空間に幾重にも分節点を築き、それにより此の世と彼の世を峻別するものである。(2)葬送儀礼には、日常において忌避される「逆さ」にする所作が散見される。これらの所作には、死を日常と対置することにより、日常の時間・空間へ穢れが流入するのを防ぐ意図が内包されている。(3)葬式翌日以降の多様な供養の儀礼は、一様に過ぎていく時間の流れに分節点を築き、穢れが希薄化していく過程、荒々しい死者が祖霊へと変化する過程を、人びとが実感するための作法であるといえる。

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