著者
立見 淳哉
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.369-393, 2007

イノベーティブ・ミリュー論と「生産の世界」論という代表的な2つの集積理論が,どのような点で共通し,どのような点で異なっているのか,コンヴァンシオン経済学(EC)を中心とする制度経済学の潮流との関連で考察した.これらの集積理論はいずれも,より現実的な人間像に近いといえる手続合理性の仮定を前提し,不確実性をはじめとする「純粋な市場論理」の不完全性を乗り越えるような効果を有している.これらの効果は,アクターの認知プロセスと深くかかわるものである.「生産の世界」論では,近年の認知科学の発展が取り入れられており,経済調整に果たす物質的事物の役割が考慮されている.2つの集積理論のこうした基本的な共通性にもかかわらず,当然ながら異なる点も存在する.集団学習にかかわるような産業集積の動態分析にとっては,「生産の世界」論のほうがより周到な構成をとっている.可能世界,テスト,事物の導入,等々といった概念の導入によって,評価モデルと呼びうるような慣行(コンヴアンシオン)のもとで,製品品質を含む慣行的規則の生成・変容が論じられている.とはいえ,評価モデルの変容や,集団学習過程における空間的近接性の役割は自明ではない.今後,近年の認知科学やECの展開をふまえて,空間的近接性と集団学習の論理を理論的・実証的に明らかにしていくことが求められる.

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