著者
吉見 明希
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.23-36, 2023-03-28 (Released:2023-03-28)
参考文献数
16

本稿では,日本のコンテンツ産業のうち,商業アニメーションの制作・流通に着目する.日本のアニメーション・ビジネスにおいては,資金調達の段階において「製作委員会方式」が用いられる.本稿では,その企画段階の予算シミュレーションを通した原価管理の特徴を,既存の管理会計手法との比較により明らかにする.先行文献の整理をふまえ,筆者が行ったインタビュー調査に基づき,製作委員会方式がコンテンツの2~次流通まで含めたマネジメントを可能としていることと,制作会社に対する組織間関係の構築に寄与していることを示す.
著者
新井 康平 加登 豊 坂口 順也 田中 政旭
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.49-69, 2010-01-10 (Released:2019-03-31)

本論文の目的は,工場や事業所の製品原価計算について,その実態を明らかにすることである.管理会計教育における製品原価計算の割合は依然として大きいにもかかわらず,近年,この領域が研究者によって研究されることは少なくなってしまった.そこで本論文は,規範的な議論ではなく,実証的かつ経験的な方法によって製品原価計算の利用目的と設計原理を探求する.探索的因子分析の結果,製品原価計算の5つの利用目的が明らかとなった.また,これらの利用目的と技術変数などが,製品原価の範囲,総合/個別原価計算の選択,原価情報の報告相手,といった設計要素に影響を与えることが明らかとなった.
著者
窪田 祐一 劉 美玲 三矢 裕
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.3-20, 2022-03-30 (Released:2022-03-30)
参考文献数
35

本稿の目的は,両利き経営の成果に影響を及ぼす要因を解明することにある.具体的には,イノベーション戦略とマネジメント・コントロール・パッケージ(MCP)の2つの要因に注目する.両利き経営では,知の活用と探索を同時に行う両利き戦略を実現させる適切なMCPパターンの適用が不可欠であろう.本研究では,Simonsの提示するレバーズ・オブ・コントロール(LOC)を適用し,両利き戦略とMCPパターンが両利き経営の成果に与える影響を分析した.分析の結果,両利き経営の成果を効果的に得るには,すべてのLOCを重視するMCPパターンの利用が必要であることが示された.
著者
柊 紫乃 上總 康行
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.123-140, 2022-03-30 (Released:2022-03-30)
参考文献数
41

現場改善の目的のひとつは,現場改善活動による工程,工場単位での生産性向上である.従前の各原価計算手法は優れた計算構造や特徴を有するものの,改善効果を網羅的に金額測定できない.そのような課題を解決するために複数の先行研究が試みられ,その一つとして現場改善会計論(GKC)が提唱されてきた.GKCでは,「機会損失」の概念を取り入れ,改善活動を評価する計算式が提示された.本研究では,従来研究をより発展させ,改善効果としての「生産能力増大」を定義し,改善効果を計算できる概念式を提示する.さらに,生産能力増大の活用方法に注目して,改善効果の測定について計算事例を示す.その上で,改善効果が会計的にどのように現れるかについて類型化する.
著者
横田 絵理
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1-2, pp.51-68, 2000-03-31 (Released:2019-03-31)

本論文の目的は,日本企業における成果主義への報酬システムへの変化と業績測定・評価尺度の変更が,そのマネジメント・コントロールに対し,どのような意味を持つかについて考察することにある.成果主義への動きは,一見,日本企業のマネジメント・コントロールがあたかも米国テキストに示されている仕組みへの変化を意味しているように見える.しかし,米国マネジメント・コントロールのプロセスの本質は,株主利益最大化を実現させるためのしくみであるのに対して,日本企業のマネジメント・コントロールは,変更後も,株主利益最大化を徹底させるためのものとは必ずしもいえない.むしろ,社員全体の意識変革のための施策としてなされている.また,マネジメント・コントロール・プロセスのうち,業績測定・評価尺度の変更を報酬制度の変更と同時に行なうことで,業績測定・評価尺度の変更も,マネジャーの意思決定情報の変更というよりもむしろ,企業としてマネジャーに求めている行動が変化していること,そして,企業全体がマネジャーに期待している成果も変化していることを明確に表わすことになる.事例に取り上げた3企業ではいずれも報酬システムを変更したとほぼ同時に,業績測定尺度の変更を行なっていた.事例企業では,直面している不況やビジネスモデルの変更という事情から,成果主義にもとついた報酬システムをとりいれた.同時に,さまざまな理由から業績測定評価尺度が導入された.マネジメント・コントロールの2分割構造をなしていた2つのシステムをリンクさせたことによって,日本企業はマネジャーや社員に対する企業としての期待行動が大きく変わっていることを示し,意識変革を促したのであった.
著者
濵村 純平
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.23-34, 2021-03-31 (Released:2021-03-30)
参考文献数
34
被引用文献数
1

