- 著者
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須賀 丈
- 出版者
- 日本草地学会
- 雑誌
- 日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.3, pp.225-230, 2010-10-15
全国的な半自然草地の消滅にともない、近年多くの草原性の動植物が絶滅のおそれのある状況に追い込まれている。たとえばチョウ類では、国のレッドデータブック(環境省自然保護局野生生物課)に掲載されている種の多くが採草・放牧・火入れなどの人間活動によって維持されてきた半自然草地または疎林的な環境に依存する種であり、絶滅の危険度の高いランクほどそのような種の占める割合が大きい。このような草原性の絶滅危惧種が温暖・湿潤な完新世の日本列島をどのようにして生き延びてきたのかをあきらかにするため、主に長野県(旧信濃国)をフィールドとして、土壌学・考古学・歴史学などの知見をふまえ、近年および現在の草原性チョウ類の分布データをこれらと照らし合わせることによりその実態を検討した。ここでは特に、近世よりも古い時代に火入れや放牧が半自然草地の維持に果たしていた役割にも焦点をあてることを試みる。またそうした古い時代からつづいてきた半自然草地の利用が、絶滅危惧種となっている草原性チョウ類の現在の分布にも影響を及ぼしている可能性があることを示す。