著者
宮内 [サトシ]
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
no.80, pp.59-66, 1990-07-31
被引用文献数
1

本稿は,島根半島の突端にある美保神社において各種の祭儀に用いられている特異な屋根型の蓋をそなえた辛櫃について論考したものである。その結果,筆者は次の諸点を明らかにした。(1)四つの形式の辛櫃があり,細部の構造は異なるが,屋根型の蓋,格子組,内箱という構成において一致していることを指摘した。(2)同様な構成をもつ茶弁当,具足櫃,長持など数点の伝世品を提示,近世の絵画・文献資料にも記録されていることを確認した。(3)第1の特徴である屋根型の蓋は,近世の参勤交代などにより発達した全天候型の装置であり,格子組は内箱を保護することはもとより,みだりに手を触れることを拒否する一種の結界であり,きわめて丁寧な運搬方法のための用具であることを指摘した。(4)美保神社の辛櫃の諸特徴は,近世において発達した運搬具類との高い類似性が認められる。切妻型の屋根や格子は高温多湿のわが国の風土の中で生まれた建築的語彙であり,美保神社の辛櫃は,建築が家具に影響を与えた1列であることを指摘した。

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