著者
竹中 克行
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.121, no.4, pp.650-663, 2012

Since its beginnings, geography in Spain has followed a particular development course, defined mainly by a close and ever evolving relationship between academic geography and professional geography. Over the last few decades, the two geographies have been mutually involved, creating a situation in which the professional practice of geography, originating with cartographers and engineers in the late nineteenth century, has become an increasingly important factor for the renewal of academic research, mostly undertaken in universities. Innovation was possible, on the one hand, thanks to the consolidation of academic geography, which today concerns not only traditional areas of knowledge, but also fields where there is growing social demand, such as environment, landscape management, regional planning, urbanism or risk analysis. All these themes, on the other hand, have opened up new professional opportunities for geography graduates, who have been contributing with their practice in administration and private enterprises to make more people aware of the importance of geography as a useful science.<br> The fruitful relationship between the two geographies briefly described above is the main concern of this article, which introduces a mixed approach of science historiography and radiography. After analyzing the evolution of academic geography through doctoral theses and major journals specialized in geography, the author highlights the role of professional geography, focusing on how geographers are entering in new fields of the labor market and are defending their interests as a professional group. The analysis is complemented by reference to successive new plans of studies launched in university geographical education, an important reform accelerated by the so-called Bologna process. The article concludes by pointing out some of the research lines that have great potential for future development with international repercussions.
著者
竹中 克行
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.65-83, 2009-03-30
被引用文献数
1

世界有数のワイン生産国スペインは,1980年代以降,EU(EC)共通農業政策による生産制限や新大陸産ワインとの競争といった新たな状況の中で,高品質化と製品の差別化による販路拡大を模索してきた.本稿では,そうしたワイン産業の質的転換に地理的呼称制度が果たした役割について,小規模な原産地呼称が多数成立したカタルーニャ自治州の場合に即して検討した.まず,地理的呼称制度の中で,呼称保護や品質管理といった保証の側面に焦点を当て,同自治州の12の原産地呼称に関する分析を行った結果,産地のイメージや風味の違いを競争資源とする付加価値の創出に一定の効果を与えたことが明らかになった.他方,地理的呼称制度による生産地域画定は,大規模生産者の事業展開にとってはしばしば制約要因となるので,そうした規制の側面についても,代表的な大手生産者を事例として分析した.その結果,大規模生産者は,保証・規制のレベルを異にする地理的呼称の複数のカテゴリを併用したり,複数の原産地呼称に生産拠点をつくるなどの方法で,生産地域画定による縛りを巧みに回避しつつ,付加価値の向上にかかわる地理的呼称制度の利点をいかしていることが判明した.
著者
竹中 克行
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.24-24, 2010

I.遺産都市タラゴナ タラゴナは,スペイン北東部カタルーニャ自治州の地中海に面する都市である.州都バルセロナの南西約85kmに位置し,人口は13万8千人(2008年),内陸側に近接するレウスともにカタルーニャ第2の都市圏をなしている.タラゴナには,フランコ体制期(1939~1975年)に開発された大規模石油化学コンビナートとともに,スペイン5指に入る国指定管理港湾があり,これらが地域の産業・雇用にとって重要な基盤を提供している. 他方,郊外中心で進められた産業地区・住宅開発とは裏腹に,歴史地区にあたる面積約18haの上手地区は,長期にわたって行政の施策から置き去りにされ,著しい生活環境の悪化を経験した.本報告が注目するのは,1980年代に始まる歴史地区再生に向けた動き,なかでも歴史文化遺産に与えられた意味である. 古代ローマの属州の都,タラコを起源とするタラゴナには,きわめて豊富な考古遺跡が残されている.とくに上手地区は,神殿・属州フォルム・競技場の3大要素がおりなす古代タラコの中枢部を継承する空間である.考古遺跡には,博物館ないしオープンスペースの一部を構成するものもあるが,現実には,大部分が地下に眠ったままか,後世の建造物の礎石や壁の一部をなしている. このような考古遺跡の特性は,遺産保護をめぐるタラゴナの都市政治に複雑な問題を提起している.報告では,(1)考古遺跡を中心とする歴史地区の遺産化,(2)遺産保護が生活環境整備に与える制約,という主に2つの側面から考察する.II.歴史地区の遺産化 1993年に制定されたカタルーニャ文化遺産法のもとで,タラゴナは,市全域にわたって考古学遺産の指定を受けた.とくに上手地区に関しては,中世以降の建造物を含めて,全域が歴史的建造物群とされ,さらに,文化財の個別指定を受けている地区内の建造物は約100件にのぼる.国から文化政策に関する権限を移譲されたカタルーニャ自治州によって,独自の地域・歴史認識を背景にもつ遺産政策が始まったのはこの頃である.2000年,タラゴナ古代ローマ遺跡群はUNESCO世界遺産に登録され,上手地区だけでも,属州フォルム・競技場と市壁の3件が登録対象となった. 現在のカタルーニャ自治州の遺産保護政策では,考古学遺産に指定されているエリア内で建物の建替え・大規模改修を行うさいには,開発者の負担で発掘調査を実施しなければならない.調査の結果,学術的・文化的価値のある遺跡が発見された場合は,開発者に対して保存の義務が課せられる.遺跡調査・保護にかかわる制度的要請ゆえに開発に一定のブレーキがかかるなかで,博物館,市民センター,文書館など,行政自らが上手地区の建物を活用する事例は着実に増えてきた.また,民間投資の面でも,デベロッパーが採算性を見込んだ不動産が,賃貸アパートメントなどの形で選択的に更新されている.考古遺跡の存在に注目し,これを一種の付加価値として積極的に活用する事業者も現れた.III.遺産保護と生活環境整備 他方,1985年,都市計画マスタープランの下位計画に位置づけられる上手地区特別計画が策定され,減築とオープンスペース創出を基本とする,行政による地区の生活環境整備が始まった.注意すべきは,居住者向けの生活環境整備に対して,先述の遺産保護政策が,建造物取壊しなどをめぐって,しばしば矛盾する力を加えているという点である.古代遺跡に限らず,中世以降の建造物も含む歴史地区の建造環境全体を保護しようとする自治州の遺産保護政策が,市主体の都市計画への制約要因としてのしかかっているからである. とはいえ,遺産保護と生活環境整備を単純な対立関係でとらえることはできない.実際,生活環境の改善に主眼をおく都市計画においても,遺跡への眺望を重視した広場の改修や古代都市の構造に合わせたカラー舗装など,訪問者の視線を強く意識した事業は少なくない.また,それらの公共事業を引き金として,民間投資による都市空間の化粧直しも進んでいる. 更新された賃貸アパートメントに住む若い専門職・教員,オープン工房に市民を集める職人・アーティスト,毎年台詞を変えながら大祭りの人気の出し物となっている「婦人と老人の踊り」など,上手地区の新しいダイナミズムを示す局面はけっして少なくない.そうした動きには,文化行政が創り出す大きな遺産の物語だけでなく,都市の顔たる歴史地区にさまざまな蓄積された価値を見いだす,よりミクロな市民の視点が深くかかわっている.
著者
竹中 克行
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.121, no.4, pp.650-663, 2012-08-25 (Released:2012-09-03)
参考文献数
27

