- 著者
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西川 潮
- 出版者
- 日本生態学会
- 雑誌
- 日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.3, pp.303-317, 2010-11-30
一般に、キーストーン種とは、自身の生息個体数の増加に対し、影響力が格段に強くなる高次捕食者を言い、これが生態系から消失(もしくは加入)すると、群集構造が大きく変化する。古くは、Paine(1966,1969)が、ヒトデ捕食者(Pisaster ochraceus)が潮間帯の群集構造の維持形成において主要な役割を果たすことを発見し、ヒトデをキーストーン捕食者と呼んだことからこの用語が使われるようになった。近年では、キーストーン種の概念は、捕食者のみならず、生産者や分解者、生態系エンジニアなどにも適用されている。しかしながら、ある環境下でキーストーン種となる生物であっても、他の環境では、固有の役割を持たない、群集構成メンバーの一員に過ぎないこともある。生態系には、その消失に伴い機能的役割が他生物によって置き換わる生物と置き換わらない生物とが存在するため、キーストーン種を判別する上で、その系における機能的役割の固有性と影響力の強さの双方が重要なポイントとなる。動物と植物の両方を摂食する雑食、および生態系エンジニアは、栄養効果や非栄養効果を通じて複数の栄養段階に直接効果や間接効果を伝播させることから、機能的役割の固有性が高く、また生態系への影響力も強いことが想定される。本稿では、最初にキーストーン種の定義について再考するとともに、ニュージーランドの河川において、雑食、ならびに生態系エンジニアとしての役割を併せ持つ在来ザリガニが、落葉分解や生物間相互作用の面で主要な役割を果たしていることを明らかにした一連の研究を紹介する。