著者
梶田 真
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-18, 2008-03-30
被引用文献数
2

わが国において,公共事業が重要な地域間所得再分配機能を果たしている理由の一つは,地場・中小業者に対する様々な保護制度の存在にある.本稿では,国が発注する公共事業において,これらの保護制度を規定している官公需確保法の強化との関係から,制度運用変化の実態について分析を行った.さらに,官公需確保法の強化が地場の土木業者に与えた影響についても考察した.事例研究として取り上げたのは,中国地方建設局および島根県内の土木業者である.中国地方建設局では,官公需確保法の強化による分離・分割発注の増加や分任官契約限度額の引き上げによって,発注の主体が本局から地方事務所にシフトしていった.発注できる金額に上限がある地方事務所の入札では,主として指名競争入札が用いられ,原則的に各地方事務所の管轄域内の業者のみが指名されたため,地場業者の受注機会は拡大した.しかし,指名業者間での受注調整により,受注機会は管轄域内の大手業者を中心にバランスを取って配分された.それゆえに,官公需確保法の強化は,有力な業者の育成に寄与したのではなく,県内大手業者の平均的な底上げをもたらした,と結論づけられる.

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