著者
小山 明日香 内田 圭 中濵 直之 岩崎 貴也 尾関 雅章 須賀 丈
出版者
Pro Natura Foundation Japan
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.27-35, 2020 (Released:2020-09-29)
参考文献数
15

霧ヶ峰高原は多くの絶滅危惧動植物の生息地であり,国内有数の観光地でもある.しかし近年ニホンジカによるニッコウキスゲの被食被害が深刻化し,対策として複数の防鹿柵が設置されている.本研究では,亜高山帯半自然草原での防鹿柵設置による生物多様性保全効果を検証することを目的に,植物・昆虫調査およびドローン画像解析を行った.結果,植物の開花種数,開花数および絶滅危惧種の開花種数はいずれも柵内で柵外より多く,チョウおよびマルハナバチの種数・個体数も柵内で柵外より多かった.また,ドローン空撮画像をもとに防鹿柵内外のニッコウキスゲの花数を計測し,防鹿柵による保全効果をより広域で視覚化した.本成果は,防鹿柵の設置が観光資源植物および絶滅危惧動植物を保全するうえで不可欠であることを示している.
著者
倉田 信彦 蜂須賀 丈博 栃木 宏介 鹿野 敏雄 橋本 好正 森 敏宏
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.569-577, 2016-06-01 (Released:2016-06-17)
参考文献数
19
被引用文献数
2 2

腎移植後に悪性腫瘍の罹患率が上昇することがわかってきたが,手術や周術期管理に関する報告は少なく,周術期の最適な免疫抑制療法,腎機能への影響,術後合併症などはわかっていない.我々は腎移植患者における直腸癌3例,膵腫瘍1例(1例は同時性重複腫瘍)の手術を経験した.周術期に経口摂取が不可能となる消化器癌手術であっても,免疫抑制剤を周術期は静注とし,術後早期に経口へと切り替えることで,特に腎機能を悪化させずに管理可能であった.ステロイド長期内服に伴う創傷治癒遅延,縫合不全などは大きな問題とならなかったが,1例に回盲部炎,クロストリジウム腸炎を認め,免疫抑制剤が関与している可能性があった.感染に対しては,より慎重かつ迅速に対応する必要がある.また,通常とは異なる術後合併症が起こる可能性があるため,移植医療に従事していない科が手術を担当している場合は,密に連携をとって周術期管理を行うべきである.
著者
髙野(竹中) 宏平 中尾 勝洋 尾関 雅章 堀田 昌伸 浜田 崇 須賀 丈 大橋 春香 平田 晶子 石郷岡 康史 松井 哲哉
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 Vol.33(2019年度 環境情報科学研究発表大会)
巻号頁・発行日
pp.49-54, 2019-11-25 (Released:2019-11-22)
参考文献数
14

Velocity of Climate Change (VoCC)とは,気候変動影響評価指標の一つで,生育や産業に適した気候条件を得るために生物や人間活動が移動しなければならない速度を示す。本研究では,基準地域メッシュ(約1 km2)の日本陸域37 万7981 メッシュを対象に,1981?2010 年(現在気候値)と2076?2100 年(将来予測値)の年平均気温を用い,6 気候モデル×3 排出シナリオ×3 つの閾値=54 通りのVoCC を計算した結果,VoCC は36.8?308.6 m/year と推定された。更に,APLAT(環境省の気候変動適応情報プラットフォーム)への実装を想定し,VoCC に加えて位置情報を出力することで,自治体等の様々な主体が地域気候変動適応に利活用する方法を考案した。
著者
須賀 丈
出版者
長野県環境保全研究所
巻号頁・発行日
no.6, pp.45-50, 2010 (Released:2011-07-20)

高山の生物は地球温暖化の影響を受けやすいと考えられている。その実態をモニタリングするため、気象観測拠点のある北アルプス八方尾根の亜高山帯の自然草原で、「モニタリングサイト1000里地調査」に準ずる方法をもちいたチョウ類のトランセクト調査を開始した。2009年の6月から9月にかけて行った調査の結果、11種のチョウが確認され、このうち4種がレッドデータブック掲載種であった。調査時に晴天でない場合もあったが、そのようなデータも記録する価値があると考えられた。広域分布種も含め、記録されたチョウ類は現在の八方尾根と周辺の環境条件をよく反映していると考えられた。
著者
須賀 丈
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.225-230, 2010-10-15

全国的な半自然草地の消滅にともない、近年多くの草原性の動植物が絶滅のおそれのある状況に追い込まれている。たとえばチョウ類では、国のレッドデータブック(環境省自然保護局野生生物課)に掲載されている種の多くが採草・放牧・火入れなどの人間活動によって維持されてきた半自然草地または疎林的な環境に依存する種であり、絶滅の危険度の高いランクほどそのような種の占める割合が大きい。このような草原性の絶滅危惧種が温暖・湿潤な完新世の日本列島をどのようにして生き延びてきたのかをあきらかにするため、主に長野県(旧信濃国)をフィールドとして、土壌学・考古学・歴史学などの知見をふまえ、近年および現在の草原性チョウ類の分布データをこれらと照らし合わせることによりその実態を検討した。ここでは特に、近世よりも古い時代に火入れや放牧が半自然草地の維持に果たしていた役割にも焦点をあてることを試みる。またそうした古い時代からつづいてきた半自然草地の利用が、絶滅危惧種となっている草原性チョウ類の現在の分布にも影響を及ぼしている可能性があることを示す。