エビデンス・ベーストな管理会計研究は変数間の関係を議論する.変数間の関係を議論するとき,特に実証研究では変数間の関係を事前に予測した上で仮説が構築される.本稿では,この変数間の関係を予測するのに理論研究が有効であることを議論する.本稿では特に理論研究の中でも,産業組織論で利用される製品市場での競争を仮定したモデルを中心に,理論研究とエビデンス・ベーストな管理会計研究との関係を議論する.理論研究とエビデンス・ベーストな研究との関係で重要なのは,理論・実証・ケース研究のそれぞれに役割があり,お互いに利用しあって管理会計研究を蓄積する必要があることだと考えられる.
著者
渡辺 岳夫
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.35-55, 2019-03-31 (Released:2019-05-15)
参考文献数
54

アメーバ経営システムを導入する企業が近年増加している.しかし,それらの導入企業の中には,短期的にその運用を中止ししてしまう企業も少なくない.その中止の原因を解明するためには,アメーバ経営システムを継続的に運用している企業と比較的短期で中止してしまった企業において,部門別採算制度の諸側面がアメーバのパフォーマンスに及ぼす影響メカニズムに相違があるかどうかを明らかにすることは非常に重要である.本研究において多母集団同時分析を実施した結果,その影響メカニズムは継続企業と中止企業の間で概ね同様であることが分かった.比較的短期間でアメーバ経営システムを中止してしまうぐらい運用中に問題が生じていた状況でも,当該システムは一定の効果をもたらしていたのである.以上のファインディングスにより,その中止原因は,得られた効果を上回る負担感や不満の存在,あるいは効果の絶対量を抑制する何らかの要因の存在である可能性が高いことが示唆された.
著者
大越 教雄
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : 日本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.23-35, 2012-01-15

本稿では,「企業は株主のためではなく経営者の自己保身のために買収防衛策を導入する」という通説が,日本企業にも当てはまるのかを実証分析した.企業が買収防衛策を導入する決定要因(企業側の分析)と,その導入に対する株式市場の評価(株式市場側の分析)という二つの側面から実証研究を行った.その結果,二つの側面からも経営者保身が支持されなかった.さらに,企業側の分析では,IR活動に積極的な企業ほど導入している事実を指摘した.また,株式市場の側の分析からも株式市場が買収防衛策の導入に対して,経営者の保身とネガティブに捉えていない事実を指摘した.これらは,海外の先行研究結果にはない日本の特徴である.
著者
田口 聡志
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.33-48, 2013-03-31 (Released:2019-03-31)

本稿では,管理会計における実験研究の方法論妁な意義を整理すると共に,管理会計研究をより豊かにしていくために実験が担っていくべき役割について検討を行う.実験研究は,(1)dataのハンドリングが容易,(2)事前検証が可能(意図せざる帰結の発見が可能),(3)内的妥当性が高いという優位性を持つ.また,実験研究には,2つのタイプがある(複数人間の意思決定を取り扱いメカニズムの検証が得意な経済実験と,個人単体の意思決定を取り扱いヒトの心理バイアスの検証が得意な心理実験).管理会計では,主にマネジメント・コントロールの領域で実験が用いられ,また,特に心理実験のウェイトが高い.今後は,心理実験と経済実験との融合を図り,また,他の研究手法と良好なコラボレーションを図っていくことが望まれる.
著者
新井 康平 大浦 啓輔 岡崎 路易 三矢 裕
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.3-20, 2011

