- 著者
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竹中 克行
- 出版者
- 経済地理学会
- 雑誌
- 経済地理学年報 (ISSN:00045683)
- 巻号頁・発行日
- vol.55, no.1, pp.65-83, 2009-03-30
- 被引用文献数
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世界有数のワイン生産国スペインは,1980年代以降,EU(EC)共通農業政策による生産制限や新大陸産ワインとの競争といった新たな状況の中で,高品質化と製品の差別化による販路拡大を模索してきた.本稿では,そうしたワイン産業の質的転換に地理的呼称制度が果たした役割について,小規模な原産地呼称が多数成立したカタルーニャ自治州の場合に即して検討した.まず,地理的呼称制度の中で,呼称保護や品質管理といった保証の側面に焦点を当て,同自治州の12の原産地呼称に関する分析を行った結果,産地のイメージや風味の違いを競争資源とする付加価値の創出に一定の効果を与えたことが明らかになった.他方,地理的呼称制度による生産地域画定は,大規模生産者の事業展開にとってはしばしば制約要因となるので,そうした規制の側面についても,代表的な大手生産者を事例として分析した.その結果,大規模生産者は,保証・規制のレベルを異にする地理的呼称の複数のカテゴリを併用したり,複数の原産地呼称に生産拠点をつくるなどの方法で,生産地域画定による縛りを巧みに回避しつつ,付加価値の向上にかかわる地理的呼称制度の利点をいかしていることが判明した.