- 著者
-
矢部 直人
- 出版者
- 経済地理学会
- 雑誌
- 経済地理学年報 (ISSN:00045683)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, no.4, pp.292-309, 2008-12-30
- 被引用文献数
-
2
日本における不動産証券化は,バブル経済崩壊後の停滞していた土地市場に資金を呼び込み,流動化を促す手段として使われた.1990年代後半には不良債権処理や資産のオフバランスに伴う不動産の売却ニーズがあり,不動産証券化を通して流入した資金はそれらの不動産の買い手となったのである.不動産証券化スキームの一つであるJ-REITの主なエクイティ投資家は,信託銀行や地方銀行などの国内金融機関および外国人,国内の個人であった.外国人投資家の資金は,大半がロンドン,ニューヨークという金融センター型世界都市を経由していた.J-REITが取得する不動産は,全国スケールでは首都圏に集中しており,なかでも東京23区への集中が顕著であった.J-REIT取得物件の竣工-取得期間の分析からは,東京23区ではJ-REIT向けにマンションと商業施設の開発が進んだことが明らかになった.主な開発主体は中小不動産企業であり,豊富な資金を持つ不動産ファンドへの売却を想定して開発を行なっていたのである.不動産証券投資を通して,東京は海外からだけではなく,国内の地方や個人投資家からの資金も集めている.幅広い投資資金を集める金融商品の一つとして,東京の都市空間が改変されているのである.