著者
菊池 利彦 藤井 素晴
出版者
日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
vol.58, pp.184-184, 2011

近年、地域に根ざした演劇活動が日本各地で広がりつつある。このことから演劇という営みが、今日の地域社会に対して少なからぬ役割を果たすであろうことがうかがわれる。そもそも演劇とはそこで発せられる言葉とそこでつむがれる文脈を、演者と観衆がともに想像/創造する営みであり、また時間と空間をともにした人びとが、同一の表象を共有したときにはじめて可能となる社会性を帯びた営みである。戦後日本の歩みとは地域コミュニティが空洞化する歴史であった。こうした状況を反省するとき、すぐれて社会性を内包する演劇という営為が示唆することは少なくないはずである。本研究は、千葉県いすみ市で活動する演劇集団に注目し観察調査を実施することで、演劇が今日の地域社会に果たす役割を具体的に把握し、また、その特質を導出することを目的とする。本研究で得られた結論は以下のように要約される。演劇とは、「コンテクストの共有」を通して、そこに参加する人びとの関係性を強化するものである。そして、演劇が地域において展開される場合、それは共同体を再構築する可能性を有している。それゆえに地域に根ざした演劇は、大きな社会的・今日的価値を持ったものといえる。
著者
菊池 利彦 宮崎 清
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.91-100, 2009-11-30

「死」はかつて、人びとの身近に存在した。死者がでると、人びとは自ら埋葬を行い、死者の鎮魂をし、死者に由来する魔や穢れの処理を行った。葬送儀礼は、穢れが漂う空間を平穏な日常空間に復旧するための空間意匠を内包するものであったといえる。本稿では、千葉県成田市台方における葬送儀礼に注目し、儀礼に内包される空間意匠を抽出するとともに、その特質について考察を行った。これにより以下の知見を得た。(1)出棺から埋葬までにみられる-連の所作は、葬家から埋葬地に至る空間に幾重にも分節点を築き、それにより此の世と彼の世を峻別するものである。(2)葬送儀礼には、日常において忌避される「逆さ」にする所作が散見される。これらの所作には、死を日常と対置することにより、日常の時間・空間へ穢れが流入するのを防ぐ意図が内包されている。(3)葬式翌日以降の多様な供養の儀礼は、一様に過ぎていく時間の流れに分節点を築き、穢れが希薄化していく過程、荒々しい死者が祖霊へと変化する過程を、人びとが実感するための作法であるといえる。