著者
芹沢 一也
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.87-98, 2010

犯罪や貧困の処遇において,監視や排除,厳罰化など,日本でもアメリカのように抑圧的な手段が強化されているといわれる.そして,このような状況に批判的な論者は,その原因として新自由主義をあげ,それへの敵対と対抗を唱えている.だがはたして,日本に新自由主義的な統治が出現しているといえるのか?本稿は1970年代以来の日本社会の構造的な変容を踏まえながら,90年代以降に起こったのは,新自由主義への統治原理の転換ではなく,日本型安定社会のたんなる崩壊だということを示す.その上で,そうした文脈にある日本の貧困や犯罪処遇の変容について,新自由主義批判を展開することは的外れであるだけでなく,看過しえない危険性をともなうことを主張する.問題は安定社会に代わる社会構想の不在なのであって,今後,社会保障や社会復帰政策を構想する上で不可欠なのは,経済的リソースの配分をめぐって国家と市場との関係性を冷静に思考することである.そのためには,小泉構造改革の誤った総括によって根づいた市場不信と,自民党の利益政治批判によって広まった政治不信をともに払拭する必要がある.

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