著者
浦田 隆広
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.43-60, 2000

<p>品質原価計算に関する研究の多くは,当該技法の技術的側面に焦点をあてたものであり,同技法のもつ社会的・経済的機能について包括的な検討を試みた研究は少ない.そこで本稿では,品質原価計算は歴史的所産であり,その存在は社会的・経済的要因に規定されるとの観点から,既存の研究成果を踏まえた上で,実在する企業における品質原価計算の実践過程を取り上げ,それを要請する社会経済的背景とともに,当該技法の構造と機能について分析を行った.</p><p>Xerox社の品質原価計算は,アメリカ複写機市場をめぐる資本間競争を背景として構築された管理会計技法である.同社は,1960年代,電子複写原理・技術の商品化を契機に,経済的成長の基盤を確立し,アメリカ複写機市場における独占的地位を獲得した.しかし,1970年代以降,反トラスト法の適用による特許技術の公開や高品質・低価格戦略を経営戦略の支柱とする競争企業の参入によって,Xerox社の独占的支配力は低下した.同社の経営層は,品質向上と原価低減の同時的達成を企図した経営戦略への転換を余儀なくされ,それは品質原価計算の導入というかたちで具現化されるに至ったのである.</p><p>同社の品質コストは,ASQCの推奨するPAF接近法に依拠しながらも,それに拘束されることなく,同社の戦略的基盤となるTQMを反映して定義された.同社の機会喪失コストにそれがあらわれており,外部失敗コストから敢えて分離・独立させ,その測定と管理を試みていた.また,品質コスト管理の技術的主流は,実際品質コストの期間比較にあったが,同社の場合,予算を適用し,実際との比較を可能にすることで,差異分析を試みており,さらにはその成果を全社組織的に浸透させるべく,非製造部門へ展開されている.</p><p>品質原価計算の基底には,競争戦略としての品質の重要性が存在している.当該技法は,経営管理の用具として,労働者および下請企業の管理強化に寄与することによって,品質向上と原価低減の同時的達成に貢献したのである.</p>

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アメリカ複写機巨大企業における品質原価計算の展開 https://t.co/F04L9sjdIE

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