- 著者
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久松 英二
- 出版者
- 日本宗教学会
- 雑誌
- 宗教研究 (ISSN:03873293)
- 巻号頁・発行日
- vol.84, no.2, pp.455-479, 2010
ビザンツ末期の一四世紀に正教修道霊性の中心地アトスで始まったヘシュカズムの霊性は、心身技法を伴う「イエスの祈り」の実践と、神の光の観想の意義および正統性弁護のための理論から成り立つ。体位法と呼吸法を伴った「イエスの祈り」は、ビザンツ修道制における静寂追求の伝統上に位置づけられるが、それによって得られる光の観想体験は「タボルの光」という聖書表現をもって解釈しなおされた。次に、ヘシュカズムの理論レベルにおいては、光の観想をめぐる東方キリスト教的な解釈が注目される。その特徴を端的に表現するのが、「働き」(エネルゲイア)という概念で、この概念は光の観想体験の意義および同体験の正統性の説明として機能する。よって、ヘシュカズムの理論は内在や本質の抽象論より、働きや作用のダイナミックな具体論を特徴としている。そのような理論に支えられたヘシュカズムの霊性は、「エネルゲイア・ダイナミズムの霊性」と称してもよかろう。