Since its beginnings, geography in Spain has followed a particular development course, defined mainly by a close and ever evolving relationship between academic geography and professional geography. Over the last few decades, the two geographies have been mutually involved, creating a situation in which the professional practice of geography, originating with cartographers and engineers in the late nineteenth century, has become an increasingly important factor for the renewal of academic research, mostly undertaken in universities. Innovation was possible, on the one hand, thanks to the consolidation of academic geography, which today concerns not only traditional areas of knowledge, but also fields where there is growing social demand, such as environment, landscape management, regional planning, urbanism or risk analysis. All these themes, on the other hand, have opened up new professional opportunities for geography graduates, who have been contributing with their practice in administration and private enterprises to make more people aware of the importance of geography as a useful science. The fruitful relationship between the two geographies briefly described above is the main concern of this article, which introduces a mixed approach of science historiography and radiography. After analyzing the evolution of academic geography through doctoral theses and major journals specialized in geography, the author highlights the role of professional geography, focusing on how geographers are entering in new fields of the labor market and are defending their interests as a professional group. The analysis is complemented by reference to successive new plans of studies launched in university geographical education, an important reform accelerated by the so-called Bologna process. The article concludes by pointing out some of the research lines that have great potential for future development with international repercussions.
著者
中塚 次郎 竹中 克行 横山 正樹 ヒガ マルセーロ 立石 博高 金七 紀男 山道 佳子 宮崎 和夫 川上 茂信 砂山 充子
出版者
フェリス女学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

地域の形成にはたんに経済的要因や地理的要因だけではなく、その地域に流入してきた人間集団の存在や、そこから出ていった移民たちの意識などが重要な役割を果たしている。たとえば、EU内を移動しそこを生活空間とする一方で、EU外の集団との差異を経験することで、人々はEUをひとつの「地域」と認識する、といった具合にである。このことは、国家内の「地域」にもあてはまる。本研究は、こうした観点を生かしながち、イベリア半島を対象にして、「ヒトの移動」と「地域」形成の関係を、歴史的に分析しようとするものである。共同研究の前提として、まず、大西洋をはさんだ、現代におけるイベリア半島とアメリカ大陸間のヒトの移動を中心にして、統計的な研究、地域意識の形成、移民先での移民の社会的地位といったテーマについて検討した。その後、対象を近代以前にまでひろげ、さらに移動の地域をピレネー山脈をはさんだ、イベリア半島とほかのヨーロッパ地域とのあいだの人の移動にまで拡大して、宗教意識の変容や言語の変化を含む、幅広い視,点から検討を行なった,また、強いられた移動である「亡命」についても、人々の帰属意識の変化の側面から分析を進めた。共同研究の最後に、アジアにおける人の移動を比較検討の対象としてとりあげ、いかなる分析方法が地域研究にとって有効であるか、といった総括的な作業を行なった。
著者
大月 康弘 加藤 博 坂内 徳明 中島 由美 齊藤 寛海 立石 博高 長澤 栄治 大稔 哲也 三沢 伸生 亀長 洋子 堀井 優 竹中 克行 松木 栄三 三浦 徹 栗原 尚子 臼杵 陽 勝田 由美 黒木 英充 堀内 正樹 岩崎 えり奈 青山 弘之 飯田 巳貴
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

地中海世界の歴史において人びとの活動の重要拠点となった「島嶼」に注目し、自然・生態環境に規定された人々の生活・経済空間としてのマイクロエコロジー圏、および当該マイクロエコロジー圏が対外世界と切り結んだ経済社会ネットワークの構造分析を行った。政治的、人為的に設定され認知されてきた「地域」「海域」概念、および歴史的統一体としての地中海世界の存在論にも批判的検討を加えた。