<p>本論文の目的は,経理シェアードサービスセンターの導入成果について,質問票および公開財務諸表から得られたデータをもとに経験的に検証することである.グループ企業内に分散するスタッフ業務を集約するシェアードサービスは,規模の経済による間接費の削減や,業務標準化による業務品質の向上に寄与するといわれてきた.そこで,本論文では,イベントスタディを実施することで,これら導入成果についての実証的な知見を提供する.結果として,先行研究で提唱されてきたようなコスト削減と業務品質の向上という導入成果がみられることが明らかとなった.ただし,シェアードサービスセンターに集約される業務内容によって,その導入成果の程度が異なることも明らかとなった.</p>
著者
フィッツジェラルド リン ムーン フィリップ
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : 日本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.7-27, 1997-03-24

企業は,財務的な業績指標だけでは表すことのできない広範な領域で競争しているのだという認識は,ますます広まりつつある.この論文は,こんにちの顧客オリエンテッドな競争戦略の中で,品質,サービス,フレキシビリティーといった要因をとらえるための非財務的な指標を開発しようとするものである.サービス業ではこの試みはさらに難しい.サービスは消えてしまう(保存ができない)ので,製造業のように需要の変動に備えて在庫管理のポリシーを用いるというわけにはいかないからである.その上,サービス提供の場では,比較的若い従業員が顧客と接触することが多く,サービスの質を一定に保つことがむずかしい.この論文は,業績のいい2つの英国企業,つまり職能的専門家としてのサービスを提供するアーサー・アンダーセン社,および,マス・サービスを提供するTNT社をとりあげ,この2社が採用しているアプローチを検討することによって,サービスが業績評価システムに与える影響を考察する.両社の業績評価システムには3つの共通点と2つの相違点がある.3つの共通点とは,Clarity(明瞭さ),つまり組織に属する一人一人に戦略がはっきりと伝えられること,Consistency(首尾一貫性),つまり採用されている業績評価システムが全社戦略にそっていること,およびRange(評価の範囲),つまり業績評価は財務指標だけでなく,非財務的な指標でもなされるというように範囲を明示していることである.一方,2つの会社の相違点は,サービスの質を測るために用いられるメカニズムと,サービスにフレキシビリティーをもたせるためのアプローチの仕方,および業績評価の仕方という諸点についてである.
著者
加藤 豊
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : 日本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.35-45, 2004-11-20

本論文は,1990年代から顕在化し始めた日本企業の停滞と業績低迷現象を,外部要因ではなく,企業の経営管理上の問題に起因することを指摘するとともに,問題構造の解明にあたって,管理会計の視点からの分析が必要であることを主張している.具体的には,カンパニー制と成果主義報酬システムの運用失敗に関して,分析を行っている.加えて,管理会計の研究成果を活用した,業績向上に向けての取り組みが重要であることを記述している.
著者
徐 賢珍
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : 日本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.87-102, 2000-03-31

近年韓国でも多品種化・少量化・多頻度化物流の増大,情報技術の急速な発達による物流情報化の進展,金融危機によるIMF救済金融など物流や国内外経済の環境が急変する中で物流費は急増し,企業経営を圧迫する主な要因の一つになっている.90年代に入って物流費は持続的に増加し,1997年度の売上高対物流費率は12.9%に達している.これから物流費低減の必要性ないし物流費管理の重要性は一層高くなり,そのため物流費の算定だけではなく物流費の活用に対する管理システム構築が不可欠である.本研究では,物流費低減のため必要とされる物流費管理システム構築に関する研究の一環として韓国企業における物流費管理の実態調査結果を分析することである.そのため,文献による物流費管理に関する先行研究,主要業種を対象に実態調査による物流費管理技法の実態と新しい原価管理及び経営管理技法の適用について調査を行った.研究結果.韓国企業の大部分は物流費管理システム構築の必要性を認識しており,そのため原価計算と予算管理を相対的に多く実施している.他方,物流費低減の効果を把握するための採算分析,さらに新しい原価管理及び経営管理技法の活用度が低い.しかし,物流費情報の活用度は以前より高くなっている.次に,新しい原価管理及び経営管理技法の導入は積極的に行われていない.新原価管理技法として活動基準原価計算/管理と品質原価計算,新経営管理技法としてリエンジニアリング,リストラ,ベンチマーキングなどは部分的にしか導入されておらず,またそれらの新技法の有用性を認知しているのは一部の企業に過ぎない.一方,代表的な在庫管理技法の一つとして従来から知られているJITの活用度及び有用性は他の新管理技法より高い.
著者
安酸 建二 緒方 勇
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : 日本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.3-21, 2012-01-15

本稿の目的は,利益目標の達成圧力にさらされている企業において,自由裁量的支出費用の代表である研究開発費(以下,R&D費用)の削減を通じて「期中に」利益調整が行われているのかどうかを検証することにある.利益目標として注目するのは,経営者による利益予測値である.分析の結果,利益目標を達成できそうもない状況におけるR&D費用の削減を通じた利益調整が,売上高に占めるR&D費用予算の割合が大きい場合(本研究では5%以上)に見られることを発見した.これらの発見は,R&D費用の期中における削減を通じた利益調整の存在を示す証拠となる.
著者
三田 洋幸
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : 日本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.47-68, 1997-03-16

相当な投資を伴うことの多い企業買収の妥当性を判断する上で,買収投資の経済性を評価することは著しく重要である.そのために,さまざまな財務手法が開発されてはいるが,実務に十分活用されているとはいえず,あくまでも判断材料のひとつにとどまり,定性要因をより重視した恣意的な判断に依存しているのが実情である.これらの財務手法の利用を妨げているのは,いずれも買収評価の条件を単純化しすぎるために,現実の買収条件を的確に反映できないためである.さらに,その理論的な限界を曖昧にして利用されることも多く,実際の買収交渉における争点と買収評価との関連性をわかりにくくしているのである.企業買収の形態を契約成立後の組織形態によって合併と買収の二つに大別すると,わが国の案件は,ほとんどの場合は契約成立後も被買収企業を存続させる買収の形態をとっている.ところが一般に,買収評価の手法として,理論的に最も合理性が高いといわれるDCF法による計算プロセスを考察してみると,実は被買収企業の資本構成を一定とする状況を前提とした評価方法であることがわかる.被買収企業を存続させる場合にそのような前提を設けることは現実のビジネススにおいては適切でないことも多く,同様の計算プロセスを適用すると誤った経済性評価に基づいた意思決定が行わることも少なくない.そこで,本研究では,買収成立後に被買収企業を存続させる場合を考慮した買収価値の評価方法を検討する.まず,第1節において合併・買収の実施プロセスと買収価値の評価方法の大要を整理し,後節におけるモデル構築のフレームワークとする.第2節では,DCF法による買収評価方法を整理し,被買収企業が保有する余剰資金運用合計の時間的価値が逓減することによる問題点を考察する.第3節では,買収取引におけるキャッシュフローと資金プールに着目し,買収評価を評価するための財務モデルを構築するとともに,数値例を展開して実務的にも容易に適用できることを示唆する.本方法論は,以下の特徴を有することで,買収評価の有用性を高めようとするものである.第一に,被買収企業を存続させる期間を考慮して,買収企業にとっての買収投資の経済性を理論的に正しく評価するための計算手法を構築する.第二に,配当政策等の利益回収の方法によって買収価値がどのように変化するかを評価する.第三に,計画財務諸表(P/L,B/S,C/F)のシミュレーションをベースにして買収価値を算定するため,経営者にとって理解しやすい評価内容を提供する.
著者
谷守 正行
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.91-108, 2021-03-31 (Released:2021-03-30)
参考文献数
32

市場では「所有から利用へ」を実現するサブスクリプション・ビジネスが盛んである.サブスクリプション・モデルは,契約後に顧客が継続的にサービスを利用することで価値が高まる仕組みである.他方で,低収益環境が続く国内の銀行では銀行口座に継続的な手数料を賦課することが検討されている.最初に,これまでの管理会計の価格設定と比較しながらサブスクリプション・モデルによる価格設定を研究する.次に,サブスクリプション・モデルの価格設定を銀行のアカウントフィーに適用することによる銀行の収益性への影響をシミュレーションにより検討する.その結果,サブスクリプション・モデルを銀行アカウントフィーに適用することにより,共創価値を想定した価格設定が可能になり,企業収益性と顧客価値の両方を向上できることが分かった.
著者
岩澤 佳太 桝谷 奎太 吉田 栄介
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.37-53, 2022-03-30 (Released:2022-03-30)
参考文献数
36

本研究の目的は,近年の日本の製造業におけるコストマネジメントの変容について,コンティンジェンシー要因との関係およびコストマネジメント活動と効果の関係に着目して解明することである.とりわけ原価企画に注目した上で,2009年,2014年,2019年と郵送質問票調査を実施した.多母集団同時分析の結果,原価企画活動,効果・逆機能の平均値および原価企画活動と効果の関係性は,概ね一貫していたのに対し,原価企画活動と逆機能の関係性および組織コンテクストと原価企画活動の関係性については,調査時点間で統計的に有意な差を確認した.このことは,日本企業の原価企画について,従来の活動の一貫した有用性を示す一方で,経営環境やビジネスモデルの変化に対応する新たな仕組みの必要性を示唆していた.
著者
乙政 佐告 近藤 隆史
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.43-60, 2015-03-10 (Released:2019-03-31)

先行研究では,顧客満足と財務成果との関係は必ずしも明らかになっていない.本稿は,実務において,顧客満足度と財務成果との関係がどのように捉えられているのか,かつ,顧客満足の向上および財務成果の獲得がどのようにマネジメントされているのかについて,顧客満足経営に組織的に取り組んでいる株式会社星野リゾートの事例を通じて考察した.考察の結果として,同社では,顧客満足を向上すれば利益の増加につながることを基本認識としながらも,現時点において,顧客満足度と財務成果との因果関係のメカニズムを必ずしも十分に把握できていない.しかしながら,顧客満足度と財務成果との因果関係が不明確な状況にあっても,マネジメント・コントロール・パッケージの下で,顧客満足向上および利益増加の同時達成に向けてまい進していることを明らかにした.
著者
伊藤 克容
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.31-46, 2018-03-31 (Released:2018-09-29)
参考文献数
24

生産と販売はともに企業活動にとって重要な領域である.歴史的に2つの領域を比較すると,管理会計の発達は,生産職能で顕著である.販売職能における管理会計(以下,マーケティング管理会計)の発展が遅れたのは,販売プロセスに関する情報が得られなかったためである.近年の環境の変化にともなって,マーケティング実務が大きな変貌を遂げている.従来のマーケティング管理会計では,予算管理や販売セグメント別の収益性分析によって,プロセスのインプットとアウトプットをコントロールすることによって,販売プロセス全体を間接的に管理するしかなかった.最近の大きな変化は,顧客動向を直接追跡できるようになったことである.本稿では,マーケティング管理会計はいかに変貌し,新たにどのような課題に直面しているかについて検討する.
著者
安酸 建二
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.19-39, 2008-02-15 (Released:2019-03-31)

企業の価値創造を明示的な企業目標とする考え方が,広く普及しつつある.これに伴い,企業価値の創造を導く経営活動・経営努力に対して測定可能な目標を与えると同時に,価値創造のプロセスをモニターし,評価するための期間業績指標の開発に大きな関心が向けられている.特に,注目されている期間業績指標は,資本コストを控除した後の経済的利益である.経済的利益の有用性は,しばしば企業価値の理論モデルであるフリー・キャッシュフロー割引モデルとの整合性から説明されるが,経済的利益そのものが何を測定し,どのような情報を生み出しているのかについては十分に明らかにされていない.そこで,本稿では,経済的利益によって生み出される情報を明確にし,経営管理上の経済的利益の有用性を明らかにする.