著者
三ツ井 崇
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学総合研究所紀要 (ISSN:13405942)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.1, pp.275-294, 2008-12-25

「三年峠」説話は、日本に古くから豊富な資料があるのに比べ、韓国には近代以降の文献に現れる。中世期の両国の記録意識や文化的な背景とも関係するため、どちらが源流であるかの断定は難しい。本研究では源流問題よりも両国の資料に見られる差異に注目した。元々は地名の伝説が、韓国では死の危機を逆発想で克服する民話的思考を、日本の方は死と関連する俗信と呪術の伝説的談論へと発展してきた。それ故日本では暗くて影があるのに比べて、韓国では明るくてはつらつとしている。これは両国間の記録文化の違い、または心性史的な違いに起因したものと見られる。〈有鬼観〉が優勢だった日本と違って、儒教的な実証主義と〈無鬼観〉が優勢であった韓国の中世では俗信や呪術と関連したお話が文献に定着しにくかった。このような文化的背景から韓国では民話志向の笑い話の「三年峠」が日本では俗信中心の「三年坂」の伝説としてそれぞれ伝承の過程で強調されたのではないかと思われる